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kaede🍁
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モンスター狩りの旅を始めて、しばらく経った。
阿部は一つ、大きなことに気付いた。
「……疲れない。」
どれだけ歩いても。
どれだけ魔法を使っても。
不思議なくらい体が平気だった。
最初は、単純に魔王になったことで体力が増えたのだと思っていた。
けれど。
何十体ものモンスターを倒したあと。
阿部は自分の状態を確認してみる。
『体力 MAX』
「……。」
少し前にもMAXだった。
さらに。
『魔力 MAX』
「……え?」
さっきかなり魔法を使ったはずだった。
阿部は試しに、遠くにいた巨大なモンスターへ杖を向ける。
ドォォォン!
モンスターが消える。
魔力を確認する。
少し減っている。
「やっぱ減るよね。」
ところが。
数秒後。
『魔力 MAX』
「……。」
阿部は固まった。
「自動回復してる。」
試しに少し走ってみる。
かなりの距離を全力で走ったあと、一度は体力が減る。
でも。
立ち止まって少し待つだけで。
『体力 MAX』
「……チートだ。」
今更ながら確信した。
魔王。
どう考えても強すぎる。
「これじゃ休憩いらないじゃん。」
人間の頃なら絶対にあり得ない。
むしろ。
疲れたら休むこともできないくらい、勝手に元気になってしまう。
「……便利だけど。」
「怖いな。」
___________
さらに。
阿部は魔法の効率にも気付き始めていた。
今までは。
フレイム。
サンダー。
以前賢者だった頃から使っていた魔法を中心に戦っていた。
けれど。
魔王になってから覚えた、闇属性魔法。
最初はよく分からず避けていた。
「試してみようかな。」
目の前。
荒野には大量の敵モンスターがいた。
十体。
二十体。
もっといる。
いつものサンダーなら、一体ずつ倒すことになる。
阿部は杖を構える。
「闇属性……。」
頭の中に自然と魔法の名前が浮かんだ。
「ダークネス。」
杖を振る。
その瞬間。
地面から黒い影が広がった。
「うわ。」
影は一気に荒野全体へ広がる。
次々とモンスターを飲み込んでいく。
そして。
数秒後。
「……。」
静かになった。
一匹もいない。
「え?」
阿部は周囲を見回す。
「全部?」
本当に全部消えていた。
恐る恐る魔力を見る。
「……。」
ほとんど減っていない。
「サンダーより燃費いいじゃん。」
しかも。
広範囲。
一度に何十体も倒せる。
阿部は杖を見る。
「こっち使った方が早い。」
そこから。
阿部のモンスター狩りは急激に効率化した。
森へ入る。
敵モンスターが大量にいる。
「ダークネス。」
消える。
山へ行く。
大型モンスターの群れ。
「ダークネス。」
消える。
洞窟。
「ダークネス。」
消える。
荒野。
「ダークネス。」
消える。
たまに手下のモンスターが混ざっている時だけ。
魔王特有の感覚で避ける。
「君、味方だね。」
「はい!」
ゴブリンが慌てて離れる。
「じゃあ。」
杖を振る。
その周囲だけ綺麗に避けて、敵だけが消える。
「……便利。」
魔法まで勝手に味方を識別しているらしい。
「もう何でもありだな。」
___________
気付けば。
魔王城からかなり遠くまで来ていた。
阿部は小高い丘の上から、今まで通ってきた地域を眺める。
「……。」
最初に来た時。
この辺りは。
森にはモンスター。
道にもモンスター。
山にもモンスター。
どこを歩いても危険そうだった。
でも今は。
「……何もいない。」
敵モンスターが。
ほとんどいない。
いるのは。
魔王軍の手下だけ。
しかも彼らは。
人間を襲う様子もない。
むしろ。
道を歩いていた商人へ。
「お疲れ様です。」
と挨拶していた。
「……。」
阿部は目を細める。
少し離れた場所。
人間の家族が歩いている。
小さな子どももいる。
誰も武器を持っていない。
さらに。
昔は危険だったらしい街道を。
馬車が普通に走っている。
「……待って。」
阿部は気付く。
魔王城の周辺。
ものすごく安全になっている。
