テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,865
#ROBLOX
ゆゆゆゆ
424
ゆゆゆゆ
218
クールキッドが来てから、数日が経っていた。
夜。
部屋は暗い。
静かじゃない。
小さな呼吸と、時々混ざるぐずる音。
セブンはソファにもたれている。
目は閉じていない。
寝ていないだけだ。
「……またか」
クールキッドが小さく声を出す。
泣くほどじゃない。
でも、放っておくと大きくなる。
セブンはゆっくり起き上がる。
無駄に荒い動きはしない。
抱き上げる。
軽い。
相変わらず頼りない重さ。
「……何が不満だ」
当然、答えは返ってこない。
けど、少しだけ顔をしかめている。
不機嫌そうな顔。
セブンは少し考える。
「……腹か」
キッチンに向かう。
まだ慣れていない手つきでミルクを準備する。
温度。
昨日エリオットに言われたことを思い出す。
「熱すぎると飲まないぞ」
指先で確認する。
「……こんなもんか」
抱き直して、飲ませる。
クールキッドは少しだけ暴れる。
でもすぐに落ち着いて、吸い始める。
小さな音。
規則的。
そのリズムを、セブンはじっと見ている。
やがて、飲み終わる。
しばらくして——
「……寝たか」
呼吸がゆっくりになる。
セブンはそのまま、しばらく動かない。
腕の中の温度を確かめるように。
——静かになった部屋。
本来なら、この時間。
セブンはPCの前に座っていた。
誰かのゲームを壊すために。
侵入するために。
けど今は違う。
セブンはクールキッドを寝かせる。
慎重に。
少しでも雑にすると起きる。
それをもう学んでいる。
「……面倒だな」
小さく言う。
でも手は丁寧だった。
ベッドに置いて、毛布を直す。
少し離れる。
……泣かない。
それを確認してから、やっと息を吐く。
そして。
セブンはゆっくりとPCの前に座る。
画面をつける。
暗闇の中で、光が顔を照らす。
一瞬。
昔の感覚が戻る。
指が、自然に動きそうになる。
侵入コード。
慣れた手順。
何千回も繰り返した動き。
——けど。
止まる。
視線が、横に逸れる。
ベッド。
小さな影。
規則的な呼吸。
セブンはしばらく画面とそれを交互に見る。
「……」
数秒。
いや、もっと長いかもしれない。
それから。
キーボードに手を置く。
打ち込む。
いつもとは違う言葉を。
「赤ん坊 夜 泣く 理由」
検索結果が並ぶ。
やけに普通の画面。
攻略でも、侵入でもない。
ただの情報。
セブンは無言でスクロールする。
「……三時間おき?」
眉がわずかに寄る。
「そんなに起きるのか」
次のページ。
「ゲップをさせる」
「安心させる」
「……抱くのは正解か」
ぽつりと呟く。
誰も聞いていない。
さらに読む。
「泣き止まない場合は——」
セブンは一瞬止まる。
振り返る。
クールキッド。
寝ている。
問題ない。
それでも、もう一度画面を見る。
真剣に。
今まで一度も向けたことのない種類の集中。
「……面倒だな」
同じ言葉。
でも意味が違う。
逃げるための言葉じゃない。
向き合う前提の言葉。
そのとき。
小さな音。
「……ん」
クールキッドが少し動く。
セブンの視線がすぐにそっちへ行く。
PCはそのまま。
椅子が鳴る。
立ち上がる。
ベッドに近づく。
覗き込む。
「……起きるなよ」
小さく言う。
当然、通じない。
けど。
クールキッドは少し顔をしかめて——
また、落ち着く。
セブンはしばらくその場にいる。
完全に寝息が安定するまで。
それを確認してから、やっと戻る。
PCの画面はまだついている。
さっきの検索結果。
セブンはそれを見る。
そして、少しだけキーボードを叩く。
「赤ん坊 笑う いつ」
出てくる答え。
「個人差あり」
「……曖昧だな」
少しだけ、口元が動く。
笑ったのか、呆れたのか。
自分でも分かっていない。
画面を閉じる。
電源は落とさない。
でも、それ以上は触らない。
代わりに、またベッドを見る。
静かな部屋。
かすかな呼吸。
その中で、セブンはぽつりと呟く。
「……クールキッド」
名前を呼ぶ。
反応はない。
それでもいい。
「……次、笑え」
命令みたいな言い方。
でも声は、少しだけ柔らかい。
セブンはそのまま、椅子にもたれた。
眠らないまま。
ただ、見ている。
壊さないものを。
初めて、自分の意思で。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!