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エーファが部屋を抜け出した後、クラウスは仕事を終わらせて彼女の部屋に来ていた。
エーファには秘密にしているが、クラウスは一日に何回か部屋を訪れて、彼女の安否を確認していたのだ。
エーファが王宮で過ごし始めてから毎夜部屋にいたから大丈夫だと思うが、深夜こそ油断してはならない。
クラウスは警戒して彼女の部屋に向かったが。
「ウィルズリー様は竜胆宮に私物を取りに行かれました」
部屋を見張る守衛の一人にそう言われ、クラウスは走ってすぐに竜胆宮に向かった。
少し忘れ物を取りに行くだけだからと思ったのだろうが、せめて守衛一人だけでもつけてほしかった。
竜胆宮には鍵がかかっておらず、中に入ると、本棚があったはずの場所は開かれ、地下への階段が続いていた。
クラウスは何事かと驚いたが、躊躇わず階段を駆け下りた。
数分して一つの部屋に出た。
部屋には魔法で縛られたエーファと、殺気を放つベルントがいた。
クラウスは驚愕した。
こんな状況になっていたとは。
同時にベルントへの憎しみが湧く。
よくも彼女を。
ベルントはクラウスに気づき、目を見張る。
「殿下!」
ベルントの声にエーファは振り向いて、少し安堵した。
助けが来た……!
しかしすぐに気を引き締め、クラウスに言った。
「殿下、あの小瓶を!」
エーファの声にクラウスが部屋の脇の方を見ると、 何かの液体が入った小瓶が置いてある棚を見つけた。
クラウスはエーファに頷き、棚に駆け寄る。
ベルントが魔法を繰り出そうとしている内にクラウスは小瓶を手に取り、地面に投げつけた。
すると小瓶は割れ、もくもくと黒いような青いような煙が立ち上り、エーファを包む。
エーファの身体にはみるみる魔力が戻っていき、最終的に元通りの魔力量が返ってきた。
ベルントは驚き、魔法を仕掛けようとするが、 エーファが自分を縛っていた魔法を解き、反対にベルントを魔法で拘束した。
そして動けないようにベルントをうずくまらせる。
一瞬でなされた業だった。
クラウスはふとエーファの方を見て背筋がひやりと冷たくなった。
彼女は驚くほど冷酷な目をしていたのだ。
ベルントを軽蔑し、憎む目。
もはやその目だけで殺せそうだった。
あのいつもにこにこ笑っている少女と同一人物かと疑うほどだ。
圧倒的な実力差を見せつけられ、ベルントは諦めざるを得なかった。
と、クラウスははっとしてエーファに歩み寄る。
「大丈夫か?怪我は?」
クラウスが話しかけると、エーファはいつものようにクラウスに笑った。
先程の目が嘘のようだ。
「大丈夫です!怪我はありません」
エーファの元気な声を聞き、クラウスはほっと安堵した。
彼女に怪我の一つでもあれば今この場でベルントを斬り殺していたかもしれない。
「……間に合って良かった」
クラウスの呟きにエーファは笑みを深める。
「助けに来てくださってありがとうございます」
エーファの心からの礼に、クラウスは笑みを浮かべて頷いた。
そうして一連の出来事は幕を閉じた。
ベルントはその後終身刑を科せられることになった。
エーファに危害を加えたためクラウスは即行処刑にしようとしたが、バルトロメウスはベルントがこれまでの四十年間国仕魔法使いとして国に奉公したことを考慮し、最終的に終身刑になった。
そして騒動が終わってすぐにエーファは仕事に復帰しようとしたが、例の二人に加えディートヘルムやバルトロメウスにまで止められてしまい、エーファは休まざるを得なかった。
エーファの二週間の療養休暇が明けてからしばらく経った時のこと。
「オズボーン公爵令息からのご依頼、ですか?」
オズボーン公爵家は社交序列第一位、つまり、ヴィルアーゼ王国においての最大貴族だ。
ヴィルアーゼ王国が建国した時から歴史を歩んできた、由緒正しき名家。
そんな大貴族が国仕魔法使いに依頼とは。
普段困った時は専属の魔法使いに頼るはずだから、よほどのことがあったのだろう。
ビアンカはオズボーン家からの手紙を片手に頷いた。
「光栄なことに、あんたをご指名よ。明日にでも来てほしいって仰せだわ。良かったわね」
ビアンカは口を尖らせて拗ねたように言う。
エーファは自分が指名されたことに驚いた。
わざわざ指名をもらった仕事は初めてだった。
それはありがたいことだが、明日にでもとは大変急だ。
何があったのだろう。
そんなに急いでいるならすぐに向かわなくては、とエーファは明日訪ねることにした。
翌日。
エーファはオズボーン公爵邸を訪れた。
最大貴族とだけあって王宮の次に立派な屋敷だ。
エーファが馬車から降りると、一人の青年と大勢の使用人たちがエーファを出迎えた。
青年は爽やかな笑みを浮かべる。
「待っていたよ、レディウィルズリー。僕はフリードリヒ・オズボーン。よろしく頼むよ」
雪のような肌、輝く金髪、若葉色の瞳、形の整った鼻と唇。
背はすらりと高く、クラウスと同じくらいだ。
なるほど、この人が公爵令息か。
エーファはにこやかに一礼した。
「お初に御目文字仕ります。国仕魔法使いエーファ・ウィルズリーです。此度はご指名をいただき大変光栄でございます。力の限りを尽くしますので、よろしくお願い申し上げます」
フリードリヒは笑みを深め、軽く礼を述べた。
そのままエーファは中に案内された。