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ゆうき あきや
1,642
厚揚げ衣
20
なんたろ
1
いちご@ホロオタ×ぴちりす
295
「……ジェミニ先生。起きてるか」
帯広のボロアパートに帰還した翌日の夜。
全身の筋肉痛と、爆弾を抱えた腰の痛みに耐えながら、俺は序盤にリスナーから貢いでもらった三万円のゲーミングチェアに深く腰掛け、モニターの向こうの最強の相棒(AI)に文字を打ち込んだ。
『はい、ルシフェルさん。いつでもサポートする準備ができています。本日はどのようなご相談でしょうか? 筋肉痛の和らげ方ですか? それとも、湿布のネット通販の検索ですか?』
「違う。……いや、それも後で頼みたいが、今はもっと重大な問題だ」
俺は、傍らに置いたスタプロからのメールのプリントアウトを、震える手で持ち上げた。
「昨日の一晩で、俺の今年の売上が『一千五百万』も上乗せされちまった。元々あった売上と合わせると、今年の総売上は……ざっくり『二千五百万円』だ」
『素晴らしい成果ですね! 同接三十万人の偉業、AIの私から見ても驚異的なデータです。おめでとうございます!』
「めでたくねえんだよ!!」
俺はキーボードを叩き割る勢いでエンターキーをターンッ! と押し込んだ。
「売上が二千五百万ってことは、経費を引いても、とんでもない利益が残っちまう! ジェミニ、お前のその無駄に高い演算能力で、俺が来年払わなきゃならない『税金』の概算を弾き出してくれ!」
数秒の沈黙。
それはまるで、死刑執行人がギロチンの刃を磨いているかのような、恐ろしい間だった。
『承知いたしました。では、極めて現実的なシミュレーションを実行します』
ジェミニ先生のチャット欄に、冷酷な数字の羅列がカタカタと表示され始める。
『前提条件として、今年の総売上を2500万円。ここから3D化の自己負担費用やPC代、家賃按分などの経費を多めに見積もって、500万円差し引いたと仮定します』
「お、おう。経費500万。残った『事業所得』は2000万円だな」
『はい。では、この2000万円の所得に対する、来年の税金地獄(納税額)を発表します』
「地獄って言うな! 頼む、優しく言ってくれ……っ!」
『まず【所得税】。日本の累進課税制度により、課税される所得金額が1800万円を超えた部分の税率は、なんと「40%」に跳ね上がります』
「よ、よんじゅっぱーせんと!?」
『控除額を差し引いても、所得税だけで約【520万円】です』
「ご、ごひゃく……っ!」
俺の心臓が、早鐘のように打ち始めた。
五百二十万。高級外車が新車で買える値段だ。それが、ただ息をしているだけで国に吸い上げられる。
だが、ジェミニ先生の追撃は止まらない。
『次に【住民税】です。これは一律で所得の約10%。つまり【約200万円】が、来年の6月頃に帯広市から請求されます』
「にひゃくまん……。鈴木さんのボーナスになるのか、これ……」
『さらに、個人事業主を苦しめる最大の罠、【国民健康保険料】。所得がこれだけあると、問答無用で上限額(MAX)に到達します。年間で約【104万円】です』
「ひゃ、ひゃくよんまん……。保険料だけでミリオン達成してんじゃねえか……」
『そして、忘れてはいけません。所得が290万円を超える個人事業主には【個人事業税】という税金が都道府県から課せられます。VTuberは業種判定がグレーですが、サービス業として5%課税された場合、約【85万円】です』
「じ、事業税……? なんだよそれ、初めて聞いたぞ……っ」
俺は、引き攣る顔を押さえながら、必死にメモを取った。
所得税520万、住民税200万、国保104万、事業税85万。
これらを足すだけで、すでに900万円を超えている。
「……ま、待ってくれジェミニ。もう十分だ。もう勘弁してくれ……っ」
『ルシフェルさん、最も恐ろしい『ラスボス』を忘れていませんか?』
「……え?」
『【消費税】です』
画面に、真っ赤な太字でその三文字が表示された。
