「ただいま」
「おかえりなさい」
休日に出社をしていた貴仁さんが、早めの帰宅をして、広間で出迎えた。
ベビーバウンサー(揺りかごのようにも使えるベビー用チェアーの一種)に寝かせて、窓辺で日なたぼっこをさせていた結と誓が、彼に愛らしい笑顔を見せる。
「いい子にしていたか?」
中を覗き込んで、彼が軽く手で縁を揺らすと、子どもたちは『いい子にしていた』とでも答えるかのように、ますますはしゃいだ笑い顔になった。
「あなたが帰って来たのが、うれしくてしょうがないみたい」
「そうか、それは光栄だな」
貴仁さんが笑って言い、「ありがとう、結に誓」と、そのぷくぷくとふっくらしたほっぺに、チュッとキスをする。
「……もちろん私も、あなたの帰りがとってもうれしいのだけれど」
つい口からこぼれた呟きに、
「ありがとう、彩花も……」
応えた彼につと顎先が引き寄せられ、同じようにほっぺたにチュッとされて、一瞬で顔が火照った。
彼の着ているスーツに手を掛け、肩から脱がそうとすると、
「悪いな」と、声がかけられ、「ううん」と、首を振った。
「こういう些細なことも、あなたと家族でいる幸せなんだもの」
「家族か……」と、彼が感慨深げに口にする。
「家で待っていてくれる家族がいると思えるだけで、私も幸せで仕方がない」
彼の言葉に、幼い頃に寂しい想いを抱えていたのだろうことを、改めて顧みる。
だからこそ、こうして彼を家で待てることが喜ばしくて、尚かつ子どもたちを授かって、賑やかな家族でいられることが、ただただ幸せでしかなかった。