テラーノベル
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その夕方、トワノから渡されたトモエのスマホにイオンから電話が入った。ホワイト・リズムの事務所でその日の事務仕事の片づけをしていたトモエが出ると、イオンが普通の口調で言って来た。
「トモエちゃん? ねえ、これから一緒にどっかで晩御飯食べに行かない?」
トモエはすぐにヒミコの言葉を思い出した。そういう電話がイオンからかかって来るとヒミコは行っていた。トモエは社長のデスクに座っているヒミコに聞こえるように大声で答えた。
「いいよ。で、どこに行く?」
スピーカーモードにしたスマホからイオンの声が響く。
「新宿三丁目のファミレス。今春のイチゴフェアやってるんだって。これは食べなきゃ。七時に伊勢丹の前でどう?」
ヒミコが大きくうなずいて見せたので、トモエは普通の会話を装って返事をした。
「うん、いいよ。じゃあ七時だね」
そして午後七時、デパートの入り口前でトモエが待っていると、マウンテンパーカーを着たイオンが小走りで近づいて来て、いきなりトモエに抱きついた。
「やっほう、昨日ぶり」
いきなり抱きつかれて体を密着させたイオンにトモエが戸惑っていると、耳元にささやくイオンの声が鋭くなった。
「尾行されてる。適当に話を合わせて」
思わず息を呑んだトモエの手を取って、イオンはウキウキした様子を演じながらファミレスへ向かった。店内に入ると、イオンは前後両方が空いているボックス席を選んで向かい合わせに座り、注文したイチゴパフェが来ると美味しそうにパクついた。
トモエも同じ物をスプーンで口に運んだが、緊張で味が分からなかった。出がけにヒミコから教えられたセリフを思い出しながらトモエはイオンに話しかけた。
「で、バイトの面接どうなったわけ?」
イオンがことさら大声で答えた。イオンの真後ろの席にスッと若い男が座った事にトモエは気づいた。イオンはあっけらかんとした口調を装って言った。
「へへえ、採用されたよ。当分お金には困らなさそう」
「そうなんだ。で、どんな仕事?」
「それは秘密。あの面接のおじさんからも誰にも言っちゃいけないって言われたし」
「ええ、いんじゃん。あたしにも教えてよ」
「だめだめ。約束なんだから。バイトでもそういう事はちゃんと言われた通りにしないと」
それからしばし、二人はいかにも今どきの若い女性がしそうな、食べ物や芸能人の雑談をしていた。突然イオンが言った。
「あ、そう言えば、あのエステサロンもう行った?」
想定していなかった質問に、トモエは一瞬戸惑ったが、必死に話を合わせようと頭をフル回転させた。ようやく無難なセリフを思いつき、口に出した。
「え? 場所まだ教わってないよ」
「あ、そうだった。今お店のチラシあげるからね」
そう言ってイオンはポケットから名刺ぐらいの大きさのチラシを何枚か取り出し、乱暴な手つきでめくり始めた。手が滑った風を装って、数枚のチラシをトモエの前のテーブルにぶちまけ、チラシはテーブルから床に落ちた。
「わあ、ごめん。そっちに落ちちゃった。悪い、拾ってくれる?」
トモエがソファとテーブルの脚の間に体を潜り込ませると、目の前に靴を脱いだイオンの右足が突き出された。足の指には折りたたんだ厚い紙がはさまれていた。
トモエはすぐにピンと来て、その髪をスカートのポケットに仕舞い、チラシを拾ってテーブルの上に顔を出した。
チラシを受け取ったイオンは何食わぬ顔で、一枚を抜き出してトモエの前に差し出した。
「ここ、ここ。今度みんなで行ってみたら?」
会計を済ませて二人が店を出ると、さっきイオンの真後ろに座っていた若い男が二人を追って出て来た。トモエとイオンが、バイバイと互いに手を振って別れたのを見届けると、男はビルの陰に入り、スマホで電話をかけた。男は相手に向かって話し始めた。
「今別れました。一緒に面接に来たっていう女のダチでしたよ。ええ、そこは大丈夫です。馬鹿正直にしゃべっちゃいけねえって言いつけ守ってましたよ。ありゃ見かけ通りの、ただの馬鹿女ですよ」
事務所に戻ったトモエは、イオンから渡された折りたたまれた紙をヒミコに渡した。ヒミコが紙を広げて見ると、細かい文字でびっしりと何かが書かれていた。小さく折り畳んだ写真も一枚中にはさんであった。
ヒミコが内線電話でトワノを呼び出し、トワノが駆けつけると紙を手渡して言った。
「この内容を確認してや。トモエ、他のみんなが帰って来たら地下に集合するよう伝えなはれ。やはりアタリだったようやで」
コメント
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第35話、めっちゃスリリングだった!イオンが尾行されてるって耳元でささやくシーン、一気に緊張感が走ったわ。ファミレスでの連携プレー、特にチラシを落として足の指で紙を渡すところ、頭良いしドキドキした。トモエも咄嗟に合わせててナイス対応。ヒミコの「アタリ」って締めも、次が気になる展開で最高だった👀