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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第73話:オンライン雪まつり、開幕〜氷の城と、百億円のオークション〜
夜の帳(とばり)が下りた限界集落。普段なら、月明かりと雪の反射光しか存在しない静寂の世界に、今夜だけは異様な熱気が渦巻いていた。
広場の中央にそびえ立つのは、昼間に神獣シロのオーラが『たった十秒』で錬成した、高さ5メートルに及ぶ巨大な氷のシンデレラ城。
昼間は太陽の光を反射して輝いていたその超絶技巧の城は、夜になると、隣に佇む(村長が重機で我が家の庭からわざわざ運んできた)『ゲーミング雪だるま(プラズマ発光体)』の七色の光をクリスタルガラスのように透過させ、息を呑むほど幻想的なイルミネーションを放っていた。
「……すごい。本当に夢の中みたいです。お兄さん、これ、世界中のどんなイルミネーションより綺麗ですよ」
氷の城の内部。俺と小春ちゃんは、透き通る氷の壁に囲まれたメインホールで、興奮で頬を紅潮させながら周囲を見渡していた。
外はマイナス十五度の極寒だが、城の中はシロの『適温25度の絶対防壁』によって完全に守られている。氷には一切熱を伝えず、俺たち人間の周囲だけをピンポイントで暖めるという神がかった結界コントロールのおかげで、城が溶ける心配はない。ダウンジャケットなど不要、半袖でも汗をかくほどのポカポカ空間だ。
見上げれば、精緻な氷のシャンデリア。足元は滑らかに磨き上げられたスケートリンクのような大理石(氷)の床。
「ああ。村長が重機で固めただけの雪の塊が、まさかこんな高級ホテル顔負けの氷のスイートルームになるとはな。需品科の教範にも載ってない異常事態だ」
俺はジンバルにセットしたスマートフォンを掲げ、配信のスイッチを入れた。
【日常チャンネル】緊急特別枠。限界集落・裏雪まつり、開幕。
配信開始の通知が飛んだ瞬間。
画面右上の『同時接続者数』のカウンターが、常軌を逸した速度で回転し始めた。
100万……300万……500万……。
そして開始わずか数分で、カウンターはあっさりと『10,000,000(一千万人)』の大台を突破した。
「いっ……いっせんまんにん!? お兄さん、同接が一千万人を超えてます!! 日本の人口の約一割が、この氷のお城を見てますよ!!」
小春ちゃんが、恐怖すら覚えるような数字に悲鳴を上げた。
チャット欄は、もはや個別の文字を認識することが不可能な、光の帯(滝)と化している。
だが、その滝を無理やり押し留めるように、桁違いの『極彩色MeTubeギフト』が次々と画面に固定され始めた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master! I brought my royal family to watch this! This ice castle is a miracle of the desert’s dreams! I will buy the ownership right now for 50 million dollars!“(主よ! 王族全員を連れて見に来たぞ! この氷の城は砂漠の民の夢の奇跡だ! 今すぐ所有権を5000万ドル(約75億円)で買う!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hold on, Oil King! I bid 80 million dollars! I will disassemble it and preserve it in a giant freezer vault in Zurich!“(待て石油王! 私は8000万ドル(約120億円)だ! 解体してチューリッヒの巨大冷凍金庫に保存する!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Stop fighting! It belongs to the Holy Cat! But Master, can I rent it for a month to live in!? I’ll pay 10 million!“(喧嘩はやめて! それは神聖な猫のものよ! でも主、1ヶ月間住むためにレンタルさせて!? 1000万ドル払うわ!)』
世界を牛耳る超絶VIPたちによる、百億円規模の『氷の城オークション』が、コメント欄で勝手に開催され始めた。
「……ひゃくおくえん……お兄さん、私、数字の単位がわからなくなってきました……。このお城、売ったら国が買えちゃいますよ……」
小春ちゃんが完全に白目を剥いて壁に手をついている。
世界中の一般リスナーたちも、VIPのマネーゲームに完全に圧倒されていた。
『100億の氷の城wwww』
