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夜が明け始めていた。ショッピングモールの屋上は、戦いの痕跡だらけだった。
砕けたコンクリート。
焼け焦げた床。
氷の破片と、影の残滓。
数時間前まで激しい戦いがあったとは思えないほど、空は静かに白み始めている。
レイは崩れた手すりに腰掛け、空を見上げていた。
風が少し冷たい。
その後ろで、ルナが自動販売機から買った缶ジュースを投げてよこす。
「ほら」
レイは片手で受け取った。
「……サンキュ」
プシュッ、と音を立てて缶を開ける。
ミナは少し離れた場所でスマホを操作していた。
警察や救急が到着する前に、三人は屋上に移動していたのだ。
ルナがレイの横に座る。
「体、平気?」
レイは肩を回した。
「ああ」
少し痛むが、動けないほどではない。
異能者の体は普通の人間よりも回復が早い。
だが、ルナの目は鋭い。
「嘘」
レイは苦笑する。
「バレたか」
ミナが近づいてきた。
「それより問題は別」
レイが顔を上げる。
ミナは言った。
「カイ」
空気が少し重くなる。
ルナも腕を組んだ。
「あの銀髪のやつ」
「レイの弟って言ってた」
レイは缶ジュースを見つめる。
「……俺も初めて聞いた」
ミナが静かに言う。
「でも」
「可能性はある」
レイが眉をひそめる。
「どういう意味だ」
ミナは少し考えてから言った。
「エデンは昔から異能者の人体実験をしてる」
ルナが顔をしかめる。
「最悪」
ミナは続けた。
「特に有名なのが」
「ナンバリング実験」
レイの目が少し鋭くなる。
「No.0とか言ってたやつか」
ミナは頷く。
「そう」
「成功した実験体に番号をつける」
「No.1、No.2、No.3……」
「その中で最初の二人が」
レイとカイ。
ルナが呟く。
「……兄弟っていうより」
「同じ実験の被験者?」
ミナは静かに頷いた。
レイはしばらく黙っていた。
頭の奥に、ぼんやりした記憶が浮かぶ。
白い部屋。
冷たいライト。
ガラス越しの人影。
そして――
泣き声。
小さな子供の声。
レイは思わず目を閉じた。
「……覚えてない」
ミナは言う。
「幼い頃の記憶がない異能者は多い」
「研究施設から逃げた人もいる」
ルナが言う。
「レイもそのパターン?」
レイは肩をすくめた。
「気づいたら孤児院だった」
「それ以前は覚えてない」
ミナは腕を組む。
「なら辻褄は合う」
ルナが空を見上げる。
「なんかさ」
「漫画みたいな話だよね」
レイは小さく笑った。
「笑えねえけどな」
その時だった。
ミナのスマホが震えた。
「……?」
画面を見る。
そして表情が変わった。
ルナが気づく。
「どうした?」
ミナはゆっくり言った。
「ニュース」
スマホを二人に見せる。
画面には速報が流れていた。
『大阪市内で大規模な異能犯罪発生』
『謎の組織による襲撃か』
ルナが呟く。
「やば」
ミナはさらにスクロールする。
すると――
新しい情報が出ていた。
『政府の特殊対策部隊が出動』
レイが眉をひそめる。
「……政府?」
その時。
背後から声がした。
「その通り」
三人が一斉に振り向く。
屋上の入口に、一人の男が立っていた。
黒いスーツ。
短い黒髪。
年齢は三十代くらい。
鋭い目。
ルナがすぐ構える。
影が広がる。
「誰」
男は両手を軽く上げた。
「落ち着いてくれ」
「敵じゃない」
ミナが警戒しながら聞く。
「あなたは」
男はポケットからIDを出した。
そこにはこう書かれていた。
『異能対策局』
レイが目を細める。
「……何だそれ」
男はゆっくり歩いてくる。
「正式名称」
「日本政府 異能対策局」
ルナが目を丸くする。
「そんなのあるの!?」
男は苦笑する。
「一般人は知らない」
「だが存在する」
レイは立ち上がった。
「何の用だ」
男はレイを見つめる。
そして言った。
「黒崎レイ」
「君に会いに来た」
ルナが驚く。
「知ってるの!?」
男は頷