敵モンスターを片っ端から倒した結果。
人間が普通に歩ける地域になっていた。
「あれ?」
普通なら。
魔王は人間にとって一番危険な存在のはず。
なのに。
今。
魔王城の周辺が。
この世界でもかなり安全な地域になっている。
「……俺。」
「何してるんだろ。」
阿部は首を傾げた。
ただ。
レベルを上げたかっただけ。
敵モンスターを一掃したかっただけ。
世界平和を目指した覚えはない。
でも。
結果だけ見れば。
完全に治安維持をしている。
その時。
街道を歩いていた旅人たちの会話が聞こえた。
「最近、この辺り本当に安全になったな。」
「ああ。」
「昔はモンスターだらけだったのに。」
「新しい魔王様になってかららしいぞ。」
「魔王様?」
「敵のモンスターを倒してくださってるらしい。」
「いい魔王様なんだな。」
「……。」
阿部は固まった。
(いい魔王。)
聞いたことのない言葉だった。
「……。」
黒いローブ。
黒い杖。
闇属性魔法。
見た目だけなら。
完全な悪役。
なのに。
やっていることは。
治安改善。
阿部は杖を見つめる。
「闇落ちって。」
「こういう意味じゃないよね。」
遠くでは。
魔王軍のゴブリンが、人間の老人が落とした荷物を拾って渡していた。
「ありがとうございます。」
「いえいえ。」
「……。」
阿部は思った。
(ここ。)
(普通に住みやすそう。)
魔王城の周囲は。
阿部が気付かないうちに。
人間にもモンスターにも住みやすい。
異世界屈指の安全地帯へと変わり始めていた。
___________
異世界の半分ほどが安全地帯になった頃。
阿部は。
なぜか。
魔王と一緒に。
滅びた村の真ん中で、お茶会をしていた。
「……。」
阿部はカップを持ったまま周囲を見る。
崩れた家。
焼け落ちた教会。
雑草だらけの広場。
そして。
その中央にだけ、不自然なくらい綺麗なテーブルと椅子。
白いテーブルクロス。
ケーキ。
クッキー。
紅茶。
「……。」
阿部はもう一度周囲を見る。
魔王が優雅に紅茶を飲む。
「ここ。」
「うん。」
「滅びてるよね。」
「滅びてるね。」
「誰がやったの?」
魔王は少し考える。
「俺。」
「……。」
阿部はカップを置いた。
「なんでここでお茶会してるの?」
「景色いいかなと思って。」
「よくないよ。」
「静かじゃん。」
「人いないからね。」
「落ち着くでしょ?」
「滅ぼした本人が言わないで。」
魔王は笑った。
「昔の話だよ。」
「どれくらい昔?」
「結構前。」
「雑だなぁ。」
阿部はため息をつきながらケーキを一口食べる。
「……美味しい。」
「でしょ?」
「誰が作ったの?」
「手下。」
「普通に料理上手なんだ。」
「最近みんな暇だから。」
「なんで?」
魔王は阿部を見る。
「敵いなくなってきたから。」
「……あ。」
自分のせいだった。
阿部が世界中の敵モンスターを倒し続けた結果。
安全地帯はどんどん広がっていた。
人間の街道は安全になり。
村も増え。
魔王軍の手下たちは。
最近。
道案内。
荷物運び。
畑仕事。
警備。
そういう仕事ばかりしている。
「ほんとに。」
魔王が紅茶を飲みながら呟く。
「世界観変わっちゃったね。」
阿部も頷く。
「俺も思ってた。」
「魔王城の周りに人間の市場できたし。」
「できたね。」
「ゴブリンが野菜売ってるし。」
「売ってるね。」
「ドラゴンが観光名所になってるし。」
「子ども乗せて飛んでたよ。」
「無料で?」
「うん。」
阿部は少し遠い目をした。
「俺。」
「何を目指してるんだろ。」
魔王は即答する。
「平和。」
「目指してない。」
「でも平和になってる。」
「レベル上げしたかっただけ。」
「結果オーライじゃん。」
「魔王が言う?」
二人で笑う。
___________
しばらくお茶を飲んでいると。
魔王が思い出したように手を叩いた。
「あ。」
「何?」
「あべちゃんにお願いある。」
阿部は嫌な予感がした。
この魔王が。
『お願いがある』
と言う時。
大体ろくなことにならない。
「嫌。」
「まだ何も言ってない。」
「先に断る。」
「聞くだけ聞いてよ。」
「……何?」
魔王は少し身を乗り出した。
「手下を人間にする杖があるんだけど。」
「……。」
阿部は数秒止まる。
