テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
21
鯨燈一
96
陽向
429
目を開けますと、そこは何処かへ繋がる汽車の中のようでした。
腰掛けていた椅子には濡れたように真っ黒なビロードが張られ、ふかふかでとても良い座り心地でした。
天井には緻密な夜空の地図が描かれ、壁にはたくさんの星座が並んでいました。
薄暗い中ところどころをランプが照らし、何処か古めかしい雰囲気が漂っていました。
ここは何処かと窓を見ますと、そこには満天の星空が広がっておりました。
藍色や葡萄色や黒色が混じり合った上に、黄金の煌めきが散らばったその様は、とても美しいものでした。
何故ここに来てしまったのか、そんな疑問も忘れて眺めていますと、誰かが近づいてまいりました。
「お隣失礼致します。」
そう断りますと、彼は猫背をかがめながらネクタイを緩めました。
「ええもちろん。貴方は何方からいらしたのです。」
「私ですか。そうですね、随分遠くから来たとでも言えましょうか。」
その曖昧な答えを聞きながら、二人して窓の外を見つめました。
「綺麗ですね。」
「ええ。私の居た場所では到底見られなかったでしょう。」
暫く見ていますと、不意に彼が口を開きました。
「貴方はこの列車が、何処へ繋がるかご存知なのですか。」
「いえ全く。貴方はどうです。」
するとふっと口元を綻ばせ、まるで子供に聞かせるように言いました。
「丁度いい。貴方は心が美しいからここに来れたのですね。」
なんのことかも分からず戸惑っていますと、彼はスリーピースのジャケットを脱ぎながら語りだしました。
「私の友にも、夜空を走る列車に乗ったという者が居たのです。私は信じておりませんでしたがね。」
その途端、にわかにぱっと明るくなったかと思うと、ランプが幻燈を映し出しておりました。
「どうです。私の人生、乗りますか。」
静かに頷くと、ランプの火はいよいよ大きくなり、幻燈は二人をすっかり包みこんだのでした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!