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明くる日、やっぱりこの世界は狂っていると確信する。

いつも通り妹の夢来みらいと一緒に登校したのだが、道中で俺を見かけたクラスメイトや隣のクラス連中から昨日の事を根掘り葉掘り尋ねられたのだ……。


『アイドル研修生とはどうだった?』だの『今日の切継きりつぐアンチ・ライヴについての情報は何か聞いてないか?』とか、『体育館が全面封鎖の立ち入り禁止らしいぞ。会場準備のためだったらアンチ・ライブは体育館でやるのかもな!』などなど。なかには『絶対あの可愛い双子なら魔法少女デビュー確定だろ! そんな子達とちょっとでも同じ空間にいれたとか幸せ者だな』、『羨ましい』なんて言い出してくる輩もいた。


もちろん地獄だったという本音は、作り笑顔の仮面で隠した。


『親切だよなぁ、わざわざ鈴木の体調不良を気にして、事務所に連れてってまで看病するなんてさ』『小さいのにシッカリしてるよね』『あの子たちがデビューしたらし変しちゃいそー!』


なんて、はしゃぐ奴らを尻目に俺は違和感が拭えない。

魔法少女アイドルに関する情報の広まりが早すぎるのはいつもと変わりない。


俺が気になったのは、双子の妹に殴り殺された大志たいしの事だ。


誰も奴に関して触れてこないのだ。

どうしても気になって、さりげなく『大志たいしのやつ、今日は学校に来るのかな』って尋ねてみれば、『誰だそいつ?』『何組のやつ?』『そんな奴より双子ちゃんの話を聞かせろよー』と、まるで大志の存在そのものが消えてしまったかのような反応を示す学友たちに驚きを隠せなった。



「おにぃ……昨日は優一さんと寄り道したって言ったのに……私に嘘ついたんだ」


おまけに大事な妹の機嫌まで損ねてしまう始末。

暗澹たる学園生活の幕開け、そんな兆しを感じた。


教室につくと大志たいしの席はなくなっていた。





「お、鈴木も切継きりつぐちゃんのライヴ見るのかー?」


放課後、さっさと帰宅するために学校の正門へ向かって早歩きをしていた俺に声がかかる。

声の主へと振り向けば、魔法少女ドルヲタの優一だった。奴はグラウンドに集まった切継きりつぐファンという有象無象の中からひょっこり顔を出し、群がる愚民共を押しのけながら、その輪から這い出るように駆け付けてきた。

そんな優一に、俺は素っ気なく返答を放つ。


「いや、直帰だからな。どうして俺がアイドルのアンチ・ライヴなんか見なければいけないんだ」


「お前さ、一応は切継きりつぐちゃんと同じクラスだろー。そこはクラスメイトのよしみって事で……それによぉ、久々にアイドルをこの目で拝もうってわけですよ」


切継きりつぐなら二週間に1回は登校してきてるだろ。目に入れたくないけど、自然と目立つから見る機会はあるし」


「そういう意味じゃないっつの。まぁ、いいからさ、今日は俺と切継ちゃんを見ようぜー? 序列196位の人気アイドルなんだぜ? 見なきゃもったいないでしょうが!」


だからこそだ。

アイドル研修生ですら『人間』一人の存在を完全に抹消できる国家権力と、何らかの力を持っているんだぞ。正規の、しかも序列196位の高ランク魔法少女だったら、もっとヤバそうな臭いがプンプンする。


アイドルが変態を殺し回っているかもしれない。

そんな隠された事実を把握してしまったら、関わりたくないという思いが前より強くなった。



「優一、まさかとは思うが……俺が高序列アイドルのパフォーマンスに感動して、この機を境にまたアイドル好きに戻るかも、なんて淡い期待を抱いてないよな?」


「バレたか」


「そんな事だろうと思った。じゃ、俺は帰るから」


「そんなぁ鈴木ぃ! またアイドルを楽しもうぜぇ、なぁ、あの頃の気持ちはどこにいっちまんだよぉ、俺はまたお前と愛ドルを語り合いたいだけなんだよぉ」


妹が待つ自宅へさっさと帰りたいので、涙目になる優一を放置。

夢来みらいの機嫌を直し、明るい未来を築くのだ。そのための一歩を颯爽と踏み出す事にした。

さらば友よ、お前の涙は3分で忘れよう。



「あれ? おにぃ、帰っちゃうんだ?」


おっと、おっと、おっとおっとっとおおおお!

この非常に麗しく甘美で涼やかな声は……とてもじゃないが汚らわしい下天の人類なんかじゃ出せないプリティボイス! 我が妹にして、女神の夢来みらいじゃないか!


「おぉ、夢来みらい! お前も俺達の家に帰るだろう?」


「うーうん、切継きりつぐさんのライヴ見たいなーって。そろそろだから、見てから帰るつもりだよ」


「そうかそうか、じゃあ俺も一緒に夢来みらいと見ようか」


「えー……」


嫌がってるフリをする妹を、強引にこちらへと引き寄せる。兄妹仲良く水入らずで、放課後にアイドル観賞会をするなんてとても素晴らしい企画じゃないか。

アイドルを見るというのが唯一の汚点だけども、この妹の可愛さの前ではそんな汚れも霞んでしまう。


それにあんな事があった以上、迂闊に大事な妹だけを魔法少女アイドルの前に晒すわけにはいかない。例の双子だって切継きりつぐのバックダンサーとして、ちょっとは出演するらしいしな。

さっさと家に帰すべきだろうが、女神である妹の意見を無視するのは俺の兄力が低く見られてしまう。

ここで一番重要なのは、朝の一件で夢来みらいの機嫌を損ねたフォローに回る、挽回のチャンスを活かしきる事だ。



「おい、鈴木ぃ。なんだよ、その豹変ぶりはよぉ」


後ろで怨みがましく俺を非難する優一をスルーし、俺は妹と一緒に校庭の方へと移動して行った。




魔法少女アイドルの鈴木くん~実は俺だけ男です~

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ほんとに行って大丈夫なのか..?

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