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青森方面高速道路 中永トンネル
トンネル内は完全に凍っていた。放棄された車も、逃げようとしていた人々も。
すると、トンネルの非常口扉が内側から叩かれる。
扉は勢いよく開く。扉からは2人の男女が出てくる。修也と琴音だ。修也は琴音に肩を貸してゆっくりと出てくる。この時、琴音は低体温症を患っていた。
修也「姉貴…!大丈夫…?」
琴音「え……えぇ……」
修也「少し気温が上がったっぽい……」
巨大な氷塊雲は過ぎさり、少しだけ気温が上がっていた。琴音は震えた声で言う。
琴音「お…お父さんと……お、お母さんは……?」
修也「きっと……きっと先に避難してるはずだよ……早く俺たちも青森に向かおう……」
修也は琴音のペースに合わせ、トンネルの出口の方に歩いて行く。トンネル内には、肌寒い風が吹き込んでくる。低体温症に陥っている琴音からすれば、この風に当たりすぎるのは良くなかった。やがてトンネルを出る。トンネルの外には、真っ白な風景が広がっていた。草木も車も看板も…すべてが凍っていた。修也はよく目を凝らし、看板を読む。
修也「青森まで……あと600メートル…意外と近くまで来てたんだ……姉貴……もうちよっとだよ……」
気力を失っている琴音を、修也は気にしつつ、再び足を動かす。しばらく歩き続けていると、高速道路の出口が見えてくる。修也と琴音は高速道路の出口から高速道路を降りる。
修也「ここから港まで……結構な距離がある……」
琴音「し…ゅ……う……やぁ……」
修也「姉貴……?」
琴音は修也の頬に手を置く。修也の頬には、琴音の冷たい手の感触が伝わってくる。
琴音「わ…たし…もう…げん…かい……かも……」
修也「何言ってるんだよ……!ほら!行くぞ……!」
琴音「ぜったい…あしで……まといに……なる……だか…ら……わたし…のこと…は…おいて……いって……」
修也「バカ言うな!クソ姉貴!ここで諦めてどうすんだよ!」
修也は琴音に向かっていう。琴音は少し頭を下げ、修也と一緒に足を動かす。修也達は、何時間と歩き続けた。この頃には、琴音は何も発する事はなく、ただただ足を動かしていた。やがて少し気温の高い地域にやってくる。修也達が坂を上がり顔を上げると、そこには港があった。港は凍ってはおらず、人が大勢いた。
修也「……姉貴……!港……港に着いたよ……!」
琴音「…………ッ」
琴音はゆっくり顔を上げ港の街を見つめる。
修也「あともうひとふんばりだ…行こう……」
修也と琴音は坂を下り、港の施設に向かって近ずいていく。施設の前にはロシア行き、国民避難船乗り場と書かれていた。すると、施設の門の前にいた1人の自衛官が近ずいてくる修也たちに気が付き、急いで走ってくる。
自衛官「大丈夫ですか!」
修也「姉ちゃんが…!助けてください…ッ!」
その時、琴音はバタリと地面に倒れる。
修也「姉貴……!!」
自衛官「…ッ!大丈夫ですか!」
自衛官は倒れた琴音に近ずき容態を確認する。
自衛官「低体温症が酷すぎる……」
自衛官は腰につけていた無線機を手に取り発する。
自衛官「こちら門前警備、重症者あり。至急医療班を…ッ!」
自衛官の要請に、施設の奥から担架を持った数人の自衛官がやってくる。琴音は自衛官らに担架に乗せられ施設内へと運ばれていく。
自衛官「君は大丈夫……?」
修也「えっ……あぁ……はい……」
自衛官は修也の腕に3本の指を当てる。
自衛官「君もだいぶ冷えきってるじゃないか……おいで。」
自衛官は修也を連れて施設内に入っていく。施設内には大勢の人がいた。
修也「あの……ここからロシアに避難できるって聞いたんですけど……本当ですか……?」
自衛官「あぁ。ロシアは日本国民の避難を受け入れてくれている。ロシアの東北は氷河になっても生存確率が高いそうだ。」
修也「そうなんですね……」
自衛官はパイプ椅子を指さす。
自衛官「ちょっとあそこに座って待っていてくれるかい?」
修也「分かりました……」
修也は言われた通りにパイプ椅子の元に向かいパイプ椅子に座る。修也は頭を下げる。
姫奈「君…大丈夫……?」
修也「えっ……」
修也がゆっくり頭を上げると、そこには女子大生が2人いた。姫奈と春夏だ。
修也「えっと……大丈夫です……」
春夏「ほんとに……?めっちゃ顔色悪いけど……」
修也「……」
暗い顔をする修也に姫奈は寄り添う。
姫奈「これ……良かったら食べてね。」
姫奈は袋に入ったサンドイッチを修也に差し出す。修也はゆっくり袋を受け取る。
修也「あ、ありがとうございます……ッ!」
姫奈と春夏は修也に向かって頷き、その場を後にした。修也はサンドイッチを見つめる。それは白いパン生地にハムがサンドされたシンプルなサンドイッチだった。修也はゆっくり袋を開封し、サンドイッチを手に取る。
修也「……い、いただきます…」
修也はサンドイッチを口にする。その瞬間、修也の両目からは涙が流れてくる。修也はサンドイッチを食べ終え、袋を丁寧にたたむ。その時ちょうど、あの自衛官がやってくる。
自衛官「おまたせ、お姉さんのところに連れて行ってあげる。」
修也は立ち上がり自衛官について行く。すると、施設内のある部屋に案内される。そこは病室だった。病室のベッドには、点滴が打たれている琴音がいた。修也は琴音の元に向かって走る。
修也「姉貴……ッ!」
自衛官「重度の低体温症を患っていたけど、点滴と栄養剤によって少しずつ回復してきているよ。ロシア行きの患者専用船のリストにお姉さんを入れたから…君もお姉さんと一緒にロシアに行くといい。」
自衛官の言葉に、修也は感謝の気持ちがこみ上げてくる。修也は自衛官に向かって深々と頭を下げる。
修也「本当に……ありがとうございますッ!」
自衛官は修也に向かって敬礼し、病室を出る。修也はそっと、ベッドの隣の椅子に座った。