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怖いけど優しい奴 壱
孫悟空(ソンゴクウ)と猪八戒(チョハッカイ)、黒風(コクフウ)は、拐われた源蔵三蔵(ゲンゾウサンゾウ)を探しに行こうとしたが、孫悟空等に襲撃を仕掛けて来た謎の男に足止めを食らっていたー
孫悟空等と離れ離れになった源蔵三蔵の目の前には、丸サングラスを掛けた謎の男が座っていたのだった。
孫悟空ー
男は猪八戒を見て、言葉を発した。
「お前、元は人間だろ?」
「「っ!?」」
コイツ、一目見ただけで分かったのか?
俺と猪八戒は男の言葉を聞いて驚きを隠せなかった。
「しかも、下界の人間じゃなくて”元天界他人(テンカイビト)“って所か。」
男はそう言って、煙管を咥え煙を吐き出した。
吐き出された白い煙が俺と猪八戒、黒風を取り囲んだ。
俺と猪八戒は自然にお互いの背中を合わせた。
黒風は咄嗟に俺の体に抱き着いて来た。
怒鳴ってやろうかと思ったが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
男の姿も見えないし、何か仕掛けてくる可能性が高い。「どうして、コイツが元人間だって分かった?」
俺はそう言ってから、如意棒を握り直した。
「何でって?匂いがしないからねー。」
「なっ!?」
男はそう言って、猪八戒の首元に顔を寄せた。
驚いた猪八戒は素早く弾き金を引いた。
バンッ!!
「ッチ、手応えがねーな。外したか。」
猪八戒は少し苛々しながら短い舌打ちをした。
「俺の煙の中では、攻撃は通じないよ。」
声はするのに姿が全く見えない。
煙管から吐き出された煙を操る妖か。
なら、姿が見えないのは納得が行く。
「姿が見えないのは厄介だな…。無駄に攻撃をすると相手の思う都合だな。」
「煙を操る妖…。も、もしかして貴方は菅狐(クダギツネ)ですね?」
黒風がハッとした表情をしながら、言葉を発した。
*菅狐とは、イタチとネズミの中間のような小動物で名前の通り竹筒に入る程の大きさの妖怪。個人より家に取り憑く事が多く人間にとっては害のない妖怪である*
「菅狐…?聞いた事もねぇな…。」
「煙を操る狐の妖なんです。悟空さんが知らないのは当然だと思います。」
俺と黒風が話していると、男が話に入って来た。
「へぇ、俺の正体を一発で当てたのは君が初めてだなぁ。ま、俺はそんなに有名じゃないから、知らないのは当たり前なんだけど。」
煙を操るだけで、攻撃はしては来ないな。
「菅狐は戦闘向きじゃないですから、攻撃はしてこないはずです。」
黒風が俺の耳元で囁いた。
「頭の迷惑になる奴等なら、ここで殺すしかないけど。」
男がそう言うと、煙の中から数体の煙で出来た狐が現れた。
「どうする?悟空。」
「煙を払うしかねーだろっと!!」
猪八戒の問いに答えた俺は、如意棒を振り回した。
ブンブンッ!!
如意棒を擦り抜けようとしている煙を振り払っていった。
「うっわ!?何、その棒?俺の煙が…。」
煙がなくなった空間に男の姿がなかった。
「あの野郎はどこに行った!?」
「頭に呼ばれたから失礼するねー。まぁ、また会うとは思うからその時は宜しくねー。」
男の声は聞こえたが、既に男の気配はなくなっていた。
「何だったんだよあの男は…。つ…っ。」
右手首に痛みが走った。
緊箍児(キンコジ)が光ながら、右手首を強く締め付けていた。
「おい、大丈夫かって…。その腕どうした?」
「大丈夫ですか!?」
猪八戒と黒風は俺の右手首を見て驚いていた。
それもそうだ。
右手首が鬱血していたからだ。
どうして急に緊箍児が反応したんだ?
もしかして、三蔵と離れた事が原因なのか?
「その腕輪、外せないのか?これ以上したままだと腕がやばそう…。」
猪八戒はそう言って緊箍児に触れようとした瞬間だった。
ビリビリッ!!
