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鬼殺隊の射手

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鬼殺隊の射手

29 - 第29話 弓使いの少女

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18

2025年10月11日

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弓使いの少女

・・・・・・・・・・




気が付くと、そこは弓道の試合の会場だった。


『……あ、れ…?』


私、戻ってきたの……?


手も身体も透けていない。

白い上衣に胸当て、紺の袴に足袋を身に着けた自分の姿。




「椿彩!そろそろ再開だってよ!」

『?…再開って??』



同じ弓道部の友達に声を掛けられて、はっと我に返る。


「んも〜。椿彩ったら目開けたまま寝てたの?試合中に近くに雷が落ちて、道場内が停電したから、復旧するまで待機って言われたじゃない」


雷が落ちて……。

弓道の試合……。


『あ…そうだったの……』

「そうだったの、って…椿彩、大丈夫?普通に受け答えしてたのに」

「どうした?」

「なんか椿彩が変なの」

「緊張でパニクってんじゃねえの?」


心配した他の部員たちも私の顔を覗き込む。


懐かしい弓道場の光景。同じ部の仲間たちの顔。

汗と、蒸し暑い道場の匂い。




「お待たせいたしました。只今より試合を再開します」


アナウンスが流れ、道場内にいる各校の士気が上がる。


「ほら!椿彩。出番だよ」

『……私?』

「やっぱり目開けたまま寝てたんじゃない?椿彩の番で雷が落ちたから、あんたから始まるの」

「しっかりね!うちらのエース!」


…そうだった。長く大正時代で過ごしたから忘れかけてたけど、こっちでは試合の最中だった。

私が向こうの世界で過ごした半年近くの月日は、今自分がいる世界のたった数分に換算されるってことだよね。


私は…夢を見てたのかな?みんなが言ってたみたいに目を開けて寝てたの?


ううん、違う。夢なんかじゃない。

私は確かに、あの場所にいて、大好きな鬼殺隊の仲間たちと一緒に過ごしていた。


剣を握った手の感覚も、鬼の頸を斬り落とした感覚も、温かな手に頭を撫でられた感覚も、ぎゅっと抱き締めてもらった感覚も、全部、本物だ。


突然のお別れを受け入れたくなくてみっともなく泣いてしまった私に、みんなが口を揃えてこう言った。


“笑って”

“元気で”

“幸せに生きて”


正直、まだ頭が追いついていない。

でも今は、目の前の試合にちゃんと向き合わなくちゃ。


ゆっくりと立ち上がる。弓と矢を持って。


「椿彩ー!頑張れ!」

「頼んだぞ!」

「夏目先輩、ファイトです!」


背後に同じ高校の仲間たちの声が聞こえる。

私は静かに矢を掛け、弓を構えた。















無惨との戦いが終わり、平和な世界が訪れた。

しかし俺の愛しい人はもう、この世にいない。

鬼殺隊の連中も、大勢の者が命を落とした。何とか生き残っても身体の一部を失った者、後遺症に悩まされた者も多くいた。


ああ。珠世様。

あなたがいないこの世界に、俺が生きる意味なんて見い出せません。

あなたに会いたい。もう一度だけでいいから、珠世様に会いたい。

無惨が滅んだこの世界に、もう、鬼という生き物は俺と茶々丸だけ。


珠世様に会いたくて仕方ないが、彼女に救っていただいたこの命を無駄にするわけにはいかない。

そんな思いで、俺はあれから愛する人の絵を描き続けながら、約100年の時を生きている。






今日は天気が悪い。空は厚い雲に覆われ、大粒の雨を勢いよく地上に落とす。陽の光が射さないので、鬼である自分も昼間に外へ出歩くことができるのだ。



ふと立ち止まる。

県が管理する武道場の正面玄関。そこには“高校生弓道大会”と書かれた看板。


確か、あいつも弓使いだったな。

無惨と戦う時には、あいつの姿はなかった。ぱったりと自宅に来なくなり、連絡も突然途絶えた夏目。もしかしたら元の世界に戻ったのかもしれない、と珠世様が仰っていた。


ちょっとだけ覗いてみようか。



武道場に入り、一般客の席に腰掛ける。



「椿彩ー!頑張れ!」

「頼んだぞ!」

「夏目先輩、ファイトです!」


聞こえてきたガキ共の声に、ドクンと胸が大きく脈打つ。


ツバサ?ナツメ?


