コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
数日後。領邦軍による『黄昏』攻撃計画は、鉄道を使って迅速に『血塗られた戦旗』へと密かに伝えられた。
『ターラン商会』の密使から知らせを受けたリューガは、この攻撃に便乗するための計画を練ろうと考えたが強い反発を受けた。
「貴族様と一緒に仕事だぁ!?ふざけてんのかリューガ!俺達にタダ働きしろってか!?」
吠えるのは『血塗られた戦旗』の幹部であり、財政面を一任されている短髪で片眼鏡の中年男性ガイアである。
「そんなことは言って無ぇだろ!」
「そう言ってんのと同じだよ!お前、この抗争でどれだけの金が消えたと思ってんだ!?融資された分の金も底をついてんだぞ!?」
『血塗られた戦旗』は傭兵集団であり、その収入は依頼達成による報酬金に大きく依存していた。
だが抗争が始まると戦力を集めるために依頼の類いを一切受け付けず、傭兵達を本部に留めていた。
数少ない直営の酒場などからの収入はあるが、主要な収入源である傭兵家業が行えていないので維持費だけでも膨大な赤字が発生していた。
「それでもあの町が手に入るなら充分に割に合うんだ。それを、貴族様に先を越されてみろ!全部持っていかれるに決まってるだろ!そうなりゃ俺達はタダ働きをしたって事になる!」
「そっ、それは……そうだが。だがよ、あの馬鹿を始末したような連中だぞ!?」
「パーカーの野郎が殺られたのは予想外だったが、それでも貴族様の手を借りちゃご破算だ!」
「ならどうしろって言うんだ!?ガズウット男爵の決定を止めさせる権利なんて俺達には無ぇんだぞ!?」
「そんなの決まってる!良いか?リューガ。領邦軍が来るまでにはまだ時間がある。それまでに俺達でケリを付けるんだ。そうすりゃ、領邦軍が来ても金が手に入る。『暁』はたんまりと金を蓄えてるって話だからな」
実際には万が一に備えての予備費以外は全て組織と『黄昏』拡大に使われているため、『血塗られた戦旗』の借金を返済するには到底足りない。
それを彼らは知る由も無かった。
「今カサンドラの奴が攻撃に向かってるが」
「今暇そうにしてる一階で酒を飲んでる奴らを追加してくれ。どうせ『暁』の破壊工作相手じゃ役に立たねぇからな」
「なんだよ、決戦をやれってのか?」
「時間が無ぇんだ。一気に攻め落とすしかない。じゃなきゃ領邦軍に先を越されちまうぞ」
「……そうだな、出し惜しみしてたらエルダスの二の舞か。ガイア、動員を任せるぞ。カサンドラの奴にも待つように使者を出してくれ。次の攻撃は俺も出る」
「リューガも出るのか?」
「ああ、『ライデン社』からの秘密兵器も出し惜しみ無しだ。全部持っていく」
リューガの瞳に力が宿る。
「それでこそ、俺達のボスだな。動員は任せとけ。カサンドラの傭兵団と合わせれば五百は集まるはずだ」
「随分と多いな?」
「なぁに、うちの看板を出してフリーの奴らにも声をかけるのさ。報酬にイロを付けりゃ、それくらいは集まる。それに、『エルダス・ファミリー』の残党にも声をかける予定だ」
「お前、いつの間にそんな伝手を」
リューガは驚きを隠せなかった。『暁』に破れた『エルダス・ファミリー』の残党は身を潜め、復讐のため密かに『血塗られた戦旗』と連絡を取っていた。その窓口がガイアである。
「個人的に『エルダス・ファミリー』と縁があってな。連中『暁』の小娘に復讐したいらしい。やる気は充分だからな、武器を提供してやれば死に物狂いで働いてくれるだろうさ」
「なるほどな。五百なら……今の『暁』は二百も居ないそうだ。それに新兵器を合わせりゃ、真正面から叩き潰せるな」
「それに、アンタが出るなら皆の士気も上がるだろうな?」
「勝算は充分にあるな」
「スネーク・アイと気狂いの娘はどうする?」
「ジェームズと聖奈は好きにさせるさ。一応声をかけてくれ」
「分かった、留守は任せてくれ」
ガズウット男爵の行動は、『血塗られた戦旗』に決戦を決意させる。
その日のうちに『血塗られた戦旗』は残された資金を使って大規模な動員を開始。『血塗られた戦旗』に属する傭兵はもちろん、『エルダス・ファミリー』の残党や先の抗争で破れた『三者連合』の残党、一攫千金を狙うフリーの傭兵やゴロツキなども続々と集まり始めた。
この動きを『暁』情報部がキャッチ。ラメル自らが『黄昏』に戻りシャーリィに事の次第を伝えた。
「大動員?奴等、真正面からやるつもりかよ!?」
執務室にはシャーリィとラメルの他にルイスとマーサも居た。
「そのようだ。随分と羽振りが良くてな、ゴロツキまで集めてやがる。現時点で四百人以上が集まってて、更に増えてる状態だ。場所はシェルドハーフェン東の平原だな」
「先のスタンピードで『ラドン平原』は平和になったから、集結地点としては最適ね。邪魔される心配も少ないし」
「今の段階で既に二倍ですか。マーガレットさんが来た後で良かったですよ。マーサさん」
「ええ、約束通り弾薬を満載した列車が来たわ。それだけじゃなくて、大砲二門と弾薬を満載した船も到着してる。弾薬に困ることはないわね」
マーガレットは正規価格での取引の約束を守り、『暁』が保管していた『魔石』の一部と引き換えにQF4.5インチ榴弾砲二門と大量の弾薬を速やかに輸送したのである。
「大砲の追加は素直に有り難いですね」
「私としても、換金の当てがなかった『魔石』を一部売り捌けたから助かったわ。まだまだあるけどね」
ブラッディベアから採取された巨大な『魔石』は、一部を売却しただけでまだまだ大きな塊として保管されている。
「マーサさんが喜んでくれるなら良かったです。ラメルさんは引き続き情報収集を。マナミアさんの破壊工作部隊はしばらく情報部の警護を任せます。代わりにレイミ、エーリカ、アスカの三人を戻してください」
「分かった。やるんだな?ボス」
「はい。相手の秘密兵器については手元に資料がありますし、マクベスさんやドルマンさん曰く充分に対抗可能であると判断します。なにより、戦わない選択肢はありません」
「それを聞けて安心した。続報を待っててくれ」
ラメルは足早に『黄昏』を出て十六番街の隠れ家へ戻る。
「本当に貴女は見ていて飽きないわね、シャーリィ。今度は決戦か」
「マーサさん、『ターラン商会』の動向に注意を払ってください。今回の『血塗られた戦旗』の動きは、彼らも予想外だったはずです」
「傭兵と貴族は合わないものね。任せて」
「ルイ、決戦ですよ」
「やることは変わらねぇよ。お前の敵は叩き潰す。それだけさ」
「よろしい。敵が纏まってくれるなら好都合です。必ず勝利して、ことごとく殲滅しましょう」
シャーリィもまた決戦を決意。結成以来の激闘が迫っていた。