コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
暫くすると、車の音は階を重ねるごとに大きく響く。
「ほら、離れてください!」
行方は強引に二宮を振り払うと、車はそのまま犯人を轢き、四階から飛び降りてしまった。
「えっ……!? 轢き……?」
「いえ、アレは恐らく物質を貫通する能力の持ち主が仲間にいるのでしょう。四階から飛び降りたのに物が全く壊れていないのがその証拠です。そして、飛び降りたのに爆発もしていないと言うことは、地面操作…若しくは車などの物質の形状を変えられる能力者もいますね。仲間は最低でも四人いると考えていいでしょう」
「ちょっと……!!」
そして、二宮は怒りを露わに、行方の胸ぐらを掴む。
「ご高説ありがとう!! でも、アンタのせいで犯人取り逃しちゃったじゃないの!!」
行方は、「ハァ……」と、深い溜息を落とす。
そして、乱雑にその手を引き剥がす。
「僕、乱暴な人、嫌いなんですよね」
そして、徐にスマートフォンを取り出した。
「貴女も能力を使用してしまった。最後まで付き添わせなければ犯罪者……。仕方ないですから、同行を許します。これを見てください」
そう差し出したスマートフォンのグーグルマップには、道路上に赤い点がポツポツと点滅されていた。
「何よ……グーグルマップ……?」
「はい。この赤い点が犯人の位置です。発信機を取り付けました。ハナから、我々の狙いは犯人の確保ではなく、強盗団全員の確保でしたから」
スッと立ち上がり、行方は再び電話を掛ける。
「あ、はい。行方です。ちゃんと指示通りです。このルートなら、A番台の倉庫でしょうね。分かりました」
そして、静かに階段へと向かう。
チラッと、二宮を伺う。
「来ないの?」
少し小っ恥ずかしそうに、二宮は応える。
「いっ……行くわよ……!!」
階下へ降りると、二人乗りのバイクがあった。
「はい、これ君の分。ちゃんとヘルメット被ってね」
「バイクで移動……」
「また異能の行使でもする?」
「分かったわよ……!」
二宮は乱雑にヘルメットを受け取った。
ブゥン……と、行方は全く急ぐ様子を見せず、キッカリ時速40kmをキープして運転する。
この厳守振りに、二宮は少し慣れ始めており、そこはもうツッコまないことにした。
「ねえ、別に私は大丈夫だけど、アンタは私に異能は使わせない気でしょ? 無能力者って言ってたけど……アンタ勝てるの……?」
「大丈夫です。その為に先程、電話を入れました」
「異能探偵局……? 聞いたことないけど……」
「まあ、基本水面下の仕事なんで」
そうして、二人を乗せたバイクは静かに犯人たちが屯するA番台の倉庫へと辿り着いた。
「ちょっと! 誰も来てないじゃない!!」
そして、露骨に項垂れる様子を浮かべる行方。
「仕方ないです。異能警察もすぐ来るでしょうし、もう逃げられないように車に細工を……」
「やっぱ来たな〜? あそこまで追って来たんだ……。しつこく来ると思ってたぜ〜?」
犯人はニヤニヤした顔を浮かべると、四人……いや、更に倍の八人の姿がそこにはあった。
「ちょっと……! 八人もいるじゃない!」
「 “最低でも” ……って言ったじゃないですか……。ハァ……待ち伏せされてることは予想外でしたが……」
犯人グループは、細柄の男を前に出す。
「ショット! ぶち殺しちまってもいいぞ……!」
犯罪を犯す者たちは、万が一の時の為、自分たちをコードネームで呼び合う。
ショットと呼ばれた男は、指をピストルの形にする。
「まさか……ピストル……!? アンタ……危ない!」
「アハハハハハ!! もう遅い!! 俺様の爪は弾丸のように発射される!! 死ね!!!」
そして、音もなく、ショットの爪は弾き出される。
パチン!
