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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第67話 〚 同じ夜、別々の温度〛
⸻
――澪たちの部屋(4人)
ドアが閉まった瞬間。
「うわぁぁぁぁ——!」
えまが、
何のためらいもなく
布団にダイブした。
「ふかふか……最高……」
その姿を見て、
澪は一瞬だけ迷って。
——でも。
「……えい」
釣られるように、
同じく布団にダイブした。
「……あったかい」
小さく笑う。
それだけで、
今日一日の緊張が
少しだけ溶けた気がした。
海翔は、
その様子を
少し離れたところから見ていた。
(……よかった)
笑っている。
無理していない。
それだけで、
胸の奥が
静かになる。
澪が、
布団の上で
ごろっと転がる。
「修学旅行って、
やっぱり疲れるね」
えまが、
うつ伏せのまま頷く。
「分かる。
でも、楽しい」
その会話を聞きながら、
海翔は
澪の様子だけを
注意深く見ていた。
——その時。
真壁恒一は、
澪を見て、
別のことを考えていた。
(……今なら)
(同じ部屋だし)
(一緒に寝たら、
距離、縮まるよな?)
頭の中で、
一気に結論まで飛ぶ。
(修学旅行だし、
特別だし)
(澪も、
嫌とは言わないだろ)
——それが、
“危うい発想”だと
気づかないまま。
真壁は、
一人で
納得していた。
海翔は、
その視線に
気づいている。
でも、
まだ言葉にはしない。
(……夜だ)
(今日は、
何も起こさせない)
ただ、
距離と空気を
静かに保つ。
それが、
今の最善だと
判断していた。
⸻
――別の部屋(5人)
玲央視点
「……でさ」
玲央は、
布団に座りながら
口を開いた。
「真壁、
やっぱおかしくね?」
部屋には、
玲央、りあ、しおり、みさと、湊。
全員、
同じ空気を
感じていた。
「今日の謝り方もさ、
澪“だけ”だったし」
しおりが、
腕を組む。
「悪気ないのは
分かるけど……
だからって、
許されるわけじゃないよね」
みさとが、
静かに言う。
りあは、
少し困った顔で
天井を見る。
「……澪が
嫌って言えないの、
分かってて
近づいてる感じがする」
その言葉に、
空気が重くなる。
湊は、
少し間を置いてから
口を開いた。
「俺……
ああいう“距離の詰め方”、
信用できない」
珍しく、
はっきりした声だった。
玲央は、
息を吐く。
「海翔が
止めてるのも、
分かるよな」
「うん」
「でも、
海翔一人に
任せすぎるのも
違う」
全員、
頷いた。
「明日」
玲央が、
結論を出す。
「澪が
一人になる時間、
作らせない」
「それと」
「真壁が
“勘違い”したら、
その場で
誰かが止める」
湊が、
小さく頷く。
「……澪を
守るって、
そういうことだと思う」
誰も、
反対しなかった。
同じ夜。
同じホテル。
でも。
理解は、
はっきり分かれていた。
——そして。
そのズレは、
もう戻らないところまで
来ていた。
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