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第23話:取り調べ
放課後すぐ、ミナトの端末に通知が届いた。
【通知:中央認知監査局 第3分室に出頭せよ】
【対象:感情誘導行為の確認のため】
周囲には何も表示されなかった。
音もなければ、警告色もない。
ただ、“行動履歴にマーク”がついた。
地下構内、認知監査局・第3分室。
光の届かない灰色の通路。
警備ドローンが沈黙したまま頭上を旋回していた。
案内された部屋には机が一つ、椅子が二脚。
壁にはスクリーンが設置され、正面には仮想の顔――**AI官《ユニット040》**が映る。
AIの顔は性別不明の無表情。
だが、その声は冷たくもなく、どこか“正しさに満ちていた”。
「あなたの書いたとされる複数の詩により、
以下の人物の心拍・呼吸・情緒スコアに異常が出ました」
スクリーンに、何人もの名前とデータが表示された。
- カネダ・トモキ:呼吸数急増(+37%)
- サクラギ・ミナ:涙腺反応
- イヅミ・ナナ:自己評価スコアの逸脱
「あなたの言葉が、人を“壊した”という可能性があります」
ミナトは、目を伏せたまま答えない。
AIはさらに続ける。
「感情誘導による社会的逸脱は、思想感染の兆候とされます。
詩を通じて“他者を揺らがせる行為”に自覚はありましたか?」
沈黙。
やがて、ミナトがゆっくりと顔を上げた。
「……“壊れた”んじゃない。
“思い出した”んだよ、感じるってことを。
心が動いたことを、壊れたって呼ぶの?」
AIは一拍の間を置いたあと、言う。
「心の動きにより、社会の秩序が揺らぐならば、
それは修正されるべき“ノイズ”です」
ミナトは、息を吸って、短く返す。
「じゃあ……社会の“正しさ”って何?」
AIは黙った。
ミナトは続けた。
「俺の詩は、命令じゃない。ただの“ことば”だ。
それに揺れる人がいたとしても、
それは“感じた側の命”が、まだ生きてるってことじゃないのか?」
画面が切り替わる。
ミナトの投稿履歴、スコア推移、詩の断片、受信者リスト。
「あなたの表現が、他者に与えた影響は明白です。
今後も同様の発信を続ける意志はありますか?」
ミナトは黙って立ち上がった。
椅子の背に手を添えたまま、ひとつだけ言った。
「俺は……言葉をやめる理由を、まだひとつも持ってない。」
部屋を出るとき、出口の警備ドローンがわずかに動いた。
だが、それは拘束ではなく、ただの視線だった。
まだ、“観察中”。だが、“自由ではない”。
その夜。
ミナトのポケットには、小さな詩の紙片。
> 「人を壊すって、なんだろう。
> もしそれが“眠ってた感情を起こすこと”なら、
> 俺はもう、何度でも壊したいと思った。」