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「蓮…どうした?」
ある日の夜、練習室で一人で黙々と踊る蓮に、奨は思い切って声をかけた。
蓮は、振り返りもせず、ただ黙って首を横に振るだけだった。
「…なんか、悩んでるんだったら、俺に言ってくれていいんだよ」
奨は、自分でも、何を言っているのか分からなかった。
蓮が悩んでいるのは、自分が原因だと言うのに。
「別に、何もないよ」
冷たい声が返ってきた。
奨は、その態度に、蓮が自分を拒絶していることを痛いほど感じた。
蓮は、奨の秘密に気づき、一人で葛藤している。
そして、その葛藤が、蓮を苦しめている。
奨は、蓮のその苦しみの原因が、自分にあることを知っていた。
このままでは、二人の関係は修復できない。
奨は、蓮との未来をもう一度手に入れたい、と強く思った。
そのためには、蓮に本当のことを話すべきではないか。
しかし、真実を話すことで、蓮はさらに混乱するかもしれない。
未来の記憶を持つ自分の存在は、蓮にとって、あまりにも重すぎる事実だ。
奨は、非常階段で、一人で立ち尽くしていた。
頭の中で、葛藤が渦巻く。
真実を話して、蓮との関係を修復するか。
それとも、このまま嘘を突き通し、蓮を苦しめ続けるか。
その日の深夜、奨は蓮の部屋のドアをノックした。
「蓮…いる?」
部屋の中から、返事はなかった。だが、わずかに聞こえる物音に、蓮が中にいることを確信した。
「開けてくれないか。話したいことがある」
数秒の沈黙の後、ドアがゆっくりと開いた。
蓮は、照明をつけずに、暗い部屋の奥で奨を待っていた。
奨は、部屋に入ると、ゆっくりとドアを閉めた。
そして、蓮の隣に座り、真剣な眼差しで、まっすぐに蓮を見つめた。
「蓮…お前が考えてる通り、俺は…未来から来た」
蓮は、何も言わずに、ただ静かに奨を見つめていた。
「あの時、非常階段で…蓮を拒絶したのは、怖かったから。蓮が俺の秘密を知って、離れてしまうのが怖かった。それに、俺が未来の記憶を持ってることで、お前の運命を変えてしまうかもしれないって…そう思ってた」
奨は、過去の自分を後悔するように、静かに語り始めた。
そして、二人が未来で歩んできた、すべての道のりを話し始めた。
蓮と自分は、JO1として活動していること。
パフォーマンスリーダーとしての蓮の苦悩。
リーダーとしての自分の葛藤。
そして…いつしか、友情以上の特別な感情を抱くようになったこと。
「俺は…未来で、蓮のことが好きになった。だから、蓮との関係を壊したくなかった。嘘をついて、蓮を苦しめて…本当に、ごめん」
奨の言葉に、蓮の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「…なんで、もっと早く言ってくれなかったの?」
蓮の声は、震えていた。
だが、その声には、拒絶の響きはなかった。
むしろ、安堵と、かすかな喜びが混じっているようだった。
「ごめん…」
奨は、何も言わずに、ただ蓮を強く抱きしめた。
その抱擁は、未来で失ってしまった温かさを、再び感じさせてくれるものだった。