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夜。
俺は知らない家の知らない部屋で、義理の兄たちと並んで寝ることになった。
3人部屋。ベッドが間に合わず、床に布団を並べた。
俺、陽翔さん、奏さん。順番も、距離もなんとなく決められて。
1枚の布団の横幅が、無言の緊張を際立たせていた。
陽翔さんはさっきからスマホをいじってる。
奏さんは目を閉じているけど、多分寝てない。
俺も、寝返りすら打てず、天井を見つめたまま。
(気まずい…)
親同士が結婚しただけで、いきなり「兄弟」って呼ばれて。
でも血はつながってないし、住んでた世界も違うし、会ったばっかりだし。
どうやって話しかけたらいいのか、わからない。
「……」
「……」
「…………」
部屋を包むのは、3人分の息遣いだけ。
「……あの」
思わず、声が出た。自分の声なのに、ちょっと裏返った。
「……うん?」陽翔さんが反応する。
奏さんはまぶたを薄く開けて、静かにこちらを見る。
「……今日は、ありがとう。案内とかしてくれて」
言ったあと、何をどうすればいいかわからず、すぐ布団にもぐった。
陽翔さんが、ちょっとだけ笑った気がした。
「ううん。こっちこそ、気ぃつかわせちゃったかもね」
その言葉に、俺は小さく首を横に振った。見えてないと思うけど。
奏さんは、何も言わなかった。
でもその代わり、そっと体の向きをこちらに変えていた。
目が合いそうになって、俺は反射的に目を閉じる。
沈黙のまま、でも――
気づけば、あのときよりはちょっとだけ近づいた気がした。
たった30cmの距離で、心の距離はまだまだ遠いけど。
少しずつでいい。
俺たちは、きっとこれから「兄弟」になっていくのかもしれない。