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傘を持って、僕は…

第4話 - 第二章：心を突き刺す雨中盤(一)

2023年04月02日

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#シリーズ小説

#僕っ子女子

#創作キャラ

Mitsuki✩.*˚ଳ

この感覚は、初めて演劇部の体験をした記憶と重なった。一人前、僕は文化祭が盛んな私立高校を検索していた。周りにある音瀬高校代官文化高校が検索に掛かった。僕は最初に音瀬の方に行った。結果は部活動が盛んで文武両道でなければならないことを身を持って知った。次に代官の方に行った。僕は駅近という神の文化を知らなかった。代官高校に行くと丁度、部活動見学があった。体験出来た部活動は「料理、芸術、服飾、演劇、動画」などがあった。僕は演劇を見ることが大好きだ。だから、体験したいと思い演劇を選んだ。体験用紙を持って部室に向かおうとしたら髪綺麗なショートカットヘアの生徒が僕を呼んで

「あ！体験の子だよね！体育館に集まるよ！」

と、髪を揺らしながら言われた。僕は話し掛けられて驚き固まっていた。結局、一度も話さずその人に着いて行ったらいつの間にか体育館に着いていた。非常に豪華絢爛なコンサートホームの様に感じた。だが、所々段差があったり階段が沢山あったりと演出し甲斐のある工夫点も沢山見つけた。正に幼い頃、両親と訪れた”舞台”そのものだった。僕は案内してくれたその生徒に体験用紙を見せ、指定の位置に移動した。その場で待機していたのだが、空気はまるでオーディション会場だった。僕は何度か唾を飲み込んで、妙な緊張を忘れさせていた。すると、今まで目の前に垂れていた紅い幕がシュッという音を立てた。カーテンが開いたかのような音と共に僕は目を瞑った。目を開けると体育館の中央に黒髪ロングヘアーの女生徒が両手を広げ、立っていた。その女生徒は着ている制服のスカートをひらひらさせて口を開いた。

「ようこそ！代官文化高校演劇部へ部活動見学、ありがとうございます！私は、部長の加々美星螺と言います！今日は、この台本を渡します。それでナレーション体験をしてもらいます。漢字に関しては、読めない場合があるかも知れないです。その際は気軽に訊いてください！」

僕は台本を貰って中身をさらっと確認した。この台本は俗に言う王宮物と呼ばれるものだ。小さな文字で今、目の前に立っている加々美さんの名前が書いてあった。

しばらくして、加々美さんが僕の方に手招きして

「じゃぁ、一番の体験用紙を持っている…てんぐうさん？」

「あまみやです。」

「あ、天宮さん！そこの赤い台に立ってミツル君のナレーション部分を読んで貰ってもいいかな？」

と、聞かれ僕は小さく頷いた。最初は立つだけか、一瞬で終わると感じていた。だが、実際に立ってみるとさっきまでの緊張感とは比べ物にならないくらい声が出なかった。息が詰まってどうにも言葉を紡ぐことが出来なかった。ただ、台本を読めばいいのに勝手に緊張して馬鹿みたい。どんな風に読めば理想のミツルさんを演じれるのだろう。会ったことも聞いたことも無い人物をちゃんとトレース出来るか不安だった。だが、このまま固まって何もしないというのも印象が悪くなる可能性だってある。

僕は一息ついて自分に言い聞かせた。「大丈夫だから…」と。

僕は勢いよく息を吸い込み台詞を言おうとどうにかして口を動かした。だが、口内が空気でいっぱいになりこれ以上、溢れぬように手で口を覆った。その瞬間、あ”と息を吐き出した。口内が胃酸で巡った味がした。

今の状況と酷似している。僕は顔を上げて加々美先輩に向かって頭を下げた。本当に不甲斐なくて申し訳なく思った。こんな誰にでも出来そうな演技が全く出来なくて自分を出してしまうことが恥ずかしく思う。目に涙を貯めている僕に加々美先輩は

「無理しなくていいよ。大丈夫、”わかる”から。天宮さん、思ったことや感じたこととか言っていいのよ。」

と、話し掛けてくれた。僕はその優しさに甘えようと口を開いた。だが、過去の同級生の言葉のナイフを思い出し、思わず噎せてしまった。先輩が言っている”わかる”は、僕の欲しい”解る”なのだろうか。もしかしたら、クラスメイトの千晶梓のように共感だけで結局何もしない事象と似ている。そもそも、僕は共感して欲しい訳では無い。僕は本当にして欲しいことは「ありのままの僕を解って貰えること」だ。だが、僕の境遇に共感したり心配してくれる人は沢山いる。ただ、それだけで僕の意見に興味が無いように話を聞いてくれて何も進展がないままなんてことは当たり前のようにある。

