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羊と亀のお遊戯会
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#名探偵
空蝉 桜
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おきつね
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コメント
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感想、ありがとうございます!🌷 第38話、一気に早瀬の人生が動き出した回でしたね。芽衣子との別れ方、養子の話を「話を聞いてただけ」と冷静に突き放す早瀬の距離感が、すごくリアルで胸に刺さりました。「千円札を2枚置いて退場」という行動に、彼なりの誠実さと冷たさが同居している感じがして。 そしてラスト、清子さんの「反りが合う」という百合子評にほっこり。翔麻を夏休みに呼びたいっていう祖母の純粋な気持ちが、温かくて好きです。次はどんな距離感になるのか、続きがすごく気になります!
109 ◇早瀬に結婚話
仕事帰りのカフェの中で彼女が話す結婚に向けてへの話をひとしきり聞いた。
一人娘なので養子に入ってもらわなければならないと言う。
あのぉ~、俺も長男なんだよ。
心の中でそう主張したが口には出さなかった。
『それでね、私、一人娘でしょ。
だから早瀬さんには養子に入ってもらわないといけないんだ……』
彼女の主張は提案ではなく決定事項だった。
この後も楽し気に自分たちの未来について延々話していたけれど、
早瀬の耳には馬耳東風。
早瀬の視線も耳も、もはや彼女を素通りしていた。
取り敢えず、この日は彼女の彼女側だけに都合の良い未来の計画を聞くに
留め、駅の改札口で別れた。
早瀬はため息しか出なかった。
そしてこの月の末日をもって早瀬は退職した。
その後職場が変わったことで仕事帰りに会うというのは無理になり、
デートは休日だけになった。
転職後一ヶ月、職場に馴染むのに大変だからとやんわりと彼女からのデートの
誘いを断り続けていたのだが、そんな時だった。
しばらくして突然百合子といきなりあなたの子なのと言われた翔麻が
自分のところへ転がりこんできたのは。
このことが決定打となった。
会うのをやんわりと断り続けていた芽衣子から、デートの誘いではなく
自分たちの結婚についての話し合いがしたいと連絡がきた。
百合子と翔麻の件がなくともこの結婚はないなぁ~と考えていた早瀬だったが、
ふたりの出現でそれに背中を押される形となったことは否めない。
ただのデートの誘いではない。
逃げ回るわけにもいかないだろう。
早瀬は観念した。
110 ◇早瀬の色恋
週末に外で会うことにした。
早瀬は何度か利用したことのあるカフェを指定し、少し早めに行って
出入り口に近いテーブル席に腰を下ろした。
揉めること必至なときは、去り際が肝心なのだ。
支払いは置いてすぐに出られるよう、千円札を2枚と5千円札を1枚
そして1万円札を1枚用意してきた。
飲み物だけなら2千円をテーブルに置いて帰ろうと算段していた。
何か食事をして額が大きくなりそうなら、そのままレジに行こうと。
そのようにいろいろとこの後起こりうるあまりよろしくないことを想像して
待っているとしばらくして待ち人が顔を見せた。
「早瀬さ~ん、しばらくぶり。
ぜんぜんっ会えないんだもん、淋しかったぁ~」
「そっか……」
「あっ、なにその薄い反応~淋しいなぁ~」
オーダーした飲み物がテーブルの上に乗るとすぐに話題は
俺たちの結婚の話になった。
「お式はいつ頃がいいかな?
私ね、ウエディングドレスと白無垢も着たいんだ。
一生に一度のことだしね。どう思う?」
「芽衣子、俺、結婚はしない」
「えっ、えっ、どういうこと。今になって」
「俺は芽衣子の希望を聞いてきただけで結婚の意志は一度も表明してないよ」
「えっと、じゃあそれは……結婚しないっていうのは今はしないっていうこと?
もっと仕事が落ち着いてからがいいってことなの?」
「俺もあれから考えたけど、芽衣子との結婚はこの先もない」
「どうして……養子の話が駄目ってこと?」
「そうだな、最初はそれがネックだったような気もするけど。
それよりも俺の方の事情が大きく変わったってことかな。
俺もつい最近まで知らされてなくて驚いてるんだけど、実は息子がいたんだ」
「なんで? なんでよ」
「そりゃあ、昔やることヤッたからでしょ」
「他人事みたいに、なんなのそれ。
私そんな女と息子なんて蹴散らしてやるわ」
「芽衣子ちゃん、怖いこと言うねぇ~。
俺の息子だからね、頼むよ~」
「酷いよ、早瀬さん。
結婚すると思ってこっちはいろいろと段取りしてたのに」
「芽衣子の気持ちはわかるけど、俺はプロポーズはしてないし、
結婚の話にも同意は一切してない。話を聞いてただけだ」
「酷いっ、馬鹿男。死ねっ……」
「すまないね、じゃあ馬鹿男は退場しますわ。それじゃ」
まっ、付き合った最後がこれじゃあ、誰でも怒るよな。
俺は即時席を立ち千円札を2枚置いて退場した。
この時ほど、転職しておいて良かったと思わないことはなかった。
俺は心の中でもう一度彼女に詫びた。
『芽衣子、ほんとにごめん』
111 ◇うきうきな夏休み
百合子が産んだ子翔麻は愛らしい顔をしており、ちょっとはにかみ屋さん、
それでいて人懐っこいところがあり早瀬の両親はそんなところに
惹かれたようだった。
女性経験がまったくないわけでもないのにとんと結婚しそうにもない息子に
小学生の子供がいたのだから、青天の霹靂で驚いたもののそのあとに
襲った感情、それは無情の喜びだった。
世間を鑑みてもまた親戚や友人などの話を聞いても、嫁姑の話でいい話など
ひとつも聞いたことのない早瀬の母親は、息子が結婚しても絶対同居なんかするものかと
いうような考えの持ち主で、どんなに素晴らしい女性が息子の嫁に来ても仲良くなぞ絶対
なれないに決まっていると思っていた。
それなのに……未入籍で息子の嫁というわけでもなかったせいか、なんなのか、
百合子のことは嫌じゃなかった。
こういうのを反りが合うというのだろうか。
側にいても気を遣わずにいられるというのが早瀬の母親清子にとっては
ポイント高めだった。
彼女は息子との間にいろいろ紆余曲折、言うに言えぬ歴史もあるようだが、
息子だって二十歳そこそこの世間知らずの若者とは違うのだ。
分別のついたもうすぐ四十に手の届く成年男子で孫までいるのだから
多少のことは目を瞑り男気を出さんかいっというような気持ちでいた。
それなのに、結婚するどころか百合子が翔麻を連れて家を出て行って
しまったものだからもうこれで縁が切れてしまうのかと思うと、清子も
その夫の浩司も酷く気落ちしたものだ。
しかし、どうにかしないとという気持ちが日に日に強くなり、清子は
夏休みに翔麻を泊まらせに来させよう作戦に打って出ることにしたのだ。
息子の誠は自分がそう言うと苦笑いするばかりでうんともすんとも言わない。
だが否定もしてこないので清子は少しばかり期待していた。
まだ桜も散らぬうちから夏の話をするのもとは思うものの、あの愛らしい
翔麻のことを思うにつけ、大嫌いな暑い夏に早くなってほしいと
願うのだった。