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ゆうき あきや
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259
#心理描写重視
第74話:天空の奇跡。限界集落にオーロラが舞う〜星降る夜のフィナーレと、宇宙規模の言い訳〜
時刻は深夜零時を回ろうとしていた。
暇を持て余した村長の一声から始まった限界集落の『裏雪まつり』は、今や全世界1000万人が同時視聴する、地球規模のオンライン・フェスティバルへと変貌を遂げていた。
広場の中央で圧倒的な存在感を放つ、超絶技巧の『氷のシンデレラ城』。
そしてその脇で、七色のプラズマ発光を放ち続ける『ゲーミング雪だるま』。
夜空には、凍てつくような北海道の冷気に磨き上げられた、宝石箱をひっくり返したような満天の星が瞬いている。
「……すごいなぁ。こんな景色、一生に一度見られるかどうかの絶景ですよ」
氷の城のメインホール。シロの『適温25度の絶対防壁』に守られたポカポカの空間で、小春ちゃんが星空を見上げながら、うっとりとしたため息をこぼした。
「ああ。ブラック企業で毎日終電までエクセルと睨み合い、蛍光灯の光しか見ていなかった頃の俺に教えてやりたいよ。本当の『光』ってのは、こういうものだってな」
俺も温かいほうじ茶を啜りながら、ジンバルに固定されたスマホ画面に流れる、1000万人の熱狂的なコメントの滝を眺めていた。
村の老人たちも、シロの結界のおかげで寒さを感じることもなく、「長生きはするもんじゃのう」と氷の城の周りで宴会(お茶会)を開いている。
すべてが完璧で、最高にバグった平和な冬の夜。
だが、この祭りの『真のフィナーレ』は、まだ終わっていなかったのだ。
『ミャウ』
それまで氷の玉座で丸くなっていた神獣シロが、不意に立ち上がり、透明な氷の螺旋階段をトコトコと登り始めた。
「ん? シロちゃん、どこに行くの?」
小春ちゃんが目で追う中、シロは高さ5メートルにある氷の城の最上部……鋭く天を衝く『尖塔(スパイア)』の頂へと、羽のように軽やかに飛び乗った。
そして。
満天の星空を見上げるようにして、ピンと背筋を伸ばし、その純白の首を天に向かって大きく反らせた。
『――――ミャアァァァァァァァァゥ…………ッ』
それは、普段の愛らしい鳴き声とは全く違う。
大気を震わせ、大地に響き、そして宇宙の果てまで届くかのような、深く、そして神聖な『祈り』のような長鳴きだった。
「シロ……?」
俺が思わず立ち上がった、その瞬間だった。
シロの鳴き声が夜空に溶け込んだ直後。
星々が瞬く真っ暗な天空に、突如として『巨大な光の波紋』が広がったのだ。
「えっ……?」
最初は、薄い緑色の霧のように見えた。
だがそれは、数秒のうちにみるみる輝きを増し、ピンク、紫、そしてエメラルドグリーンの『巨大な光のカーテン』となって、十勝の夜空全体を覆い尽くしたのである。
天空を揺らめく、圧倒的で神秘的な光の乱舞。
「オ、オーロラ……!?」
俺の口から、信じられないという絶叫が漏れた。
「お兄さん!! 空が!! 空が七色に光って踊ってます!! オーロラです!!」
小春ちゃんが、氷の窓ガラスにへばりついて夜空を指差す。
広場で宴会をしていた村長たちも、全員が言葉を失い、ポカンと口を開けて天空の奇跡を見上げていた。
配信のチャット欄は、一千万人が同時に息を呑むのが伝わってくるほどの、すさまじいバグのような速度で流れ始めた。
『はあああああああああああ!?!?』
『オーロラ!? 北海道でオーロラ!?』
『嘘だろ!? いくら北海道でもこんなハッキリ見えるわけないだろ!!』
『シロ様が鳴いた瞬間に出たぞ!!!』
『天候(宇宙規模)を操りやがったwwwww』
『神獣、ついに大気圏外のプラズマまで支配する』