その瞬間、行方を透き通り、背面のコンクリートに弾丸は当たった。
「ちょっと、遅いですよ」
「あははは〜……ごめんごめん……」
そう言って駆けつけてきたのは、檻の中に閉じ込められている男と、ツインテールの少女だった。
「えぇ……!? ヤバい人来たけど!?」
「あぁ、大丈夫です。彼らが応援の探偵局員です。ヤバいですけど」
そう言いながら、行方は檻に近付いていく。
「ヤバいですよ、考え方も……“能力” も……」
そして、次の瞬間、銀行強盗の主犯は、男の入っていた檻に閉じ込められていた。
犯人の仲間たちも動揺を隠せずにいた。
そして、また次の瞬間、大柄の男もその場からいなくなり、別の人間がその場には現れた。
「何が……起きてるの……?」
「あの檻にいたヘラヘラしてる人は、僕の専属の上司。夏目夏人さん。胃能力は『ワープ』」
そして、夏目が出現させた眼鏡の男は、自らの拳を岩石に変えると、犯人グループを次々気絶させて行った。
「急に現れたあの眼鏡の人は、夏目さんの同僚に当たる人で、異能力は『トランス』」
「や、やってらんねぇよ……! 俺は逃げるからな……! お前らの言いなりになってただけだし……!」
一人が裏手から逃げ出そうとした瞬間、ツインテールの女の子は、その男を睨み付ける。
「そんで、個人的にはあの子が一番怖い」
そう言うと、男はみるみる内に石化してしまった。
「異能力『メデューサ』」
そして、迅速に犯人グループは取り押さえられた。
「いや〜、お手柄だったね! 行秋くん!」
「夏目さん、ホント遅刻癖直してください。僕、あの独特の檻の音が聞こえて来なかったら死ぬところでした」
「本当に、コイツには自覚が足りんのだ!」
「春ちゃん……。相変わらずお堅いな〜……」
「春木春臣だ!! ちゃん付けするな!!」
暫くすると、異能警察が駆け付け、身柄を受け渡す。
そんな中、二宮はモジモジと近付いた。
「おや……君は『火炎放射』さんだね。こんな有名人とどこで知り合ったの? 行秋くん」
「え、有名人なんですか。めちゃくちゃ足手纏いでしたけど」
「悪かったわね!! で……あの……話なんだけど……貴方たちみたいな、探偵のお仕事すれば、その……異能の行使も許されるの……?」
「犯人を殺さない、犯人に重傷を負わせない、他の人たちを巻き込まない、それらが可能なら出来るよ」
「おい夏目……コイツ高校生だぞ……」
「いいじゃないか。若さは力だ。それを善良なことに使おうとしている。素晴らしいじゃないか!」
異能は、二十歳を超えてから、年齢と共に力を落として行くとされている。
その為、高校生が一番その力の恩恵を受けられる。
「それに、日本No.2だぞ! 凄いじゃないか!」
褒められ慣れていない二宮は、少し戸惑いながら顔を真っ赤にさせていた。
「別に……夏目さんがいいなら……いいと思います。でも一つだけ聞いておきたい」
そして、行方は二宮の前に立ち尽くした。
「お前、どうしてそんなに力を使いたいんだ」
二宮は、顔を赤くしたまま真っ直ぐな瞳で答えた。
「ヒーローになりたいの! かっこいい、優しい、誰のことも助けられるようなヒーローに!!」
その大きな声は、点々とした倉庫に鳴り響く。
「そうか」
そう言うと、行方は静かにバイクに跨り帰宅した。
「へぇ……。行秋くんが認めたか。君、この仕事に才能あるかも知れないね。明日、この住所に来てよ。まずは適性検査と研修から始めるからね」
「は、はい……」
そして、夏目から一枚の名刺を受け取った。
夏目と春木は仲が悪いらしく、帰路でガミガミ言い合っている様子が、二宮の目に鮮明に映った。
「オシッ……!」
二宮は、人知れず握り拳を強く、握りしめた。