「何それ。」
「そのまま。」
「魔王軍のモンスターを人間の姿にできる杖。」
「そんなのあるの?」
「ある。」
「誰が持ってるの?」
「裏ボス。」
「……。」
阿部はカップを静かに置いた。
「前回倒した?」
「そう。」
「俺が?」
「そう。」
「またいるの?」
「いる。」
「なんで?」
魔王は笑顔で言う。
「夢だから。」
「便利な言葉にするのやめて。」
阿部は頭を抱える。
「で。」
「その裏ボスが杖持ってるの?」
「隠してる。」
「どこに?」
「裏ダンジョン。」
「名前そのままじゃん。」
「分かりやすいでしょ?」
「もうちょっと世界観大事にして。」
魔王は全く気にしていなかった。
「だから。」
「うん。」
「あべちゃん。」
「倒して。」
「また?」
「うん。」
「そして杖奪ってきて。」
「盗賊じゃん。」
「戦利品。」
「言い方変えただけ。」
魔王は真剣な顔をする。
「でも必要なんだよ。」
「何で?」
「手下たち。」
魔王が周囲を見る。
「最近、人間の街で働き始めてるじゃん。」
「うん。」
「見た目モンスターだと、まだ怖がる人もいるから。」
「ああ。」
「人間になれた方が便利。」
阿部は少し納得する。
確かに。
ゴブリンが八百屋をしていたり。
オークが大工をしていたり。
骸骨が宿屋の受付をしていたり。
かなり馴染んではいる。
でも。
初めて見る人間は。
やっぱり驚く。
「それに。」
魔王が続ける。
「ドラゴンが人間になったら普通に働けるし。」
「今も働いてるよ。」
「空輸しかできないじゃん。」
「強みだと思うけど。」
「スライムも。」
「スライムは?」
「人間になったら接客できる。」
「今も喋れるけどね。」
「見た目の問題。」
「酷いなぁ。」
魔王は笑う。
「だからお願い。」
「裏ボス倒して。」
「杖持って帰って。」
阿部は少し考える。
「強い?」
「裏ボス?」
「うん。」
魔王は沈黙した。
「……。」
「何その間。」
「前より強くなってる。」
「嫌なんだけど。」
「でもあべちゃんも強くなってるじゃん。」
「どれくらい?」
「世界の半分一人で安全地帯にするくらい。」
「……。」
言われてみれば。
確かに。
自分も。
かなりおかしな強さになっている。
「今の俺。」
「裏ボス倒せる?」
魔王は笑顔で答えた。
「多分。」
「また多分。」
「負けたらお仕置きあるし頑張れ。」
「それまだ有効なの!?」
「天使ルールだから。」
「忘れてた!」
阿部は頭を抱える。
完全に忘れていた。
負けたらお仕置き。
内容はまだ知らない。
「……。」
阿部はゆっくり杖を見る。
黒い杖。
闇属性魔法。
自動回復。
レベルもかなり上がった。
そして。
世界の半分を安全地帯にした実績。
「……まあ。」
「行ってみようかな。」
魔王の顔が明るくなる。
「本当?」
「うん。」
「どうせ敵モンスター減って暇だったし。」
「さすが。」
「でも。」
阿部は魔王を見る。
「条件ある。」
「何?」
「俺が杖取ってきたら。」
「うん。」
「この村。」
周囲の滅びた建物を見る。
「復興して。」
「……。」
魔王が固まる。
「俺が?」
「滅ぼしたんでしょ?」
「昔だよ?」
「関係ない。」
「重労働じゃん。」
「俺は裏ボス倒しに行くんだけど。」
「……。」
「どっちが大変だと思う?」
魔王は黙った。
そして。
小さく頷く。
「分かった。」
「約束ね。」
「うん。」
阿部は満足そうに紅茶を飲む。
魔王も少し不満そうにケーキを食べる。
こうして。
世界の半分を平和にした新魔王・阿部は。
次なる目的。
『裏ボスから人間化の杖を奪う』
という。
またしても誰にも頼まれていないようで。
実は結構重要な任務へ向かうことになった。
一方。
旧魔王には。
自分で滅ぼした村の復興作業が待っていた。
コメント
7件
ド⚪︎クエも異世界系も大好きです😋 無職のも、スライムのも、飯テロのも家族揃って好きです❤️
今回は魔王?と思って居たがやっぱり💚ちゃんは良い人だった🤣 でも読んでいて某アニメが浮かんだのは私だけ? 旦那が某アニメ大好きで同じの何度も何度も見せられてるせいか? でも💚の魔王は楽しいからいいか🤣

このシリーズ大好きだから続きが読めて嬉しいです😊