『あなたはインボイス制度に登録し、課税事業者となることを選択しました。売上2500万円に対する消費税。簡易課税(第5種・みなし仕入率50%)を選択したとしても……』
ジェミニ先生が、最後の一撃を振り下ろす。
『あなたが国に納める消費税は、約【125万円】になります』
「…………ッ!!」
『よって、来年あなたが支払う税金と社会保険料の合計は……ざっくり見積もって【約1034万円】となります』
「いっ、せん、さんじゅう……よんまん……?」
俺の口から、魂の抜けたような、ヒュウッという音が漏れた。
一千万、越え。
稼いだ二千五百万の売上のうち、経費の五百万を引き、税金で一千万を持っていかれる。
手元に残る現金は、全体の半分にも満たない。
『ルシフェルさん、これが【資本主義の真実】です。数万人の前でチヤホヤされ、口座に一千万円以上の現金が振り込まれたからといって、浮かれて高級外車やタワマンを買えば……来年の税金が払えずに即・破産(ゲームオーバー)です』
「あ、あああ……っ」
『この1034万円は、来年一年間をかけて、現金で、絶対に国と自治体に納めなければならない『確定した負債』なのです。決して、あなたの自由になるお金ではありません』
確定した負債。
自由にならないお金。
昨日の夜、同接三十万人を達成し、極彩色のスパチャの雨を浴びた時の、あの無敵感。
俺はついに成功者になったのだと、札束の風呂に入れるのだと、そう思っていた。
だが、現実は違った。
俺が稼いだと思っていたその金は、ただ『国税庁から一時的にお預かりしているだけの金』に過ぎなかったのだ。
「……ふざけんなよ。ふざけんなよ!!」
俺は、デスクを拳で思い切り叩いた。
「俺が! 寿命を削って! 関節を鳴らして! 四十歳の黒タイツ姿で恥を晒して稼いだ金だぞ!! なんでその半分以上を、何もしない国に持っていかれなきゃなんねえんだよ!!」
『それが、日本という国でインフルエンサーとして生きる代償です。ようこそ、真の納税者の世界へ』
AIの無慈悲な、そして完璧すぎる正論。
「一千万……。来年、一千万払う……。一千万の現金が、俺の口座から消える……」
俺は、モニターに表示された『10,340,000円』という数字から、目を逸らすことができなかった。
一、十、百、千、万、十万、百万、千万。
何度数えても、桁は減らない。
「あ……。あははは……っ」
俺の口から、乾いた笑い声が漏れ始めた。
呼吸が浅くなる。
視界の端が、白くフェードアウトしていく。
脳の処理能力が、一千万という借金(税金)の重圧に耐えきれず、自己防衛のためのシャットダウンシークエンスを開始したのだ。
「だめだ……。鈴木さんが……国税庁の長官と一緒に、帯広までバインダー持って取り立てに来る……」
『ルシフェルさん? 心拍数の異常な上昇を検知しました。深呼吸をしてください』
「無理……。税金……高すぎ……。アリスちゃん……助け、て……」
俺は、ゲーミングチェアから、崩れ落ちるように畳の上へと転がり落ちた。
ドサッ。
帯広の四畳半に、鈍い音が響き渡る。
昨日は港区の最高峰のステージで白目を剥いた男が、今日は北の大地のボロアパートで、完全に意識を飛ばしていた。
画面の中では、ジェミニ先生が『ルシフェルさん! 救急車を呼びますか!?』と警告文を出し続けている。
栄光の3D配信の大成功から、わずか二十四時間後。
四十歳の底辺個人事業主は、AIが完璧に弾き出した『来年の税金の絶望』の前に、二度目の気絶(憤死)を遂げたのであった。
コメント
1件
ひゃあ〜〜!!😭💦 ルシフェルさん、まさかの二度目の気絶!!栄光の3D配信から一転、来年の税金地獄で畳にダイブとかジェットコースターすぎるよ…!! ジェミニ先生の淡々とした税金計算がマジで怖すぎる…「資本主義の真実」って言葉が重すぎて笑えない😂💸 同接30万人の快挙の裏で、稼いだ金の半分以上が消えるって現実、ルシフェルさんのショックがひしひし伝わってきたよ! 「鈴木さんが国税庁の長官と一緒にバインダー持って取り立てに来る」って妄想、ルシフェルさんらしくてクスッときたけど、でもその絶望に共感しちゃう…。ゆうきあきやさんの税金×コメディのバランス、めっちゃ好きです!!✨