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父上に話して協力を仰ぎたいところだが、それはダメだ。だって。
「双子の王子の存在は、イヴァル帝国の中でも限られた人しか知らない。俺はフィーを知っていたし、しつこく詰め寄ったからイヴァルの大宰相も認めた。だが隣国が隠していることを、身内だからとペラペラと話すわけにはいかない。それに俺は父上を信頼していない」
「俺には話したではないか」
「伯父上のことは信頼しているからだよ。それにこの先、俺とフィーの味方になってほしいからな。父上は…俺の味方になるとは限らない」
「そうか、そんなに信頼してくれていたのか。嬉しいぞ。だが妻にするために、フィルさんを一度は城に連れ帰って、王に紹介するつもりだったのだろう?」
「フィーが隣国の王子だということは隠すつもりだった。さっさと紹介して妻にして、王城を出てここに来るつもりだったんだ」
「なるほどな」
伯父上が俺と自分のグラスに酒を注ぐ。
グラスの中で揺れる紫色の液体を見つめながら、俺は腕を組んで考えた。
必ず迎えに行くと約束したが、まずは何をすればいいだろう?やはりイヴァル帝国の中でフィーの血縁者を捜し出すべきか。その前に今回の隣国訪問について父上に報告するべく、一度王城に戻った方がいいよなぁ。その時に、隣国の新女王を妻にしたいと言ってみるか…?
「そろそろ休むか?疲れただろう」
「そうだな…。あ、ところで伯父上、ゼノとジルはどこへ向かったんだ?調査だとか言ってたけど、なにか問題が起きたのか?」
「ふむ…。二人の報告を聞いてから話そうかと思っていたのだが、聞きたいか?」
「ああ、気になる」
伯父上は、しばらく無言でグラスの中の液体を見ていたが、グラスを持ち上げて一口飲むと、真剣な顔で俺を見た。
「俺の領地で不審な動きがある。気づいたのはひと月前だが、もっと前からあったようだ。早く調べに行かなければと思っていたのだが、時間がとれなくてな。ちょうどゼノが来てくれてよかった。ジルから話を聞いて、気にしてくれたのだろう」
「不審な動き?なにがあった」
「おまえの話に比べれば、大したことではない」
「だけどここは俺にとっても大切な場所だ。俺も伯父上の力になりたい。教えてくれ」
「リアム…」
不審な動きとはなんだ?
ここは王都がある領地に隣接している。それに右端にはイヴァル帝国との国境もある。バイロン国の中で二番目に大きな領地だ。
そんな大きな領地を所有する貴族の娘だったのだから、母が王である父の妃になることに支障など何もない。充分につり合う身分だった。
だが王族の血縁者だという第一王妃は、俺や母に冷たかったよな…とふと思い出して、忌ま忌ましさに顔をしかめた。
「話すからそんな顔をするな」
険しい俺の顔を見て、伯父上が勘違いをしている。
伯父上の領地で何か問題が起こっていることも忌ま忌ましいが、母に辛くあたっていた嫌いな王妃のことを思い出して、嫌な気持ちになっただけだ。
俺が「違う。第一王妃のことを思い出してムカついてたんだよ」と笑うと、「ああ」と伯父上も笑った。
「あの方は驚くほど気性が荒かったな。一人で耐えていたアリスから無理やり話を聞き出した時は、怒りで全身が震えたわ」
伯父上が苦笑しながら言う。
その時のことは俺も覚えている。
王城に来ていた伯父上が母と俺の元へ訪れ、笑顔で迎えた母の小さな変化に気づき、しつこく聞いて第一王妃にいじめられていることを聞き出した。そして剣を掴んで出ていこうとする伯父上を、母と侍女が必死で止めていたな。
あの時の伯父上の剣幕はすごかったと思い出していたら、嫌な気持ちが消えた。
俺は伯父上に身体を向ける。
「話が逸れた。それで?なにがあったんだ?」
「おお、そうだった。おまえの話を聞いた後では話しにくいのだが…。イヴァル帝国との国境近くの村で、盗難が起きている」
「盗難?賊か?」
「俺も初めはそうかと思ったのだが違う。あの村には、宝石が採れる山がある。だから王都から兵を出してもらって警護している。賊は寄りつくこともできない」
「なら村人か?」
「それも有りえない。宝石が採れ、薬草も栽培していて裕福な村だ。貧しい者がいない。盗む必要などないのだ」
「では誰が…」
「それを今、調べに行ってもらっている。すぐに解決できればいいのだが…。さて、俺は眠くなってきたぞ。そろそろ部屋に戻る。また明日な。おやすみリアム」
「わかった。おやすみ」
伯父上は立ち上がって背伸びをすると、扉の結界を解いて出ていった。
まだ眠くはないが、ベッドで仰向けになる。頭の下に両手を置いて、天井の模様をぼんやりと眺めた。
俺も大変だが伯父上も大変だな。考えなければならないことがたくさんある。ゼノが戻って来たら、王城に戻って父上に会おう。父上は、イヴァル帝国の王が代わったことを、少しは気にしているはずだ。新王の動向を調べるという名目でイヴァルに潜入する許可をもらい、フィーの血縁者のことを調べよう。かなり遠い血縁者でもいい。銀髪の女が見つかれば。
そこであることに思い至って跳ね起きた。
血縁者の女を作るのに、一番簡単な方法がある。フィーの子供を作ることだ。フィーに女の子ができれば、その子が王となる。だがそんなことは我慢できない。フィーが俺以外の誰かと繋がるのか?嫌だ。ラズールだってそうだろう。それにまだフィーは若い。今すぐどうこうってことはないだろうが、いずれはその可能性も出てくる。悠長にしている時間はない。できる限り早くフィーを迎えに行かなければ。
悶々と考え込んでいるうちに眠ってしまった。
疲れている上に酒を飲んだせいで深く眠っていたらしく、目が覚めると翌日の昼を過ぎていた。