夕陽が差し込むたびに、千歌と凪は少しずつ言葉を交わすようになっていった。
「先輩、甘いもの好きですか?」
「……あんまり食べないけど、歌ったあとにチョコはちょっと嬉しいかも」
「じゃあ今度、俺のお気に入りのやつ持ってきます!」
次の日、本当に凪はポケットにチョコを忍ばせてやってきた。
千歌は笑って首を振りながらも、結局は受け取ってしまう。
「ほんとに……変な子」
「え、褒めてます?」
「……さぁ?」
そんな他愛ないやり取りが、千歌にとっては新鮮だった。
ただ歌を聴かれるだけじゃなく、少しずつ「自分」を知ってもらっているような気がした。
ある日、凪は唐突に言った。
「オレ、ここに来ると元気になれるんです」
「……どうして?」
「先輩の歌、聴いてると、なんか心が軽くなるんですよ」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなる。
父の前では決して得られなかった「自分の歌が誰かを支えている」感覚。
父にバレてしまったら、そんな危うさを知りながらも、千歌は放課後を待ち遠しく思いはじめていた。
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