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話す事ないから
スタート.ᐟ.ᐟ
――天宮家。
「転生者へ」
その文字を、あきは何度も見つめていた。
あき「…………」
ちぐ「あきちゃん……?」
ちぐの声が聞こえる。
けれど、あきの頭の中はそれどころではなかった。
「どうして……?」
紙を握る手に力が入る。
「この世界がゲームだと知っているのは、私だけのはず」
『悪役令嬢に恋する乙女』
前世で何度もプレイした乙女ゲーム。
その世界に転生したのが自分だと思っていた。
だから――。
自分だけが未来を知っている。
そう思っていた。
なのに。
『転生者へ』
「……誰よ」
あきの声が震える。
あと「……あき?」
ぷり「大丈夫か?」
けちゃ「顔、真っ青だよ」
まぜ「その手紙……誰から?」
あきは答えられなかった。
そのとき。
ちぐ「あきちゃん」
ちぐが、そっとあきの手を握った。
「……!」
あきが驚いて顔を上げる。
ちぐ「怖いなら、一人で抱えなくていいよ」
あき「……」
ちぐ「私たちがいるから」
「…………」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「私たち」
その言葉が、妙に心に残った。
けれど――。
あき「……あなたには関係ないわ」
ちぐ「え?」
あき「これは私の問題よ」
手を振り払う。
ちぐ「……あきちゃん」
あき「帰るわ」
あと「待って」
あきが振り返る。
あと「一人で帰るつもり?」
あき「そうだけど」
あと「危ないだろ」
あき「大丈夫よ」
あと「でも――」
あき「大丈夫だって言ってるでしょ!」
思わず声を荒らげる。
部屋が静まり返る。
「…………」
あきは自分でも驚いた。
あき「……ごめんなさい」
小さく呟く。
そして、そのまま部屋を出ていった。
* * *
西園寺家へ戻る道。
あきは一人で歩いていた。
「…………」
手紙を取り出す。
『転生者へ』
何度見ても同じ。
けれど――。
紙の裏側に、何かが書かれていることに気づいた。
「……え?」
紙を裏返す。
そこには、小さな文字で――。
『第六話のイベントを覚えている?』
「…………!」
あきの足が止まる。
「第六話……」
ゲームのシナリオ。
あきは必死に思い出す。
「確か……」
ゲーム本編、第六話。
主人公・天宮ちぐが初めて正式に攻略対象たちと交流する回。
そして――。
「……西園寺あきが、ちぐに嫌がらせをする回」
そう。
ゲームの中では、この回がきっかけで「あき=完全な悪役令嬢」という印象が決定的になる。
「でも……」
あきは眉をひそめる。
「私は、何もしてない」
少なくとも今回は。
「じゃあ……」
誰かが、ゲームのシナリオを知っている。
それだけじゃない。
「私が何をしたかまで知ってる……?」
背筋が冷たくなる。
その瞬間――。
「……お嬢様」
「!」
後ろから声がした。
あきが振り返る。
そこには、西園寺家の侍女が立っていた。
侍女「お帰りなさいませ」
あき「……あなた」
侍女「はい?」
あき「今日、私が天宮家へ行くことを知っていた?」
侍女「もちろんです。私がお手紙をお渡ししましたので」
「…………」
あきはじっと侍女を見る。
「じゃあ……」
「誰が、私が天宮家へ行くと知っていた?」
侍女「……?」
侍女は首を傾げる。
「それは――」
その瞬間。
カラン。
何かが地面に落ちた。
「……?」
二人が足元を見る。
そこには――。
黒い羽根が一枚。
落ちていた。
あき「…………」
侍女「お嬢様?」
あきは羽根を拾い上げる。
「これ……」
見覚えがある。
ゲームの中で一度だけ登場した、不吉なアイテム。
『黒鳥の羽根』
――敵キャラクターが残す証。
「……嘘でしょ」
あきの顔が青ざめる。
「まさか……」
* * *
――その頃。
天宮家。
「……あきちゃん」
ちぐは窓の外を見つめていた。
あと「心配?」
ちぐ「うん」
あと「大丈夫だよ」
ちぐ「でも……」
ちぐは胸元を押さえる。
「なんだか、嫌な感じがするの」
ぷり「俺、見に行ってこようか?」
まぜ「一人は危ないよ」
けちゃ「みんなで行った方がいいんじゃない?」
あと「……いや」
あとが立ち上がる。
「俺が行く」
ちぐ「あと?」
あと「さっきの影……」
あとは割れた窓を見る。
あと「俺、あいつを見たことがある」
ちぐ「……え?」
あと「昔、一度だけ」
ぷり「知ってるのか?」
あと「顔は見えなかった。でも――」
あとが拳を握る。
「黒い羽根を持ってた」
「…………!」
まぜ「黒い羽根……?」
けちゃ「じゃあ、さっきの手紙も……」
あと「たぶん、同じ奴だ」
ちぐ「……あきちゃんが危ない」
あと「うん」
あとが玄関へ向かう。
その背中を見ながら、ちぐが呟く。
ちぐ「……どうして、あきちゃんなんだろう」
誰も答えられなかった。
* * *
――西園寺家。
自室に戻ったあきは、机の上に黒い羽根を置いた。
「…………」
そして、ゲームの記憶を必死に探る。
「黒い羽根……黒い羽根……」
ゲーム終盤。
攻略対象たちの前に現れる謎の人物。
正体は最後まで明かされず、続編への伏線だと言われていたキャラクター。
「まさか……」
あきの瞳が揺れる。
「『黒羽の男』……?」
その人物は、ゲームの中でこう言われていた。
――この世界の運命を知る者。
「でも……」
あきは首を振る。
「そんなキャラ、私が転生した時点では存在してなかった」
つまり。
「ゲームのシナリオが……変わってる?」
その瞬間。
コンコン。
「!」
部屋の扉がノックされた。
侍女「お嬢様、お客様です」
あき「……こんな時間に?」
侍女「はい」
あき「誰?」
一瞬の沈黙。
そして――。
侍女「天宮ちぐ様です」
「…………え?」
あきは目を見開く。
「ちぐが……?」
扉を開ける。
そこには、息を切らしたちぐが立っていた。
ちぐ「あきちゃん!」
あき「どうしてここに……」
ちぐ「……伝えなきゃいけないことがあるの」
「何?」
ちぐは真剣な顔であきを見つめる。
そして――。
ちぐ「私ね」
「昨日、夢を見たの」
あき「夢……?」
ちぐ「うん」
ちぐの手が震える。
「その夢の中で――」
「あきちゃんが、死んでた」
「…………」
あきの表情が凍りつく。
ちぐ「そして、その隣に……」
ちぐが震える声で言った。
「黒い羽根を持った男の人が立ってた」
――運命が。
少しずつ、ゲームのシナリオから外れ始めていた。
終了.ᐟ.ᐟ
おつむぅ.ᐟ.ᐟ
コメント
1件
おつむぅ!第6話読んだよ〜! 『転生者へ』の手紙であきが動揺するところ、すごく引き込まれた!「自分だけが知ってる」って思ってたのに、ゲームシナリオを知ってる別の存在がいるって焦りと恐怖が伝わってきた。黒い羽根の伏線もちょっとゾクっとする…。 ちぐが「あきちゃんが死んでた夢を見た」って言い出すラストはマジで震えた。運命が変わり始めてる感じ、続きが気になりすぎる🔥