「う……ううう」
ルミナさん達がやってきたその日の夜。僕はうなされていた。
『なんで私を助けてくれなかったの?』
払拭できていたはずの前世のお母さんの言葉。今世とは関係のない彼女の言葉が僕をむしばむ。
苦しい、首を絞めてくるお母さん。想像だと分かっているのに苦しい。僕は僕に殺される?
「バブブ……」
「強くなりすぎたのね。まだまだ子供だから想像に苦しめられてる。大丈夫私が守ってあげるから」
真っ暗な暗闇の中。僕は助けを求める。僕のステータスが高くなって、想像が魔法になり僕をむしばむ。
力強い言葉が聞こえてくる。この声はシディーさんかな。とても温かくて柔らかな声。心が安らぐ。
僕を包むように抱きしめてくれる彼女の両手。僕の頭に乗れるほどの彼女が僕を包んでくれる。
『私が助けられれば良かったのに。本当にごめんなさい』
前世のお母さんの声が聞こえてくる。
僕の想像が上向きに上書きされていく。とても優しい声、お母さんは強くなってくれたんだ。
僕は心が落ち着いていくのを感じて意識を手放した。
「アウ~~~~。バブ」
心が軽くなって清々しい朝を迎える。体を起こすと僕の胸に大きな手が乗ってる。
オリビアかな? っと手を乗せてくれている人を見るとシディーさんだった……。え? 大きくなってる?
「バブ!?」
「ん~、あら? 起きたのね。おはようアルス」
とても可愛らしい顔で目覚めるシディーさん。僕は驚いていたけど、ドキッとして顔が熱くなるのを感じる。
これが恋って奴? 前世ではそんな余裕はなかったから感じなかったけど、胸が締め付けられるのに嬉しい。こんな感覚初めてだ。
「どうしたの顔が赤いわよ。熱でもあるの?」
「バブ!? バブバブ!」
心配してくれるシディーさんが額を僕の額につけてくれる。
僕は否定して首を振るんだけど、優しく頭を撫でてくれる。
「うん。大丈夫そうね。あなたはとても賢い子、感受性が強いから悪い想像を魔力で作り出してしまうのよ。そんなものはないのにね。また何かあったら守ってあげるから安心して。でも、もっと自分を大事にしなさい。僕のせい、私のせいなんて言っても何にも得はないんだからね」
シディーさんはそう言って元の大きさに戻る。
僕を抱きしめるために大きくなってくれた? 僕はそんな彼女をポカンと見つめる。
「ん? ああ、大きくなっていたことにびっくりしていたのね。妖精族は制限はあるけれど、大きくなれるのよ。他種族の人を好きになる人も多いからね」
「ば、バブ……」
この世界ってすごいな。魔法もあるし、種族間での交流も普通にできてる。
「ルードさんや。いらっしゃるかな?」
「ルサンダさん? どうしたんですか?」
シディーさんの話に感心していると家の扉が叩かれる。
村のお婆ちゃんのルサンダさんがやってきてニッコリと微笑む。
「またお客さんが来ましてね。騎士の方のようなんじゃがちょっと危ない感じでいてね~」
「殺気ですか? じゃあちょっと私が」
間延びさせて心配そうに呟くルサンダさん。ルードは剣を腰に差して村の入り口に向かった。
「面白そうね。私達も行くわよアルス、フリル」
「バブ!」
「ワン!」
窓からルードを見送っているとシディーさんがそう言ってフリルの頭に乗っかった。
僕もフリルの背に乗るとルードのすぐ後ろにつく。
「ん? なんだ、シディー達も来たのか?」
「ふふ、面白そうでしょ? ルミナの件だと思うんだけど」
「あぁ~、なるほどな。刺客といったところか」
ルードが気が付いて声をかけてくる。シディーさんの推測になるほどと手を叩いて答える彼も楽しそうに口を緩める。
「お前がこのモンドルの責任者か?」
「責任者なんて重たいものじゃないが、いつもごたごたを解決するのは俺だな」
フルプレートの兜をかぶる騎士が偉そうな口調で聞いてくる。ルードの言葉を聞くと槍を構えだす。
よく見ると後ろの街道に馬車が止まってる。その周りも騎士たちが複数人いるな。
「ここにルミナ・クレイトンがいると調べはついている。素直に出すことだな。さもなくば村を焼いてでも連れ出すぞ」
騎士が要求を突き付けてきて槍の石突を地面に叩きつける。
ルードとシディーさんがその言葉を聞いて大きなため息をつく。そして、槍が半分に切り分けられる。
「焼けるものなら焼いてみな。人に頼む態度じゃねえんだよ」
ルードはそう言うと兜と鎧も切り伏せる。騎士は鎧がボロッと地面に落ちて鎖帷子が見えるようになった。
シディーさんの魔法球を切るときは上下に二回切っていたけど、彼の鎧や槍は一回切るだけで切れてる。ただの鉄なら一回で切れるのかな。
「て、ててて! 抵抗するか! やれ! やっちまえ!」
金髪の騎士はそう言って仲間を呼ぶ。ルードは大きくため息をついて彼らに近づいていく。
「やるつもりならこっちもやるぞ?」
「ひぃ!?」
「はは、命を取るまでもねえな。心がまけを認めてる」
しりもちをついていた鎧を着られた騎士がルードの言葉で両手で顔を隠す。とても無様な姿でルードが笑っちゃってるよ。
そんな仲間を助けようと馬車から次々と降りてくる騎士達。面白そうだから僕も実験しようかな。
「ん? なんだこの球は」
「バブ!」
「ぶあ!? 水! あが!? ぐがが!? ……」
彼らの足元に雷の魔法球を転がす。不思議そうにそれを足で小突く騎士達。フルプレートの兜だから物が良く見えていないみたい。
水をかけると感電してその場に倒れてる。鉄の鎧を着ているから最高な効き目だ。人相手ならこれでいいかもな。爆発させたら死んじゃうだろうしね。
「はは、すげぇな。さて、お仲間はおねんねしたぞ。帰って依頼主に泣きつきな」
「ひ、ひぃ~」
鎧を切られた騎士にそう言い放つルード。彼は仲間を置いて馬車を走らせ始める。
「忘れものよ」
そんな騎士に親切に仲間達を浮かせて馬車に乗せてあげるシディーさん。彼女は優しいな~。
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