緊箍児が猪八戒の指を弾いた。
「いたっ!?なんか指がビリビリしたんだけど!?」
「三蔵以外に触れねーのかもしんねぇ。」
「三蔵だけ…って?」
俺は猪八戒に五行山(ゴギョウザン)での出来事を話した。
「つまり、悟空が自由に動く為にその緊箍児を着けたって事か。観音菩薩(カンノンボサツ)が絡んでたとは…。あの人はどこまで読んでるんだ…。」
猪八戒はそう言って溜め息を吐いた。
黒風は天地羅針盤を出し、三蔵のいる位置を調べていた。
「黒風。三蔵の居場所は分かったか。」
「やはり、流沙河(リュウサガ)にある1番大きい洞窟に三蔵さんがいます。この白い光がそうです。」
黒風は羅針盤に映し出された白い光を指をさした。
「ここからだと、かなり距離があるな。海の上に立ってるのか?この洞窟。」
「はい。海の1番深い所に立っているみたいです。」
「はぁ…?船とかで行かねーと行けないじゃん。」
黒風と猪八戒が話しているのを黙って聞いていた。
右手首が痛過ぎて話に集中出来ていなかった。
クッソ…。
めちゃくちゃ痛てぇ…。
早く三蔵と合流しないと、俺の右手首が落ちそうだ。
「お前、真っ青だぞ。大丈夫…な訳ないよな。動けるか?」
猪八戒はそう言ってから俺の背中に手を回した。
「厄介な物を着けちまった…。鬱陶しいったらない。」
「だろうな。」
俺は猪八戒に支えられながら店を出た。
「悟空さんっ、今日は休んだ方が良いんじゃ…。」
黒風が心配しながら俺に声を掛けて来た。
返事をしようとたが、俺の体がグラッと揺れた。
ガシッ!!
倒れそうになった俺の体を猪八戒が力強く支えた。
だが、俺の意識は飛んでいたらしく猪八戒と黒風が何度も声を掛けてきたらしいが俺は気が付かなかった。
一方、その頃ー
源蔵三蔵 十九歳
ん?
コイツ、今…。
俺の事をガキって言ったか?
「おい、聞いてんのかクソガキ。」
青髪の男がそう言って俺の顔を覗き込んで来た。
「今、俺の事をガキって言ったか?」
「あ?お前しかいねーだろ。ゴフッ!!」
ゴンッ!!
青髪の男の言葉を聞いた俺は、男の顔面に頭突きを食らわした。
「いってぇ…。何すんだこのガキ!!」ガバッ!!
顔を押さえながら男が俺の服の胸元を掴んだ。
「テメェこそ、俺の事をクソガキ扱いしただろ!?当然の報いだ!!」
「あぁ?!ガキをガキって言って何が悪い!!俺よりクソガキだろうが!?」
「俺はガキじゃねー!!」
「うるせー!」
俺と男の言い合いは暫く続いた。
何だろ…。
この感じを前にもどこかで感じた事がある。
どこでだ?
悟空の時とは違う懐かしさを感じる。
初めて会ったはずなのに…。
チャリンッ…。
そんな事を考えていると、鈴の音が耳に届いた。
音のした方に自然を向けた。
そこにいたのは青い瞳の黒猫が立っていた。
黒猫の首元には金色の鈴が光っている。
綺麗な黒猫だな…。
「沙悟浄(サゴジョウ)。意地悪するのはおやめなさいな。」
上品な女性の声の主はこの黒猫だった。
よく見ると黒猫の尻尾が2本あった。
あ、猫又(ネコマタ)なのか。
*猫又とは、猫の妖怪で山の中にいる獣と言われるモノと、人家で飼われている猫が年老いて化けるモノと2種類ある*
沙悟浄って呼ばれていたけど、この男の事か。
「あ?玉(タマ)。帰って来てたのか。」
沙悟浄はそう言って優しく玉と呼ばれた猫を抱き上げた。
「えぇ、今さっき。」
「そうか。」
丸サングラス越しだが、玉を見る沙悟浄が優しげだった。
「ごめんなさいね。沙悟浄ってば口が悪くて。」
玉は俺の方を見ながら謝って来た。
「ガキと言われた事は水に流す事にしますよ。」
「何か上からだなお前。」
「それで?俺を連れて来た理由は?」
俺はそう言って沙悟浄を見つめた。
「あ?俺と島に知らねー顔の奴等がいたから。」な、何だその理由は…。
とんだ暴君じゃねーか…。
「お前、暴君過ぎる。」
「あぁ?」
「俺を連れて来たんだから殺すんだろ。」
カチャッ。
俺はそう言って霊魂銃を構えた。
「その銃は…、霊魂銃?こんな子供が持ってるなんて思ってもみなかったわ。沙悟浄、貴方でもあの銃には勝てないわ。」
玉はそう言って沙悟浄を見つめた。
「だとよ。」
沙悟浄は言葉を放ちながら俺の後ろを見つめた。
スッ。
首元に冷たい感触がした。
何か刺さってる…。
俺の後ろに誰か立ってる。
「少しでも動いたら首元を切る。」
女の声が耳に届いた。
「それはそっち側の行動次第だろ。」
「アンタ、頭に向かって生意気。」
チクッ。
首元にチクッと痛みが走った。
コイツ、刺しやがったな?!