会場中が1人の高校生に注目する。



…!!あれは……!


間違いない。夏目椿彩だ。

本当に元の世界に帰っていたのか。


鬼殺隊の隊服ではない、周りと同じ、弓道着姿の彼女。


同じ学校の他の生徒は既に射た後なのだろうか。

的には矢の刺さった跡が残っている。

ということは、夏目が大落を務めるのか。


夏目が静かに矢を掛け、弓を構える。


その所作の美しさに、会場は水を打ったような静けさに包まれる。


ゆっくりと矢を引く。

キリキリと弓の弦が後ろに引っ張られる。


思わず目を奪われる、凛とした彼女の横顔。



ビュンッ

タァン!!


夏目の放った矢は、4本とも見事に的の中心に突き刺さった。


割れんばかりの拍手が沸き起こる。



その後は個人戦だったようで、こちらも夏目は4本の矢を全て的の中心に当ててしまった。




夏目の快挙により、団体戦は彼女の学校が優勝したようだ。個人戦も夏目が優勝。


よかったな。



正直言って、あの戦いで夏目は生き残れなかったと思う。

彼女の実力を低く評価しているわけでは決してないが、あの柱たちでさえ命を落とした最終決戦だ。あの過酷な戦いが始まる前に元の世界に戻れてよかった。



珠世様。

あなたが案じていた弓使いの少女は、ちゃんと彼女の生きるべき世界に戻って元気に暮らしていますよ。



表彰式が終わり、同じ学校の仲間に囲まれて笑っている夏目を見届け、俺は武道場を後にした。















あの不思議な体験から7年。

私は大好きな仲間からもらった髪飾りとブレスレットを、今でも大切に身に着けている。


この世界に戻ってきた時。

刀も弓矢も隊服も全てをあの時代に置いてきてしまったと思っていた。けれど、どういうわけか、しのぶさんがくれた蝶の髪飾りと、無一郎くんがくれた蜻蛉玉が編み込まれた組紐のブレスレットが私の鞄の中で輝いていた。


そもそも、肉体はこっちにあって同じ部の仲間とは普通にやり取りしていたのに、試合が中断されたそのたった数分の間、魂だけ大正時代に飛んで半年近くの時間を過ごしていたなんて、非現実的な出来事。

