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𝕣𝕖𝕒𝕣
395
#ご本人様には関係ありません
あか
261
#からぴち
琉愛˚𓆩✞𓆪˙
191
追放された勇斗は、当てもなく荒野を彷徨っていた。
仁人の顔を、最後にもう一度だけでも見たかった。だが、それすら許されないまま、勇斗は古都を追われた。
深い悲しみが、体の奥から込み上げてくる。仁人にどう思われているのか、考えるだけで胸が張り裂けそうだった。それでも、勇斗の心には、まだ一つだけ、諦めきれないものがあった。
(――仁人を、逃がさなければ)
自分がどれだけ裏切り者と罵られようとも、仁人の身の安全だけは、この手で確かなものにしたい。その一心で、勇斗は再び、舜太のもとへと足を向けた。
一方、古都に残された仁人もまた、深い喪失感の中にいた。
勇斗が敵に通じていたという証拠は、確かにあった。それでも仁人の心は、その事実を、完全には受け入れられずにいた。
(――本当に、僕を裏切ったんですか)
答えの返ってこない問いを、仁人は、何度も胸の中で繰り返した。追放したのは自分自身のはずなのに、いなくなった勇斗を想うたび、涙が止まらなくなる。裏切られたという確信も、勇斗を信じ続けたいという想いも、どちらも仁人の中で、行き場を失ったまま渦巻いていた。
舜太の陣を再び訪れた勇斗を、衛兵たちは訝しげに迎えた。だが、以前の交渉を知る者の計らいで、勇斗は、再び舜太の前に立つことを許された。
「――勇ちゃん、また―」
舜太は、呆れたように勇斗を見つめた。傍らには、柔太朗の姿もあった。
「大切なあの人のそばを離れていいのか?まだ何か用?」
「仁人を、逃がしたい。……頼む。もう一度、力を貸してくれ」
「だから、何度もやり取りしている。おかげでけりがついてきた。なぜ、今更――」
「密書が、仁人に見られた」
「ああ。――なあ、勇ちゃん。裏切り者呼ばわりされてまで、なんでそこまでするんや」
その問いに、勇斗は、迷うことなく答えた。
「仁人が、俺の生きる意味だからだ」
舜太は、その言葉に、一瞬、目を見開いた。それから、隣に立つ柔太朗をちらりと見やった。
「――分かる気がするわ」
舜太は、静かに呟いた。
「俺も、似たようなもんやったから。柔との約束だけを支えに、ここまで来た」
柔太朗は、その言葉にそっと目を伏せた。
「……分かった。今回だけじゃない。これからも、できる限りのことはする」
舜太は、そう言うと小さく笑った。かつての、人懐っこい少年の笑顔の名残がそこには確かにあった。
その夜、舜太の陣営の片隅で休ませてもらった勇斗は、久しぶりに、浅い眠りに落ちた。
夢の中、勇斗は、雨の降りしきる王都を彷徨っていた。
どこかで、仁人が泣いている。その声だけを頼りに、勇斗は必死に走った。
ようやく見つけた仁人は、誰もいない裏庭で、一人、膝を抱えて泣いていた。
「仁人!」
駆け寄り、抱き締めようと手を伸ばす。
だが、その手が触れる直前で、勇斗は目を覚ました。
暗闇の中、勇斗は、しばらく呆然と天井を見つめていた。
夢の中でさえ、自分たちはすれ違ったままだった。
翌朝、柔太朗が、そっと勇斗のもとを訪れた。
「――眠れた?」
「……あんまり」
「そう」
柔太朗は、勇斗の隣に、静かに腰を下ろした。
「聞いてもいい? 仁人って、どんな人なの。二人は、どうやって出会ったの」
勇斗は、少し驚いたように柔太朗を見た。それから、ぽつりぽつりと語り始めた。
初めて出会った日の、稽古場での凛とした横顔。芸術にしか興味を持たない、変わり者と呼ばれていた王子。塩対応の裏に隠された、寂しがりな性格。二人で過ごした、数えきれない夜のこと。
柔太朗は、黙って、その話に耳を傾け続けた。話が進むほどに、勇斗の献身の深さと、仁人への想いの大きさに、柔太朗は静かに驚かされていた。
「――なんか、仁人って人、昔の僕に似てるね」
柔太朗は、ふと、そう零した。
「運命を信じたくないのに、結局、逃れられない何かに、縫い付けられてる。……そういうところ、僕にもよく分かる気がする」
勇斗は、何も言わずに、小さく頷いた。
「ねえ――」
柔太朗は、少し遠くを見つめながら、続けた。
「仁人って人の本当の望みって、何だったんだろうね」
その問いに、勇斗は、すぐには答えられなかった。
その後、柔太朗は、舜太と二人きりで話す時間を持った。
「勇斗と、少し話したよ。仁人って人のこと」
「――そうか」
「聞いてて、なんだか、昔の僕らを思い出した」
柔太朗は、静かに舜太を見つめた。
「僕は、舜に守ってほしいなんて、思ってなかったよ。ただ、無事でいてくれるようにって、それだけ、ずっと祈ってた」
舜太は、少しの間、黙り込んだ。それから静かに口を開いた。
「――俺は、それやと足りひんかった」
「え?」
「柔の全部が、欲しかった。守るとか、祈るとか、そんな生易しいもんじゃなくて。……だから、世界を変えてでも、柔のところへ帰ろうと思った」
その言葉に込められた重さに、柔太朗は思わず息を呑んだ。
舜太のその想いには、危うさと、ある種の傲慢さが滲んでいた。誰かの人生を、自分のためだけに作り替えてしまうような、そんな恐ろしさが。
それでも、柔太朗の胸の奥には、その激しい愛を向けられていることへの、決して褒められたものではない、密かな悦びもまた、確かに存在していた。
この人を、止めることは、もうできない。柔太朗は、静かにそう悟った。
柔太朗との会話のあと、勇斗は一人、静かに考え込んでいた。
仁人の、本当の望みとは、何なのだろうか。
仁人に生き延びてほしい。幸せでいてほしい。それは、勇斗の、揺るぎない願いだった。だが、ふと、その願いが、本当に仁人自身が望んでいることなのか、それとも、自分が仁人に押し付けている、勇斗自身の願いに過ぎないのか――勇斗は、初めて、そんな疑問に突き当たった。
王都を脱出したあの夜のことを、勇斗は思い返した。
馬上で、仁人が震える声で呟いていた言葉。「王都が……母上が……」
あの言葉に、すべてが表れていた気がした。
(――仁人の望みは、王都を取り戻すこと)
勇斗は、静かに、その結論に辿り着いた。
仁人が本当に望んでいるのは、ただ生き延びることではない。あの王都に、もう一度戻ることだ。
それが、どれほど困難な道であっても。
勇斗の胸の内に、新たな決意が、静かに芽生え始めていた。
コメント
1件
うわ、このエピソードめっちゃ刺さったわ…。勇斗の「仁人が俺の生きる意味」って台詞がもう、ズドンって来た。そして仁人の本当の望みに気づき始めたところで終わるのが、もう続きが気になって仕方ない。裏切りのはずなのに、どっちも必死で守りたいものがあって、すれ違ってるのが切なすぎる。舜太と柔太朗の関係性も深掘りされてて、世界観の厚みが増してる感じがした🔥