[染み付いた猫の習性]
涼架side
僕が若井の家に転がり込んで数日が経った。
共同生活を送ることになったのだが、僕にとっては全てが新鮮で、そして戸惑いの連続だった
人間になって初めて食べた若井の手料理は、どれもこれも美味しかった。
特に魚料理が出たときは、僕は興奮を抑えきれなかった。
「うまっ…!!」
つい本音が出てしまった僕に、若井は満足そうに微笑んだ。
「だろ?俺の得意料理なんだ」
しかし、食事が終わるやいなや、涼架はテーブルの下にある若井の足に、思わず自分の頭を
こすりつけそうになった。
猫だった頃の習性が、反射的に出てしまったのだ。
「…っと!」
僕はギリギリで動きを止め、何でもないような顔で立ち上がった。
「…ごちそうさま!美味しかった!」
若井は不思議そうな顔をしたが、特に何も言わなかった。
僕は冷や汗をかきながら、自分の **「猫の習性」**を強く意識するようになった。
次の日の朝。
若井が先に起きて、リビングでギターを弾いている。
僕は階段を降りながら、その音色に耳を傾けていた。
若井は、涼架が猫だった時に聴いたメロディーを少しだけアレンジして弾いているようだった
僕は、若井のそばで聴きたくてたまらなかった
彼は、まだ僕の存在に気づいていない。
(…よし、今なら!)
僕は、若井に気づかれないよう、音を立てずに階段を降りると若井の背後にそっと近づいていった。
そして、脅かさないように、若井の肩にそっと飛び乗ろうとした。
しかし、足は若井の肩に届かない。
僕はバランスを崩し、**「にゃっ!」**と、猫のような短い悲鳴をあげながら、若井の背中にしがみついてしまった。
「うわっ、なんだ!?」
若井は驚いてギターの演奏を止め、振り返った
僕は若井の背中にしがみついたまま、固まってしまった。
「お、おい、どうしたんだよ…?」
若井の顔には、困惑とほんの少しの笑いが浮かんでいる。
僕はパニックになりながら、何とか言葉を絞り出した。
「…その、若井が、高い場所にいて…!危ないかなって!」
若井は首を傾げた。
「高い場所?俺、床に座ってるけど…」
僕は、若井の背中から慌てて降り、両手をぶんぶんと振った。
「ち、違う、そうじゃなくて!…その、ほら、朝ごはん、まだだよね!」
無理矢理話題を変える涼架に、若井は不思議そうな顔をしながらも、笑い出した。
「お前、なんか変なの。…でも、まぁいいや。
朝ごはん作ろうか」
若井はそう言って立ち上がり、キッチンに向かっていった。
僕は、その場に崩れ落ちそうになりながら、ホッと胸を撫で下ろした。
(危ない…!あんなこと、もう二度としないようにしないと…!)
僕は自分の両腕を強く握りしめた。
人間になった喜びの、猫の習性を消しきれない葛藤。
その狭間で、僕の秘密の生活は始まったばかりだった。
次回予告
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コメント
1件
バレてはなかったとしてもなんとなくは勘づかれてそう…