なんで?どうして?と考えてもキリがないから、その2つの宝物を見つけて私は素直に喜んだ。




あの突然のお別れの後、みんなは無惨と戦ったんだろうな。

きっとたくさんの仲間たちが命を落として、傷付いた人も大勢いるんだろうな。

もしそれで生き残っても、寿命を迎えてお空に旅立っていったんだろうな。



私が生きるこの時代に、あの時一緒に過ごした仲間は誰もいない。

この世界に戻ってきた当初は寂しいと思っていたけれど、今はそうじゃない。

それは、大好きなみんなが生まれ変わったり子孫を残したりして現代に生きているのが分かったから。



学生の頃お世話になった実習先の園にいた、悲鳴嶼さんと同じ見た目の大きな身体の保育士さん。


鶺鴒女学院の制服に身を包んだ、しのぶさんにそっくりなお嬢さんと、仲のいいお姉さん。


同じスイミングスクールのバッグを下げた3人組の小学生のうち、1人は冨岡さんの生き写しだった。


毎朝の通勤途中に見る、“ランニングマン”とあだ名をつけられた炭治郎によく似た高校生の男の子は、今日も全力疾走しながら学校へ向かっていく。

どうやら彼にその名をつけたのは、きよちゃん、なほちゃん、すみちゃんとそっくりな女の子たちのようだ。

そしてランニングマンとよく一緒に全力で走っている、煉獄さんみたいに快活な男の子。


カナヲちゃんにそっくりな男の子と、禰󠄀豆子ちゃんの見た目そのままの容姿の女の子は、今日も仲良く手を繋いで登校している。

そんな2人に向かってジメジメした視線を送りながら数メートル後ろを歩く、善逸の黒髪バージョンみたいな男の子。


町中で見かけて思わず二度見してしまった、ベビーカーですやすや眠る双子の赤ちゃん。

2人には無一郎くんと有一郎くんの面影があった。



今若くして活躍している、体操の宇髄天満選手は宇随さんの子孫だった。とあるドキュメンタリー番組で宇随選手のお家の中を撮影された時に、天元さんに雛鶴さん、まきをさん、須磨さんが可愛い赤ちゃんたちと一緒に写った写真が飾られているのを見たから。


植物学者の嘴平青葉さんは伊之助の気が弱くなった感じ。伊之助はアオイちゃんといい感じだったみたいだし、2人が結ばれて、その子孫の青葉さんの名前はアオイちゃんからきているんじゃないかと勝手に想像している。



『おはようございます』

「ああ、おはようございます」

「今日も気をつけて」


交番のおまわりさん2人と挨拶を交わす。

玄弥によく似たおまわりさんと、不死川さんの面影が重なるおまわりさん。

顔が似ている彼らは全くの他人らしいけれど、一緒に凶悪犯を捕まえてから本当の兄弟みたいに仲良くなったんだって。




『おはようございます』

「あっ、椿彩ちゃんおはよう!」

「今日も仕事か」

『はい』

「保育士さんは大変ね!今日も頑張ってね!」

『ありがとうございます』

「今度来てくれた時は好きなおかずサービスしてやるから」

『やった!ありがとうございます!』


定食屋を営む、伊黒さんと蜜璃さんそのままの容姿のご夫妻。

高校卒業をする頃からお店に通って仲良くなって、時々サービスしてくれるの。




驚くことに、お館様のところの輝利哉様は日本最高齢記録を更新したらしく、今朝の情報番組でインタビューを受けていた。


みんな、姿形や人物は違うけれど、この世界にいることが分かって嬉しかった。

初めてそれぞれをこの世界で見かけた時、懐かしくて嬉しくて、涙が溢れそうなのを必死で堪えたっけ。




しのぶさん、カナヲちゃん、アオイちゃん、なほちゃん、すみちゃん、きよちゃん。

伊黒さん、蜜璃さん、冨岡さん、炭治郎、禰󠄀豆子ちゃん、善逸、伊之助、玄弥。

珠世さん、愈史郎さん。

実弥さん、煉獄さん、悲鳴嶼さん、宇随さん、まきをさん、須磨さん、雛鶴さん。

お館様、あまね様、輝利哉様、ひなき様、にちか様、くいな様、かなた様。


そして、無一郎くん、有一郎くん。


みんなが守って、繋いでくれた命。

みんなが命を懸けて導いてくれた、鬼のいない平和な世界。


ありがとう。本当にありがとう。

私、無事に元の世界に戻って、元気に暮らしているよ。

保育士になって、たくさんの子どもたちの成長を見守っているよ。そしてね、今勤務しているのは、実習でお世話になった、悲鳴嶼さんそっくりな先生がいる園なんだよ。




これから年月が経って、私がしわっしわのお婆ちゃんになるまで長生きして天国に行けたら、あの時一緒に過ごしたみんなにまた会えるかな。その時はたくさんのお土産話を持って行くから、お空の上で待っててね。

天国にどんなものがあるか分かんないけれど、きっと快適だろうと勝手に想像しているから、色々と必要なものを揃えてスフレパンケーキを焼いてみんなで食べようね。大っきなフライパンで、大きくて分厚いスフレパンケーキを。



みんなに恥ずかしくないように、私はこれからも胸を張って生きていくよ。大好きなみんなとの思い出を、心の支えにね。

















にゃおーん


「ん?どうした、茶々丸?」


茶々丸が、カリカリと扉を引っ掻いている。


外に出たいのだろうか?


