若井は、震える指先で涼ちゃんのカバンのファスナーをそっと開けた。
――ごめん。ほんとにごめん。でも、確かめなきゃいけない。
胸の奥がひどく重くて、呼吸が浅くなる。
勝手に人の持ち物を見るなんて最低だと分かってる。
だけど、最近の涼ちゃんの体調、表情、声のかすれ、食事が喉を通らない様子…
すべてが、放っておいていいはずがなかった。
中から取り出した薬の袋が、かすかに触れただけでカサッと音を立てた。
若井は一度目を閉じた。
――開けたら戻れない。
――もしこれが…俺の想像通りのものだったら。
心の奥がぎゅっと痛む。
それでも、涼ちゃんのためなら、嫌われたっていい。
そう覚悟を決めて、薬袋をそっと開く。
中には、見覚えのない白い錠剤。
“抗…”という見慣れない文字がラベルの端に見える。
若井の胸が一気に締めつけられた。
――やっぱり…。
――涼ちゃん、そんなに辛かったの…?
喉の奥が熱くなり、涙が滲む。
「……ごめん、涼ちゃん。でも、もう放っておけないよ。」
若井は袋を丁寧に戻しながら、罪悪感で胸が押し潰されそうになった。
だけど、それ以上に“知ってしまった責任”が、確実に彼の背中に重くのしかかっていた。
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