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「本気やから、俺」舜太の言葉がずっとリフレインしている。家事をして落ち着こうとしてもあの時の舜太の声を思い出してしまう。
いつまでも甘えて馬鹿なちょっかいをかけてくるやつ。そんな風に思っていたのにあんな事をされて…。普段のヘラヘラした表情ではない、真面目な顔。耳元で囁かれたあの声。握られた左手。骨ばった舜太の手の感触。
すべてが夢のような出来事なのに鮮明に覚えている。
それを振り払うようにデモテープとして貰った新曲のCDを流して自分の歌声を確認しようとする。
が、冒頭から「Kiss」という言葉が流れてきて顔が熱くなる。馬鹿か、こんなことを思い出すなんて。
そもそもあれはキスではない。舐められただけで…いや舐められのも有り得ない事だが。
でもあの時、俺は動けなかった。あの言葉を言われた後、舜太の顔が眼前まで近づいていたのに。
それなのに俺は抵抗もせずつい目をつむってしまった。まるでキスを待つように。
あれは隙をつかれて硬直してしまったからだ。別に待っていた訳ではない。自分に言い聞かせるようにそう考える。
その時舜太のパートの「リップ」という歌詞がちょうど聞こえて、なぞられた唇の感覚を思い出した。身体が震えるがそれがどういう感覚なのか、自分でも分からない。
あの言葉を信じてもいいのか?と思うがあいつは嘘がつけるやつでは無い。だから本気なのも俺にした行動もふざけてした事ではないのだろう。
じゃあ、どうすればいい?
あいつは男で、メンバーで、年下で……俺にそんな趣味はない。
それなのに何で嫌な気持ちにならず、こんなにも胸が疼くような感覚がするのだろうか。
あんな事をされたのに。考えれば考えるほど分からない。
その日は上手く寝ることができなかった。
翌日はまたグループの仕事だった。寝ぼけた状態で準備をしながらメンバーを拾うタクシーを待つ。
車の中で寝ればいい、と思って目の前に着いたタクシーに乗り込む。
「おはよ、仁ちゃん」
ほかのメンバーがアイマスクをして眠る中、起きていた舜太にそう挨拶される。
思わず昨日のことを思い出して身体が固まった。
「どうかしましたか?」
ドライバーのスタッフの声が聞こえてふと我に返る。何もなかったように「ういすー」と車に乗り込む。
よりにも寄って俺の隣は舜太だった。目を合わせないようにするが、舜太が俺の顔を覗き込んでくる。
「昨日寝れなかったん?」
誰のせいで……という言葉が喉まで出かかるが飲み込む。しかめっ面で舜太を睨むと嬉しそうに笑顔になった。腹が立つ。
「俺のこと、考えてくれたんやろ?」
ドライバーには聞こえないように耳元で囁かれる。昨日のことを思い出して思わずパッと身体を引いてしまう。
「何ビビってるん?かわええなぁ」
いつものような笑顔を向けながら言うコイツに余計混乱する。何なんだ、あんな事をしておいて。
そう思って言葉の出ない俺にくすりと笑い目を細めながら見つめてくる舜太に心臓が高なった。
何かを、される。
そう思って強ばる俺の太ももを撫でる。身体が思わず震えるが予感がしていたので声は抑えられた。
ドライバーからは見えない位置。
それを優しく、でもいやらしく触られ動揺する俺の顔を満足そうに見つめてくる舜太にイラつきと共に胸がザワザワするような感覚を覚える。
これは、何なんだ?
その手が俺の股間に近づいた所で声が出そうになり思わず止める。そうするとそのまま手をつながれた。指を絡める、恋人繋ぎ。
もちろんそれに俺は答えない。顔を背けるために窓を見ると反射した俺の顔が赤く染っているのが分かる。
俺はずっとこんな顔で舜太を見ていたのか。
そう考えた途端あまりに自分が恥ずかしく思わず手を握ってしまう。舜太に繋がれた手まで。
焦った俺は離そうとするが舜太の手はびくともしない。
「仁ちゃん、どしたん?具合悪いん?」
そう言いながら舜太の顔が近づいてくる。だが狭い車の中、逃げ場などない。
ああ、またこいつにーーー
そう思って握っている手に力がこもる。
だが下を向く俺のおでこに肌の感触がしてそれがすぐに離れる。
「…は……?」
「んーちょっと熱あるな」
温度を確認されただけと気づいて、勝手に思い込んだ自分が恥ずかしくなる。
「なんか期待してたん?」
小声で俺の顔を覗き込みながら舜太が細い目で俺を辱めるように笑う。顔が熱くなるのが自分でも分かる。
キスを期待していた自分が否応なく分かってとても悔しくてたまらなかった。
「こんな所でせんよ、俺にもプランぐらいあるから」
舜太に耳元でそう言われ思わず反論の声が出る。
「お前…!」
「お、なんや、元気そうやん」
いつものような笑顔になる舜太に言葉が出なくなる。人のいる場所で明確な反論などできるわけがない。それを分かってこいつは言っているのだ。
「ほら、移動なんやから寝た方がええで?」
そう言いながら俺のふとももを叩く。先程の感触を思い出しかけるが口をギュッとしめた。
舜太はそれを見て愉しむような顔をしながら正面を見て目を閉じた。
…俺の手を握りながら。
腹立たしさを感じるが舜太の手は逃がさないとばかりに強く握られている。仕方なく持っていたアイマスクを片手で不器用につけた。平静を取り戻すために目を瞑る。
しかし寝れる訳もなく、舜太の温度を感じながら移動時間を過ごすことしかできなかった。
俺は多分、舜太に惹かれてしまっている。
これが恋のかたち、というやつなんだろうか。
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今更すぎる💛くん視点。なんか無駄に長くなってしまった…。
恋愛対象として見ていなかった相手に攻められてギャップに落ちてしまうのっていいですよね。