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◇◇◇◇
ノクスグラートの風は冷たかった。
城壁の上で外を見ていたセレナに、背後から低い声がかかる。
「セレナ」
振り返らずとも分かる。
「……レオニス様」
「ここを離れろ。バリスハリスの城に来い」
迷いのない命令口調だった。
セレナはゆっくりと首を振る。
「いやです」
即答。
レオニスの眉がわずかに上がる。
「俺の誘いを断る理由が欲しい。なぜだ?」
「また魔物が来たら、呪いはどうするのですか?」
振り返った彼女の瞳は真剣だった。
「それなら心配ない。呪い専門の魔術師は連れてきた」
「……呪い専門の、魔術師ですか?」
心底不思議そうに目を瞬く。
「知らないのか?」
「はい。呪いは限られた魔女しか癒せないと、お師匠様に言われていたので」
「魔術師はいただろう」
「そうですね。ヴァルディウスでは、戦争用の殲滅魔法の研究をしていました。それ以外は、あまり聞きませんでした」
レオニスは小さく息を吐く。
「……ヴァルディウスは、呪いの本質を分かっていないらしい」
「本質?」
「呪いは、死なない病だ。人が死ねば、次の器を探す。国を腐らせる」
その声は、王の声だった。
セレナは少しだけ首を傾げる。
「恐ろしいですか? 確かに病より魔力は使います。でも、呪いは血が見えません。怪我よりは楽です」
一切の悪意なく、そう言う。
レオニスは額を押さえた。
「……はぁ。さすが白の魔女だな」
彼女にとって呪いは処理だ。
恐怖の対象ではない。
「だがお前がここにいる理由は、もうなくなっただろ」
レオニスは一歩近づく。
「バリスハリスの城に来い」
「それは……」
迷いが揺れる。
「安心しろ。まだ一緒の寝室になるわけじゃない」
わざとらしく視線を逸らす。
「……セレナに、俺の国を見せたいだけだ」
珍しく言葉を選んでいる。
その不器用さに、セレナの胸が熱くなる。
レオニスは手を差し出した。
王の手ではない。一人の男の手だった。
頬がわずかに赤く、ぶっきらぼうに視線を逸らした。
「その言葉は、反則です」
セレナは小さく笑う。
そして、その手を取った。
冷たい風が吹く。
けれど、指先は温かい。
「……少しだけですよ」
「十分だ」
握る力が、わずかに強くなる。
城壁の向こうで、雲が流れていく。
白の魔女は、今だけは。
彼の隣に立つことを選んだ。