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「ひひひひひひ」
「朱里、怖い」
出国ハイになっている私に、恵が冷たい一言をくれる。
彼女は黒いキャップを被り、黒いTシャツにワイドデニム、白いスニーカー姿だ。
「だって、恵のスーツケースのキャスターが、点字ブロックに当たってグリングリンしてる。ひひひひひひ」
私はライトグレーのスウェット地ワンピースに、白いスニーカー。
「これが〝箸が転げてもおかしい年頃〟か」
呆れたように言うのはブルーのサングラスにカーキのハットを被り、白Tとデニム、黒いスニーカー姿の尊さん。
「元気でいいじゃないか」
ニコニコ笑顔の涼さんは、グリーンのサングラスに白T、グレーのスウェットに黒いスニーカー。
通りすがりの女性たちが、二人を見て意識している様子なのがいとをかし。
「空港飯って、ビジネスクラスのラウンジとかあるんでしたっけ?」
笑いを引っ込めて尋ねると、尊さんは確認するように尋ねてくる。
「ラウンジにカレーとか牛丼はあるけど、あくまで軽食だぞ。パンとかサラダがビュッフェ形式になってるが、レストラン街みたいに色んな食べ物の中から選べる訳じゃない。かなり限定的なんだ。だったら、多少並ぶかもしれないがレストラン街に行ったほうがいいかと思ってる」
「さすが篠宮さん、朱里の胃袋事情を分かってますね」
「中村さんにそう言ってもらえるとは、光栄だな」
二人が謎の褒め合いをするなか、私たちはビジネスクラスのカウンターに着き、スーツケースを預けてチェックインし、eチケットとパスポートを軽く確認する。
色々と便利なもので、ネットで購入した飛行機の席は、他の人にQRコードを共有するだけでいいので凄い。
四人固まった席をとりたいとの事で、行きは尊さんが出して、帰りは涼さんの担当だそうだ。
そのあと、私たちは羽田空港第三ターミナル、四階にあるレストラン街に向かった。
一通りぶらっとしつつ、恵と二人で「こってりよりは、夏だからさっぱりいきたいよね」と話し合う。
尊さんと涼さんは、私たちの好きな食べ物でいいらしい。なんて心が広いんだ。
結局、私たちはフロアの隅のほうにある、和食居酒屋というか、和食なら大体なんでも置いてるお店に入った。
本当はうどんやラーメン、お寿司も魅力的だったけれど、尊さんにこう言われてしまった。
「ここなら食べたい物が複数あっても、シェアする体で色々食べられるんじゃないか?」
ええ、分かってらっしゃる……。
確かに一杯が基本のうどん屋さんで、お代わりはちょっと気が引けるもんね……。
お喋りしながら並んで待ち、いざ席に着いたあとオーダーとなった。
尊さんと涼さんは天ぷらとすき焼き、お刺身が楽しめる贅沢な御前、恵は冷たいうどんとかき揚げのセット、私はカレーうどんに加えて、単品でお刺身盛り合わせと天ぷら盛り合わせ、食べたいのでたこ焼き、みんなで串盛り合わせをシェアする事にした。
「朱里ちゃんは、フードファイターを目指してるの?」
「ぐふっ」
お水を飲んでいた時に涼さんにぶっ込まれ、私は激しく噎せる。
「この子、ナチュラルによく食べるんですよ。食欲旺盛で消化液が多分人と違うんでしょうね。びっくりするデカ盛り食べても、次の日になったらお腹平らになってるし、体重も戻ってるんですよ。才能だと思ってます」
「へぇ~、凄いね。知り合いの医師が検査したがりそう」
涼さんがそう言うと、尊さんが私をグイッと抱き寄せて凄む。
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ……。朱里はただ胃がわんぱくなだけだ」
「ごめんごめん。お詫びにここは俺が持つから、朱里ちゃん、好きに食べていいよ。出汁巻き卵とか、冷や奴とか、ポテトとかどう?」
「あ、いただきます」
「食うんかい」
恵に突っ込まれるなか、涼さんはタッチパネルでオーダーする。
「恵はこうやって、何だかんだ言いつつも理解があるので、一緒にいて楽ですねぇ。元彼にはギョッとされた事があったので、彼の前では〝普通〟のふりをしていました。デートが終わった帰りに、一人でラーメン食べて帰ってましたけど」
それを聞き、尊さんが横を向いて笑う。
「彼女の胃袋も受け入れられない男は駄目だね。財布的な意味でも、心の広さ的な意味でも」
「俺は朱里を幸せにするために生きてる。食欲を満たす意味も含め」
「さすが尊さーん」
私は隣に座っている彼に、どーんと体当たりする。