「ふう……」
緊張した面持ちの樹は一つ大きく息をつき、会場に足を踏み入れた。
控室に着くと、他のメンバーはすでに来ていた。
樹を認識すると口々に挨拶をする。
ジェシー「おはよ、樹!」
大我「おはよー」
北斗「おはよう」
慎太郎「あ、おはよー!」
高地「おはよう!」
それに応える。「おはよう。遅くなかったかな」
高地「大丈夫だよ、そんなすぐには始まらないでしょ」
今日は、アルバムのライブの日。ツアーの最終日、横浜アリーナでやる。
樹「リハーサルって何時からだっけ?」
北斗「あと…30分くらいじゃない? まあ余裕持って準備できるね。もう着替えちゃお」
そう言い、北斗は置いてあった衣装に着替え始めた。
慎太郎「俺も着替えよっと」
ジェシー「俺もー」
と手に取るが、
大我「ん? ねえちょっと! それ俺の衣装なんだけど」
ジェシー「え! あ、ホントだ! ごめーん、間違えた」
樹「なんで赤とピンクを間違えるのさ」
ジェシー「ちゃんと見たつもりなんだけどねー、取り違えたのかな?」
大我「早く貸して。俺の」
高地「これ向きどっち?」
慎太郎「タグ見ればいいじゃん」
高地「ああそうか」
北斗「前後ろ合ってる?」
樹「合ってるんじゃない」
そんなこんなで話しながら着替えていると、あっという間に休憩時間は過ぎた。
スタッフが控室に顔を出し、リハーサルの時間だということを告げる。「あの、もう時間です、ステージの方来てください」
樹「今行きまーす」
北斗「いやー緊張するね。横アリだよ、横アリ。まあ何回もやってきたし、お客さん少ないけど…会場がデカいからさ、開放感ありすぎて逆に緊張する」
樹「あの……それ、独り言? 一応みんなに向かって言ってる?」
北斗「いや、みんなに向けてるよ」
ジェシー「ああそう。ま、俺らがいれば大丈夫よ」
大我「頼もしいw」
慎太郎「でもまだリハじゃん。本番じゃないのに」
北斗「……練習の時も本番のようにって、よく言うじゃん! そういう気持ちで挑むのは大事だよ!」
高地「なんか新しい反論の形だね」
ステージに上がると、早速リハーサルが始まる。
順調に進んでいき、終盤に差し掛かったところで、ディレクターが声を上げた。どうやら、気になったところがあるらしい。
そのディレクターから説明を聞き、また6人はステージへ向かう。
だが、突然、樹はめまいを覚えた。
一瞬足元がぐらつく。目頭を押さえ、立ち止まる。
他5人はその様子に気付いていない。スタッフも、樹を見ている人はいなかった。
樹「ん……危ない。しっかりやらないと…」
何事もなかったかのように歩き出した。
無事、リハーサルが終わった。
本番まではまだ時間がある。あと小一時間といったところだ。一旦控室に戻り、休憩に入る。
ジェシー「さー休憩だー。時間的には寝れるよね?」
北斗「寝てさっきの変更点忘れんなよ!」
ジェシー「ダイジョブ、ダイジョブー」
慎太郎「ぜってー忘れるやつ」
大我「だな」
樹「ちょっと俺も寝るわ。ジェシー、もうちょっとそっち行って」
ジェシー「はいはい」
樹(ちょっと寝たら、めまい治まるかな…。どうか本番はなにもありませんように…)
ジェシーと樹は、二人揃って眠りについた。
北斗「……り! …じゅり! 樹!!」
ハッとなって、目が覚める。北斗が樹の名前を呼び、起こしていた。「早くして、時間ないから!」
時計の針は、本番が始まる10分前を指していた。
「え、あ、うん」
慌てて部屋を出る。先程のようなめまいは感じなかった。
6人はステージ袖でスタンバイする。
高地「暗いまま出て、位置についたら明かりがついて、そしたら曲が始まるんだよね?」
大我「そうだけど。こーちは歌い出しのパートじゃないんだし、そんなに気にしなくてもいいんじゃない? 最初の樹はちゃんと覚えてるはずだし。ねえ、樹?」
大我は樹の方を振り返る。
しかし、樹はまたもや目元を押さえていた。その表情は、僅かに歪んでいた。
大我「え? 樹、どした? 大丈夫?」
樹「……ん、あ、大丈夫だよ」
ジェシー「なんか目押さえてたけど、痛い?」
樹「ううん、全然平気。それより、もうすぐでしょ。心の準備しないと」
平静を装い、笑顔をつくった。
6人がいつものように、それぞれと軽いハグを交わしたところで、スタッフの声が舞台袖に響いた。
「本番始まりまーす! SixTONESの皆さん、出てくださーい!」
6人はステージへ。夢の時間を届けに行った。
樹の体から鳴り響くSOSにも、気付かないままで――。
続く
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