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祖母が再び藤嗣寺を訪れたのは、光蔵さんの葬儀の時だった。

一生会わないという誓いはちゃんと守った。

もういいだろう。お別れの挨拶くらいは行かせてもらおうと、参列したお通夜で、祖母は初めて一枝さんと出会う。

一枝さんは、光蔵さんから祖母の話を聞いていたらしい。

これがもっと若いときなら、違う気持ちだったかもしれないが、お互い主人に先立たれた身。

少し話しただけでわかり合える何かがあったそうだ。

それから、気落ちしている一枝さんを慰めるために、祖母は何度も藤嗣寺に足を運んだ。

そうして、二人は長年親交を深めてきた親友のような仲になったらしい。


『一枝ちゃんはできた人だったよ。光蔵さんはいい奥さんをもらった』


藤嗣寺で見せていただいた一枝さんの写真が目に浮かぶ。


『それで……花まつりの日に光蔵さんに会ったっていうのは?』

『墓に行ったら、墓の前に光蔵さんが座っていた。信じられないことに、昔のままなんだよ。二十代の頃の光蔵さんに戻っていた』


人が死んだ後のことはわからないけれど、どうやら死んだ後は自分の好きな時代の姿に戻れるらしい。

つまり、光蔵さんは自分で二十代の容姿を選択したということだ。


『こっちは皺くちゃだってのに、すっかり若返って、ムカつくったらないよ!』

『アハハハ、そうなんだ』


あっちの世界では一枝さんも二十代に戻っているらしい。

いいわね。ずっと若い姿で楽しく過ごせるなら。


『言ってなかったけどね、杏子がひなを身ごもってから、ずっと一日参りをしていたんだよ』

『おばあちゃん……』


祖母は私の相手が鷹也だということは知らなかったらしい。

それは私が一夜限りの相手だと言い張ったからだ。

それでも、幸せにはいろいろな形がある。

再婚して幸せになっている父のように、いつかシングルマザーの孫にも幸せが訪れるようにと、お参りしてくれていたそうだ。


一枝さんも、私がシングルマザーということは知っていた。

しかし天上に召された一枝さんは衝撃的な話を知る。

私の相手は孫の鷹也なんだと。

しかも二人は学生時代付き合っていたのだと。

ひなが生まれたことを知らない鷹也は今でも私を思い続けているのだと。

光蔵さんからこのことを聞いた一枝さんは、なんとか祖母にこのことを伝えたいと言った。

しかし、光蔵さんにもそれはできないこと。

天上で知ったことを、生きている人間に伝えてはいけないのだ。

悶々と過ごしていたという光蔵さんと一枝さん。

ついに祖母が天上に召される日がやってきたのだ。

それを知った光蔵さんはこれがラストチャンスと天上から降りてきたのだという。


『明日死ぬ予定だったとはいえ、こっちはまだ生きている身だった。夢に出てきた一枝ちゃん同様、光蔵さんは私に杏子と鷹也くんのことを伝えられないでいた』


祖母は話していても、核心に触れない光蔵さんを不思議に思ったらしい。

この人は一体何を伝えたいのだろうかと。

そこで光蔵さんが目を付けたのが祖母の手にあるどんぐり飴だった。


『どんぐり飴が入った小瓶に、光蔵さんが手をかざしたんだ。すると二つの小瓶がふわっと光った』

『……!』

『言葉で伝えられないから、どんぐり飴に加護を授けたんだ』


それがあのどんぐり飴!


『まーさか、入れ替わりなんていたずらをしでかすとは思わなかったよ』

『アハハハ……』

『でも、光蔵さんの思惑通りに事は運んだ。杏子たちは入れ替わってお互いの現在を知って、前に進むことができた』

『うん……。光蔵さんのおかげだね』


そっか……。そういうことだったんだ。


『あ、でも悠太も食べたのよ? どんぐり飴』

『御加護は杏子に対してだけだからね。杏子が幸せになれるようにだけはたらくんだ』


なるほど、そういうことか。

『まさか、お互いの孫同士が結婚するとはね……。二人もきっと上で喜んでいるよ』


私たちが出会ったのは偶然だったのだろうか?

ひょっとして、一緒になれなかった祖母と光蔵さんの代わりだったり……。

だとしても、私たちは愛し合っている。身代わりなんかじゃない。

私と鷹也にも出会いから惹かれあうまでの、ちゃんと歴史があるのだから。


『こうやって過去の種明かしをすることはできるけど、未来については語れないんだよ』

『うん……? わかってるよ?』

『……とにかく言えることは……幸せにおなり』

『おばあちゃん……うん。幸せになるよ!』


祖母はホッとしたように頷いた。


『さ、そろそろいこうかね。この姿も最後だよ』

『え?』

『上ではじいさんも出会った頃の姿に戻っているらしい。ばあちゃんだけ皺くちゃはいやだよ。出会った頃の姿に戻ってじいさんの前に現れるつもりなんだ』


そう言って、祖母はまたきれいなウインクをした。

新婚時代に戻るのか。いいわね。


『おじいちゃんと、光蔵さん、一枝さんによろしくね』

『ああ。杏子……気をつけるんだよ』

『え……』


すうっと、祖母が透けていく。


『おばあちゃん!』

『しあわせに……おなり…………』

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