ふと、我に戻って先輩の方に視線を向けた。僕は急に空気が冷りとしてきた教室が嫌になって

「あ、加々美先輩。私は少し御手洗に行かせて頂きます。」

と、伝えた。僕は先輩こ返事も聞かずに教室の隣の階段の隅で座り、感情を無くしつつ静止していた。僕って最低な奴だ。結局、誰かが居なかったら何も出来やしない。自分の理想像を見るためにダンスルールがタイミング良く空いているため、そこにある大きな姿見の前に立った。そこに(雨によって制服が透けているため）傷跡が写った。過去の虐めの傷だが、まだ腫れている部分がある。昔、階段で落とされて何度、右腕を床に打ちつけたのだろうか。たが、階段は大きな窓がありそこで雨音が聴けていたのもあってトラウマにはならなかった。だが、一人なら通れるものの集団で通ったり集団とは言わず複数人でも通ることが出来なくなってしまった。だが、そんな理由で休んでみれば両親は納得してくれないのだ。嫌々通った地獄の中学時代は二度と戻りたくない。だから、縁を切って再スタートするために高校デビューした。毎日、肌の手入れをして食事にも気を使って(紅茶は中毒障害だし、しゃーない。)精一杯の努力をして”天宮成瀬”という存在を確立させたのにここで諦めて失望して一体、何が残るというのだろう。また、頭の中がぐちゃぐちゃになった。

僕は咄嗟に姿見から離れて体育館に向かった。近づくにつれて物音が騒がしくなって話し声も聞こえてきた。

「…って！めぐみんがさぁ(笑)」

「はいはい。てか、あともう少しで作業終わんね。」

「めぐみん、渋滞抜けたってさ！」

「あ、連絡きた？じゃあ、星螺先輩と美弦先輩に連絡飛ばさいとね。」

「え？姉さんはいいよ…別に」

「…梓？恵美先生と舞先生にお叱りを受けるよ？」

「はーい、んで！もう部室に戻ろっか！」

「はいはい…」

その言葉を最後に舞台の裏口が開く音がした。僕は咄嗟に曲がり角に隠れた。それと同時に加々美先輩に「もう、体育館練習が出来そうです。曲がり角で梓さん達の姿を見ました。準備を私はしに戻るので先輩も準備をしておいた方がいいかもです。」と、連絡した途端に廊下から話し声が聞こえてきた。よくよく耳を澄ましてみると僕について話しているようだ。僕への心配、俄雨の影響、些細な愚痴。僕は雨のせいで遅れたことになって欲しくない。何故ならば僕が雨に救われているから。

恵美先生は抜けてる部分が少しあるため遅れるのも多少分かる。だが、舞先生は普段から厳しくて怖い先生なのに遅れてきている(何故なら、恵美先生と舞先生は同棲している)。雨の中の運転ほど危ないものは無いと両親から教え込まれたぐらいだ。ふと、僕は今更ながら急いで教室に向かった。扉を開けると瞬きもせず加々美先輩が近づいて耳元で

「おかえり、さっきの対面練習は秘密ね？」

と、囁かれた僕は頬を赤くして反射的に右手が頬に触れた。

「加々美先輩ぃ！今から舞台に連絡しに行きますかぁ？」

と、訊いた梓は台本用ファイルを二つほど持って近づいて僕の方に向かってきた。この仕草は僕に何か意見して欲しい時に出る彼女の癖だ。僕は恐れながら口を開いた。

「梓さんがそういうことを提案しているってことはもう作業が済んでいるんだと思います。顧問の先生方が居ないうちに練習しましょう。」

すると、加々美先輩は梓に耳打ちした。耳打ちされた梓は僕の袖を引っ張って、階段の隅に連れてった。僕は横暴な性格が出ないように怒りを殺して離れてくれるよう頼みつつ話していると梓が袖をぐいっと壁の方に僕を寄せた。どんっという大きな音が背中に響いている。痛みよりも勝手に心臓が鳴った。この状況で起こるとは大抵、カツアゲか説教だ。これが中学の頃は当たり前だった。まともな先輩は誰一人として居なかった。だから、人一倍頑張る僕は何故か目立ってしまった。僕は震えた身体を抑えるために腕を掴んで落ち着いた。急に梓が口を開いた。

「君ってさ…本当は、笑ってないでしょ？」

「え？」

続く。.:＊・゜