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碧斗が私の心を揺さぶるようなことを言い出したのは、花火の打ち上げが途切れた時だった。
「あの二人って、なんかあるのかな」
やっぱり彼も何かを感じ取ったのだろうかと思いつつ、私は平静を装おいながら訊き返す。
「どうしてそう思うの?」
「だって、柚乃のやつ、あの人に対してやたらと頑なっていうか、冷たいっていうか。嫌っているというよりも、むしろあの人を意識しているように見えるんだよな」
まるで柚乃を分析するようなことを碧斗は言う。なぜかそこには、不安だとか嫉妬だとかの、柚乃に対する生々しい感情が感じられない。
「なんだか結構淡々としてるんだね」
彼は不思議そうに首を傾げる。
「淡々って何の話?」
「柚乃を取られちゃうかもしれない、とか思ったりしないのかな、って」
夜という時間帯のせいか、イベントの開放感のせいか、頭に浮かんだ言葉そのままが口から出てしまった。それは、私の不安の吐露でもある。
碧斗はきょとんとした。
「取られる?」
「だから、柚乃が戸崎さんに、ってこと」
「はぁ?」
碧斗は瞬きを繰り返し、私をまじまじと見る。
「今の、どういう意味?」
「そのまんまの意味だけど」
「そのまんま?」
碧斗はしばらく首を捻って考えていたが、はたと動きを止めて私の顔をのぞき込んだ。その顔には苦笑が浮かんでいる。
「まさかとは思うけど、もしかして何か勘違いしてる?例えば、俺が柚乃を好きだと思ってる、とか。だから、『取られる』なんていう言葉が出たりしたのか?」
「違うの?」
私は即座に訊き返した。
「……うそだろ」
脱力したように碧斗は肩をがくりと落とした。
「全然、まったく違うから。そりゃあ、柚乃のことは好きだよ。だけどそれは、例えば姉とか妹とか、もしくは親友っていう感じの好きであって、恋愛的な意味の好きとは全然別物だよ」
「そう、なの……?」
私はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「でも私、今までずっとそうだと思って、二人のことを見てたんだけど……」
「何度も言うけど、違うから。だいたい、どうしてそんな風に思ってたわけ?」
「だって……」
私はもじもじしながら答える。
「私に対する時と柚乃に対する時じゃ、碧斗の態度が違って見えたんだもの。だからてっきりそうなのかな、と。柚乃といる時の碧斗は、いつもすごく楽しそうなのに、私といる時はそうでもない感じだったし」
「えっ……」
碧斗は絶句し、私を見つめたまま動きを止めた。
どうしてそこまで驚くのか不思議に思ったが、この際だからとばかりに、これまで胸の中に畳んできたことを全て吐き出す。
「私に向ける碧斗の笑顔は、笑ってはいるけど本心からのものじゃないようで、いつもどこか微妙だった気がする。話している時も、なんだか薄い壁でもあるようで、よそよそしさみたいなものを感じる時があったし。あぁ、そうだ。いつだったかは、手を振り払われたわね」
「いや、だから……」
慌てる彼に私はくすりと笑う。
「あの時のことは、全然気にしていないんだよ。ただ、あれも、好きな人以外には触られたくないからかなぁ、って思ったんだよね」
「あれは」
碧斗が何か言いかけたが、ちょうど花火が打ち上げられた。
その音に引かれるようにして、私は夜空に目を向ける。
「あの花火、ハート型に見えるね」
「おぉ、ほんとだ」
そのまましばらくは二人して無言で花火を眺めていたが、再び空に黒色が戻った時、私はあることを彼に訊ねてみたくなった。
「碧斗の好きな人は、柚乃じゃないんだよね。ということは、好きな人って別にいるの?」
「な、なんだよ、随分唐突だな」
碧斗はうろたえた。しかし、私をちらりと見てから視線を空に戻して答える。
「いるよ。俺の片想いだけど」
「告白もまだってこと?」
「あぁ」
「ふぅん……。ねぇ、どんな人?」
碧斗は立てた膝に腕を乗せ、口元に笑みをはく。
「可愛い人だよ。性格もいいし」
「へぇ。同じ大学の人とか?」
「いや、違う」
「私も知ってる人だったりする?」
碧斗は困ったように首を傾げる。
「さぁ、どうかな……」
「その言い方、なんだか気になる」
「まぁ、話せる時が来たら話すよ」
碧斗はこの話を続けるつもりはなさそうだった。
それならば、私ももうこれ以上の詮索はやめることにする。
「碧斗の気持ち、通じるといいね」
「あはは。そうだな」
碧斗の笑い声はどこか乾いて聞こえた。もしかしたら、碧斗の恋も先行き不透明だったりするのだろうかと想像し、仲間を得たような気分になった。とは言え、碧斗の方は、初めての恋になす術もない状態にある私とは一緒にされたくないかもしれない。そこで、今さらではあるが、大事なことに気づく。
「ねぇ、それなら、あんまり私たちとは遊ばない方がいいんじゃない?その人に誤解させちゃったら、まずいでしょ」
「大丈夫」
碧斗はやけにきっぱりと断言した。
「大丈夫じゃないと思うけど」
「いや、大丈夫なんだ」
「ふぅん?」
どんな根拠があるのか分からないが、そこまで碧斗がはっきりと言うのならと、私はそのことについて触れるのをやめた。
「ただいま」
柚乃の声が聞こえて、私は首を回した。
「お帰りなさい。ラムネ、買えた?」
「うん。ばっちり」
柚乃から買い物袋を受け取りながら、私は姉の背後に目をやる。ここまで着いてくるだろうと思っていた戸崎の姿がない。
「戸崎さんは?柚乃が転んだ時、戸崎さんが気づいて駆け寄ってたよね?その後二人で屋台の方に歩いて行ったから、買い物を終えたらここまで一緒に来るものだと思ってたんだけど」
「帰ったよ」
柚乃は私と視線を合わせないまま答え、レジャーシートに上がり込んだ。
私は姉の様子に違和感を抱いた。けれど、戸崎が帰ってしまったことの方に気を取られる。
「そっかぁ。帰っちゃったんだ」
できることならもう一度、ひと目だけでも戸崎の顔を見たかったと思い、私は二人に気づかれないようにそっとため息をついた。
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