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それからエーファは犯人が見つかるまでの間王宮で過ごすことになった。
犯人がまたエーファに危害を加えるかもしれないからだ。
魔法を使えなくなってしまったエーファはもうただの少女。
実家にルイーザとアンドリュースという魔法使いはいるが、王宮の方が強い魔法使いが大勢いるし警備も堅く安全だ。
エーファは申し訳なくて帰りたかったが、何度言ってもクラウスに止められたので、渋々王宮で暮らすことにした。
そして事務仕事だけでもやらなきゃなとエーファが漏らしたところ、まだ休んでいろとクラウスにも見舞いに来たビアンカにも止められた。
頭痛や倦怠感、吐き気はまだあるが熱は下がっていたので、エーファは仕事をしなくてはいけないと思っていた。
仕事をするのも止められてしまい、エーファはこの上なく申し訳ない気持ちになった。
仕方なくエーファは本を読んで過ごすことにした。
それからあっという間に一週間が経った。
しかし、犯人探しは行き詰まっていた。
手がかりが少ないのだ。
エーファの身体に呪いがかけられていたという痕跡はあるものの、誰がかけた呪いなのかという顕著な特徴がない。
仕方ないので王家に雇われている高位の魔法使い全員を尋問し、それぞれの自宅や職場などを調べた。
もちろん国仕魔法使いであるビアンカ、ディートヘルム、ベルントの三人も調べられたが、特にこれと言った証拠などは出てこなかった。
可能性のある人物を全員調べ終わってしまい、捜査は行き詰まってしまったわけなのだ。
次に調べるなら貴族や平民などの国民だが、 調べても魔法が使えないふりをされる可能性もあるし、何より数が多すぎて埒が明かない。
そんな中の深夜。
エーファは魔導書を竜胆宮に置き忘れていることを思い出し、取りに行った。
今すぐどうしても必要というわけではなかったが、魔法が使えない今だからこそ魔法を忘れないために読まなければならないと思ったのだ。
深夜でも取りに行ったのは、魔導書を置き忘れていることを思い出している内に行こうと思ったからだ。
エーファは燭台を手に携え、暗い廊下を歩く。
廊下には、エーファの足音だけが響いていた。
静かだ。
溶け込んでしまいそうなほど静か。
エーファは世界にたったひとり取り残されたような気持ちになる。
と、数分して竜胆宮に着いた。
鍵がかかっているかもしれないと思っていたが、幸いにもかかっていなかった。
良かったと思いながらエーファが扉を開けようとしたその時、中から物音がした。
エーファの胸の内でぴんと糸が張り詰める。
エーファは扉の隙間から中を覗いた。
中ではベルントが棚の本を何冊か手に取り、並び替えている。
まさか、とエーファが思うと、本棚が音なく動き、下へ続く階段が現れた。
エーファの家に、似たような仕掛けをした本棚がある。
アグネスの日記やアグネスが著した魔導書などをしまっている部屋がその先にあるのだ。
魔法使いの自宅でこういうのを仕掛けるのは珍しくないが、まさかベルントが竜胆宮に仕掛けていたとは思わなかった。
ベルントが階段を降りていき、エーファは音を立てないよう着いていった。
階段には所々明かりは置いてあるが薄暗い。
それになんだか不気味だ。
五分ほど階段を下りると、一つの部屋に辿り着く。
エーファは驚いた。
少し奥の方に机と椅子があり、脇には大量の魔導書が収められた棚と、何かの液体を入れた小瓶が飾られるように置いてある棚があった。
液体は黒いような青いような澄んだ色をしている。
夜空のような色だ。
あれが恐らく……。
そうわかると、エーファの中で怒りが湧いた。
犯人がこんな近くにいたとは。
ベルントが犯人なら、こんな巧妙な呪いを使えるのも納得がいく。
呪いが正式に禁じられたのは約三十年前だ。
それまで呪いを教える魔法使いは大勢いた。
禁止になってからは全員断罪されたが。
もちろん今でも、所謂裏ルートというものを使えば、呪いの使い方が載ってある本を手に入れることはできる。
しかし、よほどの才能がなければ、それこそアグネスやエーファほどの才能がなければ、本で極められる限界はたかが知れている。
ベルントはエーファほどの才能はないから、やはり呪いの師がいたのだろう。
と、ベルントが振り返った。
いつも無表情だった老いぼれた顔には、馬鹿にするような笑みが浮かべられていた。
エーファはキッとベルントを睨む。
「これはどういうことですか?ベルントさん」
ベルントは笑みを浮かべたまま言った。
「儂は、平民が国仕魔法使いになるというのはいかがなものかと思うのだ、エーファ。卑しい平民が、誇り高き国仕魔法使いに。わかるだろう?」
……やはりそれが動機か。
ベルントは続ける。
「儂は優しいだろう?魔力を奪う程度に抑えて。魔力を奪ってしまえば貴様は絶望して国仕魔法使いをやめると言い出すと思ったのだがな……。……生意気な小娘だ」
その瞬間、ベルントの顔から笑みが抜け落ち、エーファは魔法で縛られ、ベルントの前まで引っ張り出された。
エーファが振りほどこうとしても、エーファを縛り付ける魔法はびくともしない。
ベルントは殺気を放っていた。
エーファは怯まずベルントを睨む。
「貴様は儂がここで始末する。国仕魔法使いに殺されるだけ光栄だと思え」
エーファは絶体絶命の危機に追い込まれた。
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