テラーノベル
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迷子になっちゃうかもしれないという理由で私は今、桜に手首を掴まれている。
屋台の上から吊り下げられている丸いシャボン玉のようなものがカランコロンと不思議な音を立てた。
「おぅ、久しぶりじゃねぇっすか!桜さん!!」
比較的がっしりした体型の店長?が奥から出てきてさくらに親しげに話しかける。さくらもニコッとそれに応えて屋台に並べられている商品を見始めた。
ここの屋台はパン屋さんみたいでこの前ルイと一緒に食べたサンドイッチも売られている。ここが噂の美味しいパン屋さんなのだろう。見たこともない美味しそうで不思議な形をしたパンがずらりと並んでいる。
そしてあるところで目が惹きつけられた。可愛い装飾がされた大きめのラッピング袋にいろんな形のクッキーが詰められている。
これをハルヒと食べたいな。 そうふと思った。
じーっと眺めていたからだろうかいつの間にかさっきの店長さんが隣にいた。
「お嬢ちゃんそれ欲しいのかい?」
こくんと頷くと、店長さんはたくさん並べられているそれから一つ。私の瞳の色のような空色の星のキーホルダーが付いたものを選んだ。
「ほら。プレゼントだ。桜さんにはいつもお世話になってるからね」
そう言い私にそれを渡す。それを受け取ると店員さんは小声で耳打ちをしてくる。
「桜さん、何がなんでも代金を支払ってくるから、プレゼントで渡したっていうことは内緒ね」
静かに頷くと店員はニカッと笑って他の客の方へと歩いて行った。
そのままウロウロしていると桜も品物を選び終わったようでさっきの店員へ会計をしている。私の持っているクッキーの入った袋は「いつも来てくれるお客様に対してのキャンペーン中だから」という理由をさも本当かのように店員が話していた。
会計も終わり、さらに果物や野菜、食器などの日用品の屋台を何個かついて回っていると、いつのまにかこの広場の中心にある時計塔の針が12時を回った。
昼ごはんは城の食堂で食べるが、お腹が空いたので、桜とそこら辺の屋台で小腹を埋めるためドーナッツを買ってもらう。
さっき買ったドーナッツを持って桜が案内してくれた場所はひどく静かで長閑な雰囲気があり、街を見渡せる丘の上に作られた公園だった。
「ここ私のお気に入りの場所なんですよ」
そうベンチに腰掛けながら桜が笑う。桜の隣に座りドーナッツを頬張ると、カラカラと乾いた晴れの日とは対照的にこれから来る梅雨を連想させるようなしっとりとした食感が口に広がった。
今日はまだ城から少ししか離れたとこまでしか行ってないのに面白いものがたくさんだ。それ達を思い出していると頭がポヤポヤする。
「そろそろ行きましょうか」そう桜に声をかけられ、意識とは少し遠いところで返事をする。
立ちあがろうとした瞬間、突然私の意識はブラックアウトした。
目が覚めると見たことのない天井が見える。
私の部屋には上に魔鉱石かなんかでできた花形のライトがあったはずだ。でも、今見えている天井は酷く簡素でただまっさらなだけ。
ベッドもなんだか硬い。薬品なのかアルコールなのかか鼻の奥がツンとするような匂いが漂っている。
ゆっくりと起き上がると少し頭痛がして体がだるい気がするが特段これと いって何か変わったことはない。
なんで私はここにいるんだろう、、、?
