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君にだけ、氷の微笑

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君にだけ、氷の微笑

34 - 第21章:向き合う気持ち2

2025年09月30日

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数日後の昼休み、俺と奏は中庭のベンチで弁当を広げていた。秋の終わりだが、日当たりがよくて暖かさを感じていたこともあり、外でも寒さを感じにくかった。仲良く並んでいる今の俺たちは、あの日のすれ違いなんて最初からなかったかのよう。

「蓮、この卵焼き、昨日もらったものより甘い」


楽しげに喋る俺たちに向かって、校舎の影が長く伸びる。綺麗な色をした紅葉の葉が一枚、風にさらわれて足元に舞い落ちた。


「味が変わったのか? 気がつかなかった」

「蓮のお母さんが、砂糖を多めに入れて作ったんじゃないかな」


そんなありふれた会話が、ただ心地よく耳に響く。手を伸ばせばすぐそこに奏がいて、その存在をちゃんと感じられる――それだけで充分だった。


どこからか見られている視線を感じて、何気なく顔を上げる。校舎の窓の向こうに見えた影は、俺たちを凝視しているように動かなかった――ほんの一瞬だったのに、冷や汗が滲む。肩の形も立ち方も、見覚えのない男子生徒だった。けれど目を凝らしたときには、もう誰もいなかった。


(……気のせいか?)


そう思って、ふたたび箸を動かす。でも胸の奥に、指先で紙を擦ったときのような細かいざらつきが残った。


放課後、校門を出たときも同じだった。歩道の向こう側に、一瞬だけ背中が見えた気がして目を凝らしたが、そこには通りすがりの人波しかない。


誰もいないはずの背後に、足音だけがまとわりつくような錯覚。首筋の産毛が逆立ち、冷気が這い上がってくる。なにも起きていないはずなのに、皮膚のすぐ下を冷たいものが這う感覚がどうしても消えなかった。


(まさか、神崎じゃないよな……? いや、考えすぎだ)


そう打ち消しても、不安は種のように胸の奥で芽を出し続けた。


「蓮、どうしたの? なにか気になることがあるのかな」

「いや……神崎のことがあってから、変に神経質になっているのかもしれない。実際、なにもないし」


普段の学校生活では奏と別々のクラスで、互いに行き来しなければ同じ時間を共有することができない。しかも俺は生徒会の仕事も抱えている関係で、毎回一緒に帰れる保証はなかった。


(こうして奏と喋ることのできる貴重な時間を、くだらないことで潰したくない。それなのになんだろう。言い知れぬ不安を拭うことができないのは)


夕焼けに染まる空の下で、その小さなざわめきは音もなく膨らんでいった。

君にだけ、氷の微笑

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