「おい、陽春(ヨウシュン)。首に刺さってんぞ。」
「だ、だって。コイツが頭に向かって!!」
「いいから下げろ。」
「うっ…。はい。」
女はそう言って首元を刺した短剣を下ろした。
ザァァァァ…。
ザァァァァ…。
波の音がする。
ん?
波の音がするって…。
「沙悟浄とやらよ。」
「あ?何だよ。」
「波の音がするのですが、ここはどこでしょうか…。」
「何故、急に敬語?どこって、海の上だけど。」
「へ?」
俺がそう言うと、沙悟浄が窓を開けた。
ブワッ。
塩の香りが風と共に鼻を通り抜けた。
俺は思わず窓の方に走り出し身を乗り出した。
バッ!!
下を見ると青色の海が見えた。
本当に海の上に立ってる!?
ブルブルッ!!
冷たい風が俺の体を震わせた。
さっむ!!?
寒過ぎ!!
しかし、この建物…。
かなり高いな…。
ここから飛び降りたら大丈夫そうな高さじゃない。
あんまり高い所から海に飛び込むと、怪我するってお師匠が言ってたな。
けど、ここにいても殺される可能性が高いし。
一か八かだが、降りるしかない!!
そう思った俺は、窓に足を掛け飛び降りようとした瞬間だった。
「か、かか頭!!窓、窓!!」
女が慌てて沙悟浄に声を掛けた。
「あの馬鹿!!」
ドタドタドタドタッ!!!
追い付かれる前に飛び降りないと!!
窓の外に身を乗りし、窓から飛び降りた。
ガシッ!!
誰かが俺の腹を抱き締めた。
周りには白い煙が集(タカ)っていた。
「君、ここから落ちたら死ぬよ?」
男の声がした。
沙悟浄とは違う声だ。
白い煙の中から現れたのは黒髪で赤い瞳をした男だった。
俺は男に連れられ、さっきまでいた部屋に戻された。
「この馬鹿!!」
ゴンッ!!
頭に激痛が走った。
沙悟浄の拳が俺の頭上に落ちて来たのだった。
「いってぇー!!何すんだ、この野郎!!」
「それはこっちの台詞だ!!お前、死にてーのか!?」
「死にたい訳ないだろ!?俺にはやる事が沢山あるんだ。ここで殺されるくらいなら逃げ出すに決まってんだろ。」
俺はそう言って沙悟浄を見つめた。
沙悟浄は俺の顔を見て一瞬だけ驚いた顔をした。
そして、すぐに真顔に戻った。
「頭。どうすんのこのガキ。」
赤髪をベースに毛先は黒でグラデーションになっていて、長い髪を三つ編みにして束を4つに分けてあり、色白な肌に緑色の瞳が映えていた。
そして、露出度が高いチャイナドレスを着ている女が現れた。
恐らくだが、陽春と言う女だろう。
「暫くここで預かる。だからコイツに手を出すなよ。陽春、影を使ってコイツを監視しろ。」
「分かった。妙な真似をしたら殺すから。」
「あぁ。それで良い。」
この女は影を操るのか…。
「お前は黙って暫くここにいろ。さっきみたいな事をしたら殺すからな。」
沙悟浄はそう言って俺を睨んだ。
「お前って、優しいのか優しくないのか分からない奴。」
「ハッ。生意気な口が聞けるならどこも怪我はしてないな。」
「へ?」
「来い。飯を食いに行くぞ。」
「め、飯?」
「さっさと来い。」
沙悟浄は扉を開けて先に廊下に出た。
「ほら、早く頭について行かないと迷うよ。」
「緑来(リョクライ)!!コイツに優しくしなくて良いわよ!!」
緑来と呼ばれた男はさっき、俺の事を助けた男だった。
「この高さから飛び降りたの君が初めてだよ。」
「は、はぁ…。」
「それに、君の仲間もかなり強いね。頭から呼び出されなかったら死んでたね。」
「悟空達に何かしたのかお前!!」
俺はそう言って緑来に近寄った。
「アハハハ!!俺は何もしてないよ。時間稼ぎしただけだし。」
「お前等!!さっさと来い!!」
廊下から沙悟浄の大きな声がした。
「あ、頭がそろそろ怒りそうだし行こうか。」
緑来はそう言って、陽春を宥めながら部屋を出て行った。
「悟空達…、大丈夫かな。」
俺は窓の外にある月を見て呟いた。