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第2話「4人の事情」
――翌日――
夜、祐介は布団に潜り込んでも、まぶたを閉じても、頭の奥で昨日の光景が何度もリフレインしていた。
――タイムカプセル、笑顔の4人組の写真、そして「仲良くできますように」と書かれた紙。
「思い出せそうで思い出せない……」
もどかしさに胸がざわつき、気がつけばほとんど眠れないまま朝を迎えていた。
出勤の準備をしても集中できず、会社でもぼんやり。
「このままじゃ駄目だ」
そう思った祐介は仕事を早めに切り上げ、帰り道で昨日の公園に足を運んだ。
秋風が吹き抜ける静かな公園。夕暮れに染まるベンチの前で、祐介はもう一度タイムカプセルを開けてみた。
取り出した写真をじっと見つめる。自分と、見知らぬ三人の子供たち。全員が泥だらけで、でも楽しそうに笑っている。
「どうして……こんなに懐かしい気がするんだろう」
胸がちくりと痛む。なのに、記憶は空白のまま。
祐介はスマホを取り出し、写真を撮影すると親や昔からの知り合いに送信した。
> 『この写真、俺が写ってるのは分かるんだけど……他の3人が誰か分からないんだ。何か知ってたら教えてほしい。』
送信してから、落ち着かない気持ちで画面を何度も見返す。既読がつくのを待ちながら、ふと昨日会った近所の老人を見かけた。
「……あの人なら、何か知ってるかもしれない」
祐介は勇気を出して声をかけた。
「すみません、この写真に写ってる人たちなんですけど……1人は俺だと思うんです。でも、他の3人が誰か分からなくて」
老人は写真を手に取り、目を細めた。
「……あぁ、覚えとるぞ。名前はもう出てこんけどな……君は、ずーっとその子らと一緒におったんや。まるで兄弟みたいに、どこに行くにも離れん仲やった」
「……!」
一瞬、頭の奥に光が走る。走り回る声、笑い声、温かな背中。だがすぐに霞のように消えてしまう。
「ありがとうございます……」
小さく頭を下げ、祐介はベンチに腰を落とした。
スマホを見ると、ついに返信が届いていた。
母からのメッセージ。
> 『あんた、ほんとに覚えてないの? あんたら、ずっと4人で遊んでたじゃない。名前は……確か “白川ゆいなちゃん”、“西村りあちゃん”、それと “藤川海斗くん”。』
さらに、同級生からも次々と返事が。
知り合い1:
> 『おいおい、マジで覚えてないのか? 海斗、ゆいな、りあだぞ? お前ら4人組って有名だったろw』
知り合い2:
> 『あー記憶喪失だっけ?なら仕方ないか。4人だよ。白川ゆいな、西村りあ、藤川海斗。なつかしいな。』
――名前を聞いた瞬間、祐介の胸はドクンと跳ねた。
耳慣れた響き。けれど、顔も声も浮かばない。
記憶の奥底を針でつつかれているような感覚だけが広がる。
「……っ」
思い出せそうで思い出せない。もやもやはさらに大きく膨らみ、頭を抱える。
「俺は……ほんとに、みんなと遊んでたのか……?」
その時、スマホが再び震えた。
メッセージの通知。差出人は、さっきの知り合いの一人。
> 『そういえばさ……お前ら4人、最後に“あの約束”してたよな。』
画面を見つめる祐介の胸に、激しい鼓動が走った。
――あの約束?
心臓が熱く脈打つ。けれど、記憶はまだ閉ざされたまま。
祐介は思わず、スマホを強く握りしめた。
―――――3話に続く。
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