玄関扉を開ける。


にゃおーん


外に出られたというのに茶々丸は出掛けていかず、尻尾をピンと伸ばしてゴロゴロと喉を鳴らし始める。嬉しい時の仕草だ。

その目は少し先から歩いてくる、1人の女性を捉えていた。


彼女が段々と近付いてくる。


『…愈史郎さん……?』


聞き覚えのある声。


その人物は、あの弓使いの少女だった。


「お前…夏目か…?」

『はい。……っ…ほんとに、愈史郎さんだ……』


高校の弓道の大会で見たのが最後だった夏目は、20代半ばくらいの大人の女性になっていた。

そんな彼女が、ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、あろうことか俺に勢いよく抱きついてきた。


「おい!?何するんだお前!?」

『…ぅ…ゆしろうさんっ…やっと会えた……!』

「…………」


俺を抱き締めていいのは愛する珠世様ただ1人だけだ。

そう強く思っていた。


けれど。

涙を流しながら躊躇なく自分に抱きついてきたこの娘を振り払うことは俺にはできなかった。


“あの頃”を知る人物は次々と死んでいき、自分の正体を知る、唯一の友人である産屋敷輝利哉ももうヨボヨボの爺さんだ。いつ旅立ってしまうか分からない。


そんな漠然とした寂しさを抱える俺の前に現れた夏目。

彼女はまだ若い。事故や大病をしない限り、あと数十年はこの世界を生きていてくれるだろう。

鬼である俺にとっては僅かな年月だが、それでも自分が独りになる未来が先送りになった気がして、不覚にもそれを嬉しく思い、目頭が熱くなった。




茶々丸は相変わらずゴロゴロと喉を鳴らしながら、夏目の足元に頭を擦りつけている。

人目もあるので一旦、玄関の扉を閉めて夏目を家の中に招き入れた。


俺も今日だけ、今だけ特別だと自分に言い聞かせ、夏目の華奢な身体をそっと抱き締め返す。



「…お前、何でこんな時間にほっつき歩いてるんだよ。それに、どうしてここが分かった?」


顔を上げて身体を離す夏目。

濡れた睫毛に絡んだ小さな雫が、電気の光に反射しキラキラと輝いている。


『今夜は中学の同窓会だったんです。…帰ってたら茶々丸くんの声が聞こえた気がして……。何となく、愈史郎さんに会える気がして、そう思う方向に歩いてきたらここに着きました』

