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事件解決
ああ、アンナの作った飯が食いてえ……。
こないだの事件から、調理は彼女が来る前のように当番制に戻ってしまった。
あの美味さは兵団の誰にも真似できない。
肉は硬いし、少し臭みも残るし、野菜も煮込みすぎるとしなしなになって色も悪くなる。
どうしたらあの味が作れるんだ?
どう下処理をすれば肉があんなに柔らかくなるんだ?
死んだ母さんにも、あの美味い飯を食べさせてやりたい……。
「ところでエレン、アンナに会いに行くの?」
アルミンの問いに、はっと我に返る。
「ああ、そうだな」
一昨日はアルミンが地下牢にいるアンナに会いに行ったらしい。
昨日はクリスタが面会に行って、時間差でユミルも行ったそうだ。
地下牢へと続く階段を降りていくと、途中でミカサとすれ違った。
「あ、エレン…アンナに会いに行くの?」
「おう。…アンナどうだった?」
「泣いてた。具合悪くなった人たちのこと心配して、申し訳ないって」
そう話すミカサも、アンナが泣いているのを見て貰い泣きしたのか彼女と別れた後で泣いたのか、服の袖で目元を拭っている。
「アンナのこと、慰めてあげてね」
「…ああ」
地下牢に着くと、こちらに気付いたアンナが柵のほうへと寄ってきた。
『エレン、来てくれたんだ……』
「おう。…その、大丈夫か?」
もう少し気の利いた言葉はないのかよ。
『…大丈夫じゃない。私のせいでこんなことになって……。たくさんの人に苦しい思いさせて、自分は平気なんて。申し訳なくて涙が出ちゃう…』
弱々しく言ったアンナの目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちて、石造りの床に水玉模様を描いていく。
「お前のせいじゃねえよ!絶対お前は悪くない!みんなお前のこと信じてるから、また厨房に戻ってきて美味い飯作ってくれよ!」
俺はアンナの手をぎゅっと握った。
…ほんとだ。アルミンが言ってたように、すごく冷たい。
『エレン…ありがとう』
アンナも手を握り返してくれた。
初めて会った日に握手を交わした時は気にならなかったけど、とても華奢な手をしていた。
そして、顔も少しやつれたように見える。
優しいアンナのことだ。自分を責めて苦しんでいるのだろう。
アルミンも言っていたが、俺も今回の件はアンナの仕業じゃないと思う。
きっと別の誰かが仕組んだんだ。
証拠なんてないけど。
「あ、そろそろ時間だ。…アンナ、俺たちみんなお前のこと待ってるから。…休める時はちゃんと休めよ?」
『うん。ありがとう、エレン』
そう言ってアンナは、いつものに近い笑顔を見せてくれた。
それから、事態は急展開を迎えた。
壁外調査に出ていたリヴァイ兵長やミケさんたちが戻ってきて、今回の事件の原因究明に協力してくれた。
あの日、アンナが作った料理の一部が保存されていて、兵団の上層部によって体調不良を訴えた兵士の食事の残りも保存されていた。
ミケさんが双方の匂いを嗅いで、なんと後者のほうに毒が混入していたことが発覚。
更に信じられないことに、その毒の出どころ…というか持ち主を嗅覚で突き止めてしまったんだ。
マジですげえ。犬かよ……。
万が一の時の為に、アンナはいつも、食事の一部を少しずつ取り分けて数日間保存していた。
それもアンナの潔白を証明する手助けをしたんだ。
犯人は、俺たちより数期前に入団した女兵士だった。
ミケさんに匂いで突き止められ、更にその背後には刃を手にしたリヴァイ兵長に睨みつけられ、あっさりと罪を自白したらしい。
動機は嫉妬とのことだ。
突然現れて調査兵団に保護され、調理や裁縫だけしてみんなからちやほやされているアンナが気に食わなかったんだそうだ。
あの日、アンナが調理を終えて、次に使う食材を食料庫に取りに行っているほんの数分の隙を見て、どこかしらで手に入れた毒をランダムに食事に混ぜたらしい。
アンナの希望で、彼女は犯人と顔を合わせることはなかった。
牢に入れられても文句は言えないことをした犯人だが、これまたアンナの希望でそれは免れた。
でも、調査兵団にとって許せない事件を起こした犯人だ。
審議の結果、兵団を追放され、開拓地へと送られることになったらしい。
その翌日、地下牢から開放されたアンナを、大勢の兵士が大喜びで出迎えた。
次々に抱き締められ、もみくちゃにされているアンナは、牢の中で見せたのとは違う涙を流して笑っていた。
真っ青だった頬も、いつもの綺麗なピンク色に戻っていた。
「アンナ、事情聴取の為とはいえ、地下牢なんかに閉じ込めて申し訳なかった。どうか許してくれ。それから、勝手なことを言っているのは重々承知だが、また厨房に戻って美味しい食事を作ってもらえないだろうか?」
エルヴィン団長の言葉に、
『はい!私でよければ喜んで!ありがとうございます!』
と、嬉しそうに、ほんとに嬉しそうに笑った。
「「「「「うおおぉぉぉ!!」」」」」
その場にいた兵士経ちも歓喜の雄叫びをあげて大盛り上がりだ。
そして再びアンナをもみくちゃにする。
よかった。
ほんとによかった。
俺もみんなに混ざって、アンナを力いっぱい抱き締めた。
つづく