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水面がゆらゆらと揺らぎ、耳には水の中にいる時のこぽこぽとした音が響く。先程のゾンビに襲われていた時よりも体は軽く、心地いい。知里はさらに体を縮こませるとかすかにチリンとまたも眠っている時に聞こえたあの鈴の音が聞こえる。それはどんどんこちらに近づき、僅かに水面に自身は近くなっていく。
意識が覚醒していき、体の感覚が戻っていく。瞼を開くのと同時に反射的に喉の張り付きをとるかのように声を零す。世界が鮮明に見え始める。目の前には見慣れない白い天井だった。そこは病室で、横を向けば窓から風が吹きカーテンをゆったりと揺らす。窓枠には花瓶が飾られ、見舞いの花かガーベラがゆらゆらと花弁を揺らす。心のどこかでは今までのものが全て夢であって欲しかった知里は思いながらふーっとため息を着く。
「あ!起きたね、潔ー!起きたよー!」
体を起こすと扉の近くにさきほどの少年らの1人蜂楽が、目を覚ましたことにいち早く気づき廊下に向けて大きく呼びかける。
蜂楽は、そのまま知里へと近づき顔を遠慮なしに覗き込む。彼の勢いについ体を引くもじーっと顔を見られていることが気まずく知里は目線を泳がす。そんな中蜂楽はうんと頷いて近くの椅子を引くとそこに座り、知里へと人懐っこい笑みを浮かべる。
「良かった!治療が間に合って!」
「ぇ……」
「蜂楽ーあの子、目覚めたって……あ、良かった大分顔色も良さそうだ」
さらに部屋に入ってきたのは蜂楽と共に居た少年、潔であった。潔は蜂楽の隣に立つと知里を怖がらせないように優しい声色で話しかける。
「ごめんな、驚かせて……急にこんな変な場所に運ばれて混乱するよな、えっと……あ、俺、潔世一」
それでこっちが、と蜂楽へと視線をよこす。
「俺は、蜂楽廻。よろしくね!で、あんたの名前は?」
「……篠崎知里、です」
「おっけー!知里ね〜」
「ぇ……な、なまえ……?」
知里は初対面の蜂楽に下の名前で呼ばれたことに困惑する。蜂楽の隣に立つ潔は呆れたように苦笑いしながらも、表情一変させて知里へと向き直る。
「それで、篠崎はどうして危険区域にいたんだ?」
「きけんくいき?」
「確かにそうだね、あそこは毒霧の濃度も濃かったからウイルスの影響も少しは受けていると思ってたけれど……」
蜂楽は言葉を切り知里の頭の先から全身を眺めて口を開く。
「見たところアンデッドになる兆候も見えないし……」
「あの」
緊張状態なのか眠っていたからか掠れた声が喉から出る。彼らはこの世界の人なのだろう。ならば、ここがどこなのか一体どういう世界なのかを聞けると踏んだ知里は胸の上の手を強く握り込む。
「助けてくれて、ありがとうございます…その、ここはどこであの怪物は…」
自分の身に起きた現状を早く知りたい、全ての疑問を潔らにぶつける。興奮と緊張からか前かがみとなっている知里の様子に潔は安心させるように笑いかける。
「ちゃんと説明する。だから、1回落ち着いてくれ」
知里はハッと我に返り、姿勢を正し、すみません取り乱して…と呟く。
「とりあえず、まず知里の今までの経緯聞いてもいい?」
「はい」
知里はぽつぽつと、これまでの経緯を2人に説明した。こことは違う平和な現代の普通の学校で普通の高校生として生活していたこと。そこに雨の日、黒猫に出会い車に轢かれそうなところを助けたら突然暗闇に落ちたこと。気づいたら、あの危険区域Bと呼ばれた場所の路地で倒れていたこと。そして、アンデッドに襲われていたところを潔らに助けられたこと。
経緯を聞いた蜂楽と潔は、数秒考える素振りをした後知里へと視線を戻す。
「恐らく知里は、『グリートホール(迎えの穴)』に落ちたんだ」