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雪音水綺@全垢フォロ中
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潤が足早に入った場所は、備品庫兼、資材置き場だった。
背の高い棚が書架のようにずらっと縦に並んでいて、そこには総務部が鍵付きの棚で管理しているオフィス用品、ディスプレイ用の什器、SACRAのパンフレット。
その他の棚には、今まで発売された電化製品のスタンドポップ、ポスター、チラシ、展示用品などが所狭しと置かれていた。
労務部の私には普段あまり立ち入らない部屋。
古い紙の匂いが漂う部屋の奥へと連れていかれ、棚に隠れるような位置で、潤はいきなり私にキスをした。
しかも、いつもの優しいキスとは違う、性急なキスだ。
戸惑いも驚きも、すべて潤の舌に絡め取られる。
「ふ、うっ……ンッ」
潤がキスの角度を変えた瞬間に、潜もった声を出すのが精一杯だった。
いきなりキスだなんてどうして、と身を捩らせると、足の間にぐっと潤の足が割り入れられ、両手首は壁にますます縫い付けられる。
さらには潤の長い足が、ぐりっと私の恥部を刺激した。
「ンッ!」
何回も潤に愛されたことがある場所は、潤本人の刺激ですぐにじわりと快感を貪欲に欲し始める。──けれど、ここは会社だ。
必死に快感に抗う。
ダメだと思えば思うほどに全身が敏感になっていく。
深い吐息の代わりに、滴る蜜を舐めとるような水音が口から漏れた。
激しいキスと快楽の予兆に、瞳に涙が浮かんだ瞬間。潤の熱い舌は私の唇と両手首を、ようやく解放してくれた。
「はぁっ……」
すうっと息を求めれば、キスの余韻で身体がふらつき、そのまま潤の胸の中へと倒れ込む。
パリッとしたベストの生地が頬を撫でるけれど、足は割り入れられたままだ。
私を支えてくれる潤の手つきは腰と肩甲骨をガッチリと掴んでいて、キスの余韻を逃がさないようにしているみたいだった。
「ん……あの、潤。これは……」
「ごめん。君の唇と爪に、俺の知らないカラーがあって欲情した」
明確に潤の真意を告げられ、逆にこちらのほうが言葉を失ってしまった。
胸元から見上げる、レンズ越しの潤の眼差しは、いつもより硬質なものに感じられた。
潤が私へと向ける感情は『契約結婚』とは違う、なにかもっと奥深いものがあるのだろうか。
底知れぬ潤の感情の一端に触れた気がして、こくっと喉を鳴らす。
すると、潤はパッと表情を柔らかく崩して、薄い唇を開いた。
「えっと、前に言っただろう。知佳がこれ以上可愛くなると、俺は狂うって。これはその証拠。あんまり俺を困らせないでほしいな」
困ったように言われて、私の気持ちは浅ましくもときめいてしまった。
けれど、潤の肩越しに見える光景は、落ち着く家の風景ではなく、会社の備品室だ。
唇と身体の芯にはまだじれったい余韻が残っているけれど、今は仕事中という現実がその熱を散らし始めていた。
私は自ら、そっと潤の身体を離す。
「だからって、会社でキスは私が困ります。その……週末まで待ってほしい、かなって……」
「いつも言っているだろ。それじゃ足りないって。……まぁ、ここで知佳を口説くのは流石に色気がないな。今日は俺が悪かったよ。頑張って今後は自重する。……多分」
「多分じゃ困りますっ」
「じゃあ、見込みで」
くすっと互いに吹き出したところで、いつもの私が知っている潤が戻ってきたのだとホッとした。
さて、そろそろ部署に戻らないといけない──そう思った瞬間、備品室の扉がガチャリと開く音がした。
ここは奥まった位置なので、誰が入ってきたかは分からない。
けれど、数人の女性たちの声が静かな部屋に明るく響き、私は思わず息を殺した。
どこかで聞いた声だったが、今はそれよりも慌てて、髪や衣服の乱れはないかと身だしなみを整える。
とりあえず、ここから立ち去るべきだろう。
しかし、女性たちの姿は見えないものの、声はどんどんこちらに近づいてくる。
(下手に動けないな。どうしよう)
こんなところを、他の人に見られたらまずいかもしれない。潤の顔をこそっと盗み見る。
潤もこの部屋の来訪者を気にしているようだった。
潤が静かに上着を羽織ったところで、女性たちの足音がすぐ近くで止まった。
「えーっと、ここに余った段ボールを置けばいいんだよね?」
「うん、そっちで。未使用の封筒や古いパンフレットたちは、こちらの棚に返してっと。あぁ、紙って毎回毎回、すぐに溜まるのなんでだろうね」
気配と声で、どうやら棚を一つ挟んだ向こう側にいるらしいと分かった。
会話の内容から、女子社員たちは備品などを返却しにきたのだろう。彼女たちの会話は、すぐに雑談へと変わった。
──でさ、聞いて聞いて! 秘密なんだけども、最近あのインフルエンサーのウエハラちゃんから直接メッセージが来たの!
──えー、そんなの、なりすましでしょ。
──本人だってば! なんかSACRAの会社に興味があるみたいで、色々聞かれちゃった。
彼女達は雑談に夢中で、まだこちらに気づく様子はない。
それよりもウエハラちゃんって、まさかあの『Uehara』さん?
そう思ったとき、隣で潤が不意を突かれた様子で「まさか専務の……」と、小さく呟いた。
コメント
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第20話、読み終わりました。備品庫での突然のキスシーン、すごく生々しくてドキドキしましたね……!「君の唇と爪に、俺の知らないカラーがあって欲情した」って潤の独占欲が滲む台詞、痺れました。あの後、女子社員が「ウエハラちゃん」って話してて潤が「まさか専務の……」って呟いたのも気になる——インフルエンサーの『Uehara』さんが専務とどう繋がるんでしょう?この先の展開が待ち遠しいです!