「……そうか」


相変わらず並外れた勘の鋭さだな。


『愈史郎さん、画家になったんですね。私、“山本愈史郎”の個展、何回も見に行ったんですよ。……どの珠世さんもとても綺麗でした』

「そうか。…ありがとな」



うにゃーん


なかなか構ってもらえない茶々丸が拗ねたような声を出す。


『…あ、ごめんね茶々丸くん。あなたと再会できたのもすっごく嬉しいよ』


夏目が優しい表情で茶々丸を撫でる。

懐かしい光景だ。



ふと、夏目の左手の薬指に光るものに気が付いた。


「…夏目。お前、結婚するのか?」

『あ、はい。来月の大安と一粒万倍日が重なる日に入籍する予定なんです』


俺の質問に、夏目がほんのりと頬を染めて笑った。珠世様程ではないが、とても綺麗だった。

ダイヤモンドの指輪を愛おしそうに見つめる彼女。


「そうか。おめでとう」

『ありがとうございます。…よかったら再来月の結婚式に愈史郎さんを招待したいんですけど、あんまり人が集まるところには行かないほうがいいですよね…』

「そうだな。歳を取らないことがバレるとまずいしな」

『そうですよね……』


少し寂しげに微笑む夏目。

そりゃ俺だって、あの時出会った小娘が大人になって、美しいウエディングドレスを着るとなったら是非とも、結婚式に参列したいさ。


「気持ちは嬉しいが、すまないな。写真でも見せに来てくれ」

『はい、そうします』




2人で紅茶を飲む。

珠世様が好きだったアールグレイだ。


茶々丸は夏目の膝の上に鎮座し、満足そうな表情でゴロゴロと喉を鳴らしている。さっきよりも一層大きな音だ。


「……昔、お前が作ってくれたスフレパンケーキとやら…珠世様がとても気に入られたもんだから、俺も作れるようになって、一緒に食べていたぞ」

『そうなんですね!嬉しいなあ』

「お前が焼いた程の美味しさではなかったがな。どう頑張っても、お前の味は再現できなかった」


悔しいが、夏目が持ってきてくれたスフレパンケーキも含む色々な差し入れはどれも絶品だった。



『…愈史郎さん』

「何だ?」

『またこうやって、ちょこちょこ会いに来てもいいですか?』

「……べつに構わないが」


本当は嬉しいのに、素っ気ない態度で返事をしてしまう。


珠世様以外には素直になれない自分の性格を、今少しだけ恨めしく思う。

そんな俺の胸中を知ってか知らずか、夏目がぱっと明るい笑顔を浮かべた。


『やった!またスフレパンケーキ焼いて持ってきますね!あと、茶々丸くんも食べられるようなおやつも』

「茶々丸も鬼だから、普通の猫のように気にしなくても大丈夫だぞ 」

『あ、そっか!』


嬉しそうに微笑む彼女。


「夏目」

『はい?』

「お前、綺麗になったな」

『わ!嬉しい。愈史郎さんがそんなふうに言ってくれるなんて』


俺はお世辞は言わないからな。


「もちろん珠世様には遠く遠く及ばんが」

『知ってますよ』


愈史郎さんは珠世さん命ですもんね、と夏目が笑った。




婚姻前の女性に夜道を1人で歩かせるわけにはいかないので、タクシーを手配する。

タクシー代も充分な額を手渡す。

夏目は申し訳ないから、と遠慮していたが、次ここに来る時の交通費にするように言った。


『すみません、ありがとうございます』

「気にするな。金は有り余ってるからな。……またゆっくり遊びに来いよ」

『はい!愈史郎さんと茶々丸くんに会いにきますね』


俺は連絡先の書かれた紙を手渡す。


「日程がはっきり分かったら連絡してくれ。産屋敷にも会わせてやるから」

『え!?輝利哉様に!?…ちょっと緊張しちゃうなあ』

「気を遣うことない。毛が3本の無害な爺さんだ」


夏目も彼をテレビで観たそうで、少年の頃の産屋敷の姿とのギャップを思い出して可笑しかったのか、くすくす笑っていた。


『輝利哉おじいちゃまに柔らかいおやつも作ってきますね』

「気にしなくて大丈夫だぞ。毛は3本だが、硬い煎餅もバリバリ噛み砕く丈夫な歯と顎の持ち主だからな」

『ふふ。そうなんだ。まだまだ最高齢記録を更新し続けそうですね』




そんな会話をしていたら、呼んだタクシーが来たようだ。


『愈史郎さん、やっと会えて嬉しかったです』

「ああ。……俺もだよ。…………夏目、幸せになれ」

『!…はい』


お邪魔しました、と行儀よく挨拶して、夏目はタクシーに乗り込んだ。

窓から俺と茶々丸に向かって手を振る。


タクシーが発進する。

夏目は俺たちの姿が見えなくなるまで、後ろの窓から手を振り続けていた。



…にゃぁーん……


茶々丸が寂しそうな鳴き声をあげる。


「大丈夫だぞ、茶々丸。そのうちまた遊びに来てくれるさ」


俺の言葉に、茶々丸はフンッ…と小さく鼻息を吐いて、とことこと家の中に入っていった。



大正時代。

俺を鬼から救ってくれた弓使いの少女。100年と少し経った今も、あの頃を知る人間と交流できるのは奇跡だ。

夏目と再会して、久し振りに胸の中が温かくなった。




珠世様。俺は今、とても幸せですよ。







おわり






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