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〜黒影〜
第6話
「黒猫。私一人では流石に対応しきれない量の魔獣が来てる。でも、ルイスにも情報を共有したいから、行ってきてくれない?」
私がそう言うと、黒猫は頷いて私が作った魔法陣を潜った。
「本領発揮しないとね」
私は、笛を出した。
木製の縦笛。魔導回路がびっしり詰まっている。
魔力の籠った息を入れると、杖と同じ機能を持ち、機能は、何百倍にもなる。
だけど、戦うとどうしても息が上がってしまうから、良い音が奏でられない。
だから、最初が勝負……と、ずっと前世の先生に言い聞かされていた。
私は、笛を吹いて大地魔法を発動させた。
石が雨のごとく降るように。
魔獣たちは潰れて見れないくらいグロくなってる。
はぁ……本命はどこよ。
私は、一塊の魔獣を倒した。ざっと見積もって……二百くらい?
次の拠点を取らないといけない。
「……だから、仲間って嫌い」
✵
「は、はぁ?! それなら、俺もっ!」
あの事を話したら、ルイスが目を見開いて、剣を手に取った。
「いや、ミヒャエルと教皇様を守ってくれ。それと、明日の朝まで大きな動きはするなよ」
「……分かった。ウィザードの意向なんだな?」
「あぁ。俺は待たせるわけにもいかないから、行ってくる」
「お前が死んだら、お前の主人も助からないぞ」
「分かってる」
俺は吐き捨てるように言って、魔法陣を潜った。
すると……ハンナは、帰り血に塗れながら、何個目か分からない拠点を剣を振るって荒らしていた。
学校に着て行っている、最近新調したばかりの服は真っ赤。髪の色は、桃色から、真っ赤のナニカが滴る紅に染まっている。
俺は、ハンナに向かって回復魔法をかけた。
「黒猫ッ!」
「お前……正気か?」
何百匹と殺した後、笑える。俺には到底できる技じゃない。
……前世と前前世があるとは、聞いている。
そして、前世で最強の笛吹になったと。後に笛吹の賢者と呼ばれるようになった、とも。
時々、人間らしく無いことを口にする。
……今度は、行動か。
「えぇ。正気」
猫の姿のまま涙を堪えた。
「だって……大切な鼓動が止まって無いってわかってるんだもんっ! 少なくとも、死ぬまで分からないで欲しい」
寂しそうな赤い瞳とは、裏腹に口角は上がってる。
顔まで身にまみれていて、前世と前前世があると言って……到底、七歳の少女とは思えない。
否、これからきっと、俺がそんな経験をするだろうという……ハンナなりの忠告だろう。
「分かった。それなら、お前も死なないでいてくれないとな。俺の主人」
「……できるものならそうする」
俺は、歯を食いしばった。
何ならココで『そこは、生きてやるって意地を見せろよっ!!!』と胸ぐらを掴んで鼓膜が破れるくらいに言ってやりたかった。
でも……こいつの赤い瞳には……言語化できない程の経験が刻み込まれている。
俺だって、そんな目を向けられても尚、そんな事を言えるような薄情じゃない。
「……できるようにしてやる」
「ふっ。意地っ張りね」
「ココで意地を張らないでいつ意地を張る? 俺は、少なくとも、我を突き通すような真似は限られた時しかしない」
俺は人の姿になった。
……獣人という、元のあるべき姿に。
服はちゃんと着てるし……着なかったら、着させられるし。
「言われなくても分かってるってツーの」
「なら、夜明けの迎えが来ないようにな」
「えぇ」
その吐き散らすような声は、殺意……それだけに染まっていた。
数刻後。
闇の中に一縷の光が見えた。きっと、太陽だろう。
……希望であって欲しかった。
「夜明けが来たわ。きっと、元凶も起きる」
抑揚の無い声で、真っ赤に染まった見た目は十五歳くらいの少女がボソリと呟いた。
……元凶とは、魔物の生み出される存在だ。否、得体の知れない黒いナニカ。
あの黒いナニカは、何匹もこの世にいる。その一匹を倒したのが……この、名もなき笛吹の賢者。
その賢者でさえ、瀕死に陥った黒いナニカ。
笛吹の賢者は、何かそれについてトラウマか何かを抱えているようで……聞くに聞けない。
「……分かってる」
そう言うと同時に、黒いナニカが遠くで動くのが見えた。
森の木がボキボキと折られる音。地面が歪み、その黒いナニカが動く反動で雲が動く。その振動が、地面に伝わり、大地の上に被さる砂ぼこりを舞い上げる。
……ルイスは今頃、どうしてるのだろうか? 呑気に寝てるなんてこと無さそうだしな。
「黒猫。姿を戻して」
「え?」
「そっちの方が、万が一の時に逃げやすいでしょう? だから、ね」
首の下らへんを触られて……不本意に猫に戻ってしまった。
……俺の弱点の一つだ。
他にも沢山ある。
だけど、今は考えている暇が無い。
「私は、笛が使えない。だから、背中は預けたわよ」
「分かったっ!」
俺を見て確認すると、地面がえぐれるくらいの勢いでハンナは走り初めた。俺も、その背中に必死に付いていく。
弱音一つ、吐いてもいいのに弱音なんて絶対と言っても
良い程口から弱音が吐かれることはない。
弱くてすまない。
俺は心の中でそう謝罪した。
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コメント
1件
第6話、読み終えました!ハンナが笛で大地魔法を放つシーン、めちゃくちゃかっこよかったです…!でもその後の「できるものならそうする」っていう台詞に、彼女の過去の重さがにじみ出ていて、胸がぎゅっとなりました。黒猫が人間の姿に戻って背中を預ける覚悟を見せたところ、すごく熱かったです。この二人、本当にいい関係ですね…! (165字)