『綺麗すぎる……泣けてきた……』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A miracle! The cat commands the heavens! I am crying in the desert!“(奇跡だ! 猫が天を支配している! 私は砂漠で泣いているぞ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”This is beyond human comprehension! The ultimate light show!“(これは人類の理解を超えている! 究極のライトショーだ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×5連発)=”Master! Shiro is an angel! This is the most beautiful thing I have ever seen!“(主よ! シロは天使ね! 今まで見た中で一番美しいわ!)』
北極圏や南極圏の極地でしか、それも極めて条件が揃った時にしか見られないはずの、巨大で鮮明なオーロラ。
それが今、限界集落の真上の空で、氷の城を祝福するように優雅に踊っている。
「……シロちゃん、すごい。すごすぎるよ……!」
小春ちゃんが、感動のあまりポロポロと涙をこぼし始めた。
世界中のリスナーたちも、画面越しに広がる宇宙規模のイリュージョンに完全に心を奪われている。
だが。
俺は、元社畜として培った『どんな理不尽な事態にも屈しない鋼のメンタル』を総動員し、震える足を無理やり押さえつけて、カメラの前に立った。
「……世界中の皆さま。感動しているところ大変申し訳ありませんが、落ち着いてください」
『出たァァァァァ!!!』
『1000万人が泣いてるのに、主の限界言い訳タイムwww』
『空気読めwww 今は黙って感動させてくれww』
『さあ、この宇宙規模の奇跡をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、オーロラが舞う夜空を背に、淀みない口調で言い放った。
「これはオーロラなどというロマンチックなものではありません。ただの『サンピラー(太陽柱)』の夜間変異型、いわゆる『ライトピラー(光柱)』です。空気中の微細な氷の結晶(ダイヤモンドダスト)に、隣にあるゲーミング雪だるまの七色のLED発光が乱反射し、上空の風に煽られて揺らめいて見えているだけです。ええ、ただの気象光学現象ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、感動の涙を引っ込めて、俺の背中に渾身のツッコミ・ドロップキックを見舞った。
「ライトピラーで、空全体を覆い尽くすほどの光のカーテンができるわけないでしょ!! ゲーミング雪だるまの光量がどれだけバグってても、宇宙まで届くか!! どう見たってシロちゃんが、宇宙からオーロラを引き寄せてくれたんでしょうが!!」
『小春ちゃんのドロップキック炸裂ww』
『ライトピラー(宇宙規模)』
『ゲーミング雪だるまの光量どうなってんだよww』
『適応力バグおじさん、ついにオーロラを気象光学現象で全否定』
『言い訳のスケールがデカすぎて草』
俺の理不尽極まりない科学的(?)な言い訳と、小春ちゃんのキレキレのツッコミに、一千万人の視聴者たちは感動の涙を爆笑の涙へと変えていった。
『ミャウ(私のステージ、完璧だったでしょ?)』
尖塔から降りてきたシロが、俺の足元にすりすりと身を寄せながら、誇らしげに喉を鳴らした。
その横では、コン吉とコン次郎が「空がピカピカだー!」と氷の床をツルツル滑りながら大喜びしている。
「……まぁ、理由はどうあれ。最高のフィナーレになったな」
俺は苦笑いしながら、シロの純白の頭を優しく撫でた。
頭上には、夜空を彩る奇跡のオーロラ。
目の前には、輝く氷の城と、笑顔で溢れる村の人たち。
そして画面の向こうには、一緒に笑ってくれる世界中の一千万人の共犯者たち。
限界集落でひっそりと始まった小さな裏雪まつりは、神獣がもたらした天空の奇跡と、元社畜の極限の言い訳によって、人類史に残る最高に温かく、そしてバグった冬の伝説として幕を下ろすのだった。
コメント
1件
わあ、もう最高にバグってて温かい……! シロが鳴いてオーロラを呼び寄せる神聖な瞬間と、それを「ライトピラーです」と全力で現実逃避する主人公の温度差がたまらないですね。小春ちゃんのドロップキックも名ツッコミすぎます。世界中からギフトが飛び交う光景、なぜか泣けてくるし笑えてくる。限界集落の伝説、末永く語り継がれてほしいです!