『限界集落の広場が世界で一番地価が高くなってるぞww』
『石油王と銀行家のガチバトルやめろww』
『解体してスイスに運ぶなww 溶けるわww』
『もはや経済がバグってる』
『俺たちの日常チャンネルが、ドバイの不動産市場みたいになってる件』
だが、俺は。
かつてブラック企業で「明日までに1億円の赤字をどうにかしろ」と理不尽に詰められ続けた、鋼の元社畜である。
この程度のマネーゲームで、心の平穏(スローライフ)を乱されるわけにはいかない。
「……VIPの皆さま、熱くなるのは勝手ですが、落ち着いてください」
俺は、氷の玉座(シロがくつろいでいる場所)の横に立ち、カメラに向かって、感情を完全に排したフラットボイスで語りかけた。
『出たァァァァァ!!!』
『100億円を前にしてもブレない男ww』
『主の限界言い訳タイム・100億オークション編ww』
『さあ、この状況をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、画面越しの1000万人に向けて言い放った。
「まず、石油王さん、銀行家さん。この城に100億円の価値などありません。これは私が作ったただの『かまくら』が、放射冷却とゲーミング雪だるまのプラズマ発光の乱反射によって綺麗に見えているだけです。ええ、ただの光の屈折を利用した、安上がりなプロジェクションマッピングですね。春になればただの泥水に戻ります」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、氷の床をツルッと滑りながら渾身のツッコミを入れた。
「かまくらと光の屈折で、こんな完璧なシャンデリア付きのお城ができるわけないでしょ!! 春になったら溶けるのは事実ですけど、今この瞬間の芸術的価値は間違いなく100億円以上の奇跡ですよ!!」
俺は小春ちゃんのツッコミを華麗にスルーし、さらに言葉を続ける。
「それに、同接が1000万人を超えているのも、ただのシステムエラーです。北海道の強烈な寒波が海底ケーブルに干渉し、MeTubeのサーバーが冷害による『パケットの無限増殖バグ』を起こしているだけですね。ええ、ただの通信インフラの凍結障害です。実際の視聴者はせいぜい数百人でしょう」
「だから、あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんの絶叫が、氷の城のアーチ状の天井に美しくこだまする。
「世界の最先端サーバーが、北海道の寒波で凍結してバグるわけないでしょ!! 世界中のみんなが、シロちゃんの魔法のお城を見たくて集まってるんでしょうが!! 100億円蹴ってまで現実逃避しないでください!!」
『小春ちゃんのツッコミで目が覚めるww』
『パケットの無限増殖(冷害)』
『MeTubeサーバーを凍結させるおじさん』
『100億の奇跡を「安上がりなかまくら」で済ませる男』
『適応力バグおじさん、ついに世界のITインフラすらも言い訳に使う』
俺の理不尽極まりない現実逃避と、小春ちゃんの鋭い正論パンチに、1000万人の視聴者たちは腹がよじれるほどの大爆笑に包まれた。
オークションで争っていた石油王たちも、『HAHAHA! Master is always unshakeable!(ハハハ! 主はいつもブレないな!)』と、大量の草(絵文字)を投下して矛を収めたようだ。
『ミャウ(私の城は、誰にも売らないわよ)』
氷の玉座の上で、シロが女王の威厳を放ちながら優雅に欠伸をする。
その足元では、コン吉とコン次郎がツルツルの氷の床で「スケート遊び」をして、スッテンコロリンと転がり回っている。
「……まぁ、そういうことだ。この城は村のみんなと、俺たちの大事な遊び場だからな」
俺は笑いながら、氷を入れてよく冷やしたほうじ茶の水筒を取り出し、氷の城の中で雪見酒ならぬ「氷見茶」を楽しむことにした。
100億円積まれても、絶対に売る気はない。
ブラック企業から逃げ出し、大自然ともふもふたちに囲まれて手に入れたこの怠惰でバグった日常は、どんな大金にも代えられない俺だけの『最高の資産』なのだから。
限界集落の広場で輝く、七色の氷の城。
1000万人のリスナーと共に過ごすオンライン雪まつりは、寒さなど一切感じさせない温かい笑い声と共に、夜更けまで最高に賑やかに続いていくのだった。
コメント
1件
第73話、めちゃくちゃ面白かったです!氷の城の幻想的な描写にうっとりしていたら、まさかの石油王vs銀行家の100億オークションが勝手に始まって笑いました。主人公の「ただのかまくら」「システムエラー」って現実逃避、小春ちゃんの全力ツッコミが最高でしたね!シロちゃんの優雅な欠伸と、ツルツル床で転がるコン吉たちのギャップも可愛くて、心がほっこりしました。こういう、お金じゃ買えないあたたかい日常が主人公の本当の宝物なんですね⛄️ 素敵な世界をありがとうございます!