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夕刻の訓練場は、誰もいないとやけに広く感じられた。
羽根を畳んで腰を下ろす少年の隣に、セリス・オリヴァ
ーー唯一の友人が座る。
「…最近、ぼーっとしてるよね。リア。」
セリスの声は軽い。いつもと変わらない調子だ。
少年は少し遅れて、空を見上げたまま答えた。
「そう見えるか?」
「見える見える。剣の振りも雑だし、説教役の天使長に睨まれてたじゃん。」
冗談めかした言い方。でも、ちらりと向けられた視線には、確かな心配があった。
少年は唇を噛む。
「…なあ、セリス。 悪魔って、本当に全員が同じだと思うか?」
一瞬、空気が止まった。
「え?」
セリスはきょとんとしてから、すぐに笑った。
「何に急に。決まってるじゃん。悪魔は悪、倒すべき存在。それ、僕らが生まれて最初に教わったことじゃない。」
あまりにも自然な答えだった。
だからこそ、胸の奥がちくりと痛む。
「…そう、だよな。」
少年の声は小さかった。
セリスは笑顔を引っ込め、少年の横顔をじっと見る。
「ねぇ、リア。もしかして疲れてるんじゃない?」
「疲れ…?」
「最近ずっと前線でしょ。休みも取ってない。」
セリスは立ち上がり、リアの肩を軽く叩いた。
「一度、里に帰りなよ。ずっと行ってないんでしょ?」
ーー里に帰る。
天使としての正しさを、何も疑わず信じていた頃の場所。
捕虜の悪魔の、真っ直ぐな目が脳裏をよぎる。 剣を向けられながら、それでも憎しみより先に浮かんだ、あの感情。
「…私が、間違ってたらどうする?」
思わず漏れた言葉に、セリスは目を丸くした。
「間違い?」
「ああ。もし、私たちが信じてきた正義がーー」
「アゼリア」
セリスははっきりと名前を呼んで、言葉を遮った。
「考えすぎ。リアらしくない。」
優しい声だった。疑う余地なんてない、という顔。
「僕らは天使だ。守る側で、正しい側。 それを疑い始めたら、剣、握れなくなるよ。」
少年は何も返せなかった。 握りしめた手のひらが、わずかに震える。
「やっぱりさ、」
セリスは笑って、背中を向けた。
「里帰りしたほうがいい!戻ってきたら、また一緒に訓練頑張ろうよ!」
その背中を見つめながら、少年は胸の奥で静か思い出す。
ーー少年の育て親であり、師のラフィエル・カリスの事を。