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「ういちゃん! はやくー!」
希海は朝からずっと上機嫌で、いつも以上にはしゃいでいる。
羽衣子と昴の間を行ったり来たりしながら、落ち着きなく歩いていた。
「そんなに急いだら危ないよ」
「だって、おでかけ、うれしいもん!」
キラキラした笑顔に羽衣子も昴も思わず頬を緩めた、その時だった。
「あら、ごめんなさいねぇ」
希海が前から来た年配の女性と軽くぶつかってしまう。
「いえ、大丈夫です。こちらこそすみません」
慌てて頭を下げる昴の横で、希海は女性を見上げていた。
すると女性は、にこにこと笑いながら希海へ声を掛ける。
「ふふ。パパとママとお出掛けなんて、いいわねぇ」
「……っ」
その言葉に、羽衣子の顔が一気に熱くなる。
一方で昴は特に気にした様子もなく穏やかに会釈を返していて、その態度に羽衣子は余計に意識してしまう。
顔を赤くしながら視線を逸らす羽衣子をよそに、希海は笑顔で羽衣子と昴の手を握った。
「ういちゃん、パパ、いこー!」
そんな無邪気な声に引っ張られながら、羽衣子は落ち着かない胸の鼓動を誤魔化すように微笑み返していた。
それから暫く歩いていき、案内板の前で止まった昴は口を開いた。
「さて……まずは何から見ましょうか」
すると、その言葉を待っていたかのように希海が勢いよく手を挙げる。
「おもちゃ! おもちゃみたい!」
目を輝かせながらぴょんぴょん跳ねる姿に昴は苦笑した。
「希海、今日はまず、吾妻さんの買い物が先だから待ちなさい」
「やだー! おもちゃー!」
玩具が見に行けないと分かると、希海はムッと頬を膨らませて昴の服を引っ張る。
「後で行くから、今は我慢だ」
「いまがいい!」
そんな様子を見かねた羽衣子が控えめに口を開く。
「あの……まずは先に玩具を見に行きましょうか?」
「ですが……」
「その方が希海くんも落ち着くと思いますし。希海くん、玩具見に行こうっか」
そう言って微笑むと希海はパッと顔を明るくした。
「うん!」
ぎゅっと抱きつかれた羽衣子は思わず苦笑すると、隣で昴が小さく頭を下げる。
「……すみません。希海が我儘を」
「いえいえ。大丈夫ですよ。小さい子なら普通の反応だと思いますから」
その言葉に昴は少しだけ安心したように目を細めた。
玩具売り場へ着くなり、希海のテンションは最高潮になる。
「あっ! これほしい! こっちもあるー! ういちゃんみてみて!」
あちこち駆け回りながら次々とおもちゃを手に取っていく希海。
どうやら目に入るもの全てが魅力的に見えるらしい。
「ういちゃんとあそびたい! どれにする?」
真剣な顔で聞かれた羽衣子は少し困ったように笑った。
「ええっと……そうだねぇ……」
そして、そう返しながらも内心悩んでいた。
(お家に玩具は沢山あったよね……)
既に十分過ぎる程持っていることから、ここで更に際限なく買い与えてしまっていいのだろうかと思ったのだ。
そんな羽衣子の心配をよそに、希海は両手いっぱいに玩具を抱え始めていた。
「これも! あとこれも!」
すると昴は、ごく自然な口調で言った。
「欲しい物は全部買うから、さっさと持ってきなさい」
そんなあまりにも迷いのない言葉に、羽衣子は思わず目を瞬かせた後で反射的に口を開いてしまう。
「あ、あの……玩具はお家に沢山ありますし……せめて、一つに絞らせた方がいいかなって……思うんですけど……」
言った瞬間、羽衣子ははっと息を呑んだ。
家族でもないのに他人という立場のくせに、子育てのやり方へ口を出すなんてと。
「す、すみません! 出過ぎた真似を……!」
慌てて頭を下げる羽衣子に昴は意外そうに目を瞬かせた後、ふっと苦笑した。
「いえ……そうですよね」
「……え?」
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「何でも買い与えるのは、希海の為にも良くない」
そう呟きながら昴は少し困ったように眉を下げる。
「すみません。泣かれたり駄々をこねられたりするのが面倒で……つい、いつもこうやって買ってしまうんです」
その声音には本気で反省している色が滲んでいた。
そんな昴の態度を前に羽衣子は思わずきょとんとする。
普通、自分のやり方を否定されれば不機嫌になるのかと思っていただけに、まさか素直に自分の非を認めて受け入れられるとは思わなかったのだ。
「希海、その中から一つだけ、一番欲しい物を選びなさい」
「え……」
「希海くん。一緒に選ぼっか。ね?」
「うん、わかった」
一瞬不満そうな顔をしたものの、大好きな羽衣子と一緒に選べるならと納得したようで、二人で沢山の玩具の中から一つを決めていった。
コメント
1件
うわあ、このエピソード、すごく好きです。昴さんが「欲しい物は全部買う」って言い放ったときは「あ、これ甘やかしタイプだ」と思ったんですけど、羽衣子さんが遠慮がちに指摘したら素直に「そうですよね」って受け入れるところがめちゃくちゃ良かった。自分の非を認められる大人って、なかなか描けないですよ。希海ちゃんの無邪気さと、羽衣子さんの「家族でもないのに」って遠慮する気持ちのバランスも絶妙でした。