赤×水
また何度だって。
赤「その栞、手作り?」
水「そ~‼︎紅葉の葉っぱで作ったんだ~っ」
水「この前紅葉見に行った時に拾ったやつだよ~」
赤「誰と勘違いしてるの、?」
赤「今年はまだ紅葉見てないじゃん」
水「…見に行ったよ、赤ちゃんと2人で」
赤「ほんとッ、?」
赤「日記確認してみるねッ…」
水「うんッ、…」
赤「ほんとだ…」
日記には,赤ちゃんの筆蹟で
『水と紅葉見に行った‼︎綺麗だったな~っ…』
なんて記してある。
赤ちゃんは,解離性健忘という一種の記憶障害を持っている。
癌で愛する家族を3人も失ったショックと
脳のダメージにより発症した。
一連として治るケースは十分に多い。
数日で治る人,数ヶ月で治る人,ケースは様々だが治る希望は十分にある。
赤ちゃんは今,1週間しか記憶する事が出来ない。
今日は火曜日,赤ちゃんは今先週の火曜日から前の記憶は無い。
記憶は日々を重ねていくことに,押し出されて消えていく。
赤ちゃんにとっては,実際20年生きてても,たった”1週間”だけが人生の全ての記憶。
赤「本当にごめんッ…、写真も残ってた…」
赤「俺、紅葉見たんだね」
水「僕の方こそごめんね、…」
赤「俺…、最低だよね…」
赤「デートの事覚えてないし、水の事疑り探って、…」
水「そんな事ないのに…、」
彼が記憶障害になってから,2人共有の日記を作った。
デートの事は勿論,2人でした事は必ず書くようにして。
僕はその日記によく香水をふっていた。
『匂いは,人の記憶を繋げてくれることがあるんだって~‼︎プルースト効果って言うらしい‼︎』
そう赤ちゃんに一度,教えてもらった事がある。
ただ,日記はただの記録。記憶にはならない。
それでも僕は,どうか赤ちゃんが記憶を取り戻しますように,と香水をふり続ける。
彼が記憶障害になってから,確かに難しい事もあった。
双方の意見がすれ違ったり,度々そんなことが起こる。
でも,全然苦痛じゃなくて…,
これからも彼の背中を押して,彼を支える気でいた。
それぐらい好きで,愛しているから。
赤「別れよ…?」
水「えッ、?」
赤「しんどいよねッ…、辛いよね、…」
赤「こんな俺と付き合ってくれてありがとうっ…これからもずっと、大好きです。」
水「そんなッ…僕も赤ちゃんの事ずっと好きだよッ、?別れたくないよっ…、」
赤「もう、解放してあげたいッ…ごめん…。俺と別れてくださいッ、」
別れは愛している以上の意味をもつことがある,と
赤ちゃんが教えてくれた言葉。
今ならそれを理解出来る。
彼との思い出は,どう頑張っても積み上がらない。
明日を迎える度に,感じて来た一つの幸せを捨てなければならない。
それでもやっぱり,好きで好きで仕方が無い。
水「ごめんッ、…本当にごめんッ、僕……」
赤「ん~ん、謝らないで、?これが1番良い選択肢だよ、」
水「ずっと側に居れなくて、…最後まで支えれなくて、ごめんッッ…」
赤「ずっと…、ずっと大好きだよ。愛してる」
赤「…水の事も、結局忘れちゃう…。でも、これだけは変わらないから。」
そう言って,涙でぐしゃぐしゃな顔の僕を見て,
大好きだよって何回も言いながら,抱きしめて頭を撫でてくれる。
もうこうして貰えることは無い。
一週間も会わなければ,彼にとって僕は
友達でも,恋人でもない赤の他人になる。
彼は僕が”恋人だった”記憶でさえも無くなってしまう。
もう2度と会わないかもしれない。
それでも,香水が染みている日記を見れば彼がまた思い出してくれますように…,
なんて微かな願いを込め,彼の家に日記を全て置いてきた。
もう彼と別れて2年が経つ。
僕は1人で,あの紅葉を見にきていた。
あれから,恋はしていない。
言い訳ばっかりして,彼と向き合わなかった自分なんかが恋する資格がない。
なんて言うのは建前で,本当は彼の事が忘れられないだけだ。
「すみません、これ落ちてましたよ、?」
水「え…あ、すみませんッ…」
「可愛い栞ですね。手作りですか?」
水「ッ…、そうですッ、紅葉の葉っぱで作りました…!」
彼だった。
想いが溢れそうになり,慌てて心を落ち着かせる。
彼は全く僕に気づいていない。当たり前だ。
見ると,自然に涙が溢れてくる。
早く彼から離れなきゃ……
赤「ッッ…、?」
水「へッ、?」
急いで彼を見ると,涙を流していた。
僕の事なんて,覚えているはずないのに…。
赤「すみ、ませんッッ…、気持ち悪いですよねッ、…」
赤「…なんか、この匂い懐かしいんです…。一瞬で引き込まれるような、落ち着く匂いで…」
水「…良かったら…少しお話ししませんか、?」
赤「えッ、…良いんですか…?」
水「はい、是非お願いしますッ、‼︎」
もしかしたら,必然的に引き合っていたのかもしれない。
この栞と共に。
日記にふりかけた香水…。もしかしたら記憶の目印になってくれたのかな。
赤「初めまして、大神赤と言います。」
赤「お名前教えてもらえますか、?」
水「稲荷水ですッ、!」
赤「稲荷、水…」
水「ど~かしましたか、?」
赤「いえ、…長くなるかもしれませんが、俺の話…聞いてくれますか?」
水「はいッ、!勿論です…!」
赤「…俺は、一週間しか記憶することが出来ません。所謂、記憶障害ってやつです。」
水「ッッ…」
赤「…毎日、日記を見ては記憶が消えている現実を突き止められます」
赤「それに、何故だか最近同じ夢ばかり見るんです…、」
水「夢…?」
赤「その夢には毎日、俺と笑っている誰かがいます…、素敵な方で笑顔がよく似合う方で…」
赤「そこでまた懐かしいあの、甘くて優しい香りがします。」
赤「そして嘘だと思うかもしれませんが…」
水「…?」
赤「その方の名前は、稲荷水…でした」
水「へっ、?なんで、?」
赤「正直、ここで出会えたのは偶然だと思えません、運命的な出会いだと思うんです」
僕はすぐ気づいた。
彼が徐々に記憶を取り戻している事に。
僕は,今までのことを全部話した。
彼と僕が恋人だったこと,それから別れた事,2人で行った思い出の場所、等。
赤「ッ、…もしかして、水ッ、?」
水「ッッ、!?」
水「あ、赤ちゃんッ…?」
赤「全部、全部思い出せたッ、…」
赤「あの日、栞の話をした事…、」
赤「これ以上迷惑をかけないように、好きと言う気持ちを押し殺して別れ話をしたこと、…」
赤「今更過ぎだよねッ、本当にごめん、…」
水「ふふッ…、今更思い出したの、?僕の王子様ッ‼︎♪」
赤「~~~ッッ‼︎」
赤「長く待たせてごめんね、俺のお姫様ッ、?」
水「もぉ、結構待ったよ?」
本当に嬉しくて堪らない。
彼が記憶を取り戻した事も
彼とこ~やって過去の思い出に浸る事が出来る事も。
赤ちゃんへの好きが溢れて止まらない。
赤「…俺は、ずっと水に恋に落ちてたみたい、」
赤「今更になっちゃうけど、俺とまたお付き合いしてくれますか、?」
水「喜んでっ‼︎またこれからよろしくねッ‼︎♪」
彼が今までの事を全部記憶しているとは限らない。
2人で行った場所も,もしかしたら覚えていないかもしれない。
それでもいいんだ。
これから先,記憶が消えたとしても…
2人で何年,何十年掛けて思い出を作っていけば良い。
それぐらい彼が好きだから。
もし離れても,また何度だって引き合うよ。
だから安心して,僕の事頼ってね。
終わり__
リクエストを書いてる休憩がてらに,ノベルを書かせていただきました…‼︎
リクエストの物はもう直ぐで書き上がります‼︎
読んで下さり有難うございました‼︎🥹
他の作品も見てくれると嬉しいです…🥹🫶
コメント
4件
ぇ、めっちゃ すきです。。! 普通に 泣いちゃいました、笑