第5話「笑顔が崩れた瞬間」
「よーし、次通すぞー!」
こさめの明るい声が、リハ室に響く。
いつもなら、それだけで空気が軽くなるはずだった。
なつに問いかけられる。いつも仕切ってくれるいるまは不在。
「らん、準備いい?」
「……うん」
返事はした。
でも、胸の奥がざわついて、足先が少し冷たい。
(……だめだ、息……)
音が入る。
イントロが流れた、その瞬間。
「……っ」
一拍目で、呼吸がずれた。
「らん?」
なつが、すぐに気づく。
「大丈夫、大丈夫」
言い切ろうとして、声が掠れた。
「……っ」
喉がひっかかる。
無理に息を吸った途端、胸がぎゅっと縮んだ。
「……は……っ」
肩が大きく上下する。
「らんらん?」
みことの声が、少し高くなる。
「……らんらん、止めよ?」
すちも、はっきり言った。
「……いや……」
否定しようとして、視界が揺れる。
「……っ、は……ひっ……」
息が乱れ、嗚咽が混じる。
「らん!」
なつが、すぐに近づいた。
「ストップ! いったん止めろ」
音が止まる。
静寂が、やけに重い。
「……っ」
らんは、その場にしゃがみ込んだ。
膝に手をつき、必死に呼吸しようとする。
「……は……は……」
空気が浅くて、胸まで届かない。
「らんッ!」
なつが、すぐ横にしゃがむ。
「大丈夫、大丈夫、ゆっくりでいい」
「……っ」
口元を押さえ、小さく喉が鳴る。
「……え……」
吐くほどではないけれど、込み上げる感覚に体が強張る。
「水あるよ!」
こさめ、が、ペットボトルを差し出す。
「……ありが……」
手が震えて、うまく掴めない。
「……ひっ……」
嗚咽が、止まらない。
「……らん……」
なつの声が、いつもより低くなった。
「笑って誤魔化すの、やめよ」
その一言で、胸が痛くなる。
「……無理してる」
断定だった。
「……最近ずっと、無理してるだろ」
らんは、何も言えなかった。
否定する力も、残っていない。
「……らんらん」
みことが、そっと声をかける。
「怖いなら、怖いって言っていいんだよ」
「俺たち、見てないふりできない」
すちも、静かに続けた。
「……置いてかないから」
その言葉に、らんの喉が大きく鳴った。
「……っ」
顔を伏せたまま、震える声で呟く。
「……ごめ……」
「謝らなくていい!」
なつが、少し強めに言った。
「らんが壊れる方が、よっぽど嫌だ」
しばらく、誰も動かなかった。
ただ、らんの荒い呼吸だけが、部屋に残る。
「……今日は、もう終わり」
なつが決めた。
「らん、休も」
「……でも……」
「でも、じゃない」
優しく、でもはっきり。
「今は、休む」
こさめが、小さく笑った。
「らんくん、こさめついてくよ」
「一人にしない」
その一言に、らんの目から涙が溢れた。
「……っ、ひ……」
嗚咽が、止められない。
「……ありがとう……」
かすれた声だったけど、確かに本音だった。
なつは、みんなを見回す。
「……な?」
全員が、黙って頷いた。
らんは、その輪の中心で、
初めて——崩れても、受け止められた気がした。
主です…!
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