そんなことを思っていると私のベッドの周りにかかっていたカーテンがシャッと軽い音を立てて開く。 そこから顔を覗かせたのは知らない女の人だった。
真っ黒の真っ直ぐでサラサラした長い髪。黒いタートルネックの上に白衣を着て聴診器を首から下げている。腕にはハルヒと同じような赤い十字が書かれた腕章をつけていた。身長は160無いくらいだろう。でも年齢は他の人たちと比べて高そうだ。20歳前半から半ばに見える。
その人は私が起きているのを見て少し目を大きくするとその後ろをチラリと見やり誰かに声をかけた。
数秒後。ドタバタと走る音が聞こえ聞き覚えのある声と見覚えのある顔がカーテンの端から顔を出した。
「未緒さん!起きたんですね、、、よかった、、、」
桜がいまにも泣きそう、と言った顔で駆け寄ってくる。 そこから大まかに何があったのか教えてもらった。
城に帰ろうと立ち上がったら私がいきなり倒れてそのまま意識がなかったこと。桜が慌てふためきながらも救急部隊に連絡を取り、城の医療室まで運んでもらったこと。それから次2時間経っているということ。
話を聞いた後に女の人に軽く診察してもらったら脱水症状による熱中症だそうだ。
「すみません。未緒さんに何もないようにと任されて出かけたのに、私の注意不足で危険な目に遭わせてしまって、、、」
桜が女の人に頭を下げる。
「ちょっと。桜ちゃん。謝るのは私にじゃないでしょ?」
女の人はそう言うと私の方をチラリと見遣った。 すると、桜は少し考えるように下を向いた後、私の方に向き直る。
「ごめんなさい。水飲まないかとか聞いておくべきでしたね、、、」
したり顔でそう言われると、こちらが申し訳なくなってくる。そもそも、喉が渇いたとか言わなかったのは私なのだ。 私が言葉に詰まっていると女の人が今度は私の方へ口を開いた。
「そして、未緒。あなたは自分で体調管理ができるように努力しなさい。」
わかった?と少し強めの口調で詰められる。反射的にうんうんと強く頷くと、本当に?とさらに詰め寄られた。
「そうね。じゃあこれからは毎日私のところに体調を報告しにくること。そして、、、私の手伝いでもしてもらおうかしら」
そうニコっと笑われ拒否することができるわけもなく。私には毎日しなければならない仕事ができた。
そこからさらに少し休むとすっかり元気になった。そのまま病室を出る時に、さっきの女の人も階段まで送りに来てくれた。
「明日ここに来た時に私が見当たらなかったら、シズという人から呼ばれたってそこら辺の人に言ってね。そしたら案内してくれるはず」
シズ、、、先輩が言っていた人だ。テキパキ動いていてルールに厳しそう。返事に有無を言わせない強引さがあるが、面倒見はいいのだろう。
小さく頷くとシズさんは「じゃあ」と言って戻っていった。
階段を上がり、食堂の前で桜と別れる。そのまま城の中をふらふらとどこへ行くともなく歩いているといつの間にか私の部屋近くまで来ていた。
あれからハルヒと会ったあの小さい部屋には一度も辿り着けていない。私の方向感覚が鈍いっていうのもあるけど、いかんせん道が多すぎる。 そして、ハルヒともあまり会えていない。
自室に入り、鏡が置いてある棚の上に今日もらったクッキーの袋を置く。
同じ城内に住んではいるんだ。また今度会えるだろう。その日を楽しみに待っていればいい。
外からは5時を知らせるチャイムが聞こえた今日の探索はこれでやめにしよう。そして、明日は何をしようかな。
これでキアノース探索と中心人物の登場は一旦終わりました。来週からはいよいよ『昇華のイリス』第2章:Current Enemyの始まりです。引き続き『昇華のイリス』をよろしくお願いします。
side叶
「それで、、、どーしたの?重要な話があるっていうのは」
カチャッと静かに扉が開き、先輩が部屋に入ってきたのはわかっていた。けど特に気にせず仕事をしていたら、一拍置いた後机を挟んだ向かい側から声をかけられる。
今整理している情報達が開かれたファイル類を閉じて視線を上げた。前を向くと、日が暮れるまで働いて帰っていった情報部の誰かが座っていた椅子に腰をかけ、整理されていない資料を眺める先輩の姿が目に入る。
「、、、話の重大度から先に言っとくけどかなり高め」
「ふーん」
2人だけしかいない暗い部屋にペラペラと先輩が資料を眺めている音だけがやたらと響く。
「誰かがキアノース内部の情報を抜いたの」
「、、、珍しいね。それだけ?」
まるで興味がないとでも言いたげな感じの話の聞き方だが、先輩が真面目に話を聞いているときはいつもこんな感じなので構わず続ける。
「どの情報が抜かれたかっていうと、先輩から頼まれてた”例”の資料」
紙が捲られる音がぴたりと止んだ。静かに資料が机に置かれる音がする。
「わかった。それ調べといて 」
椅子を引く音がして、コツコツと先輩の皮ブーツが歩くと同時に鳴る。
「そうだなぁ、、、とりあえず最重要項目にしておいていいよ」
違和感、、、
「先輩知ってたの?」
情報部の部屋をぐるりと一周している先輩へ視線を向けると「いや」と声が発せられた。
「気付いたのは風。田中が提出した資料付近のデータがなんとかってついさっき言ってた」
「まぁ確証はなかったけどね〜」と軽く告げられるが、軽い話ではないのはお互いの間に共通認識がある。
「それで、、、叶が呼んだってことはそれだけで話は終わらないんでしょ?」
さっきの椅子まで戻ってきて私と目が合うとニヤッと笑われる。
「さぁ。叶の考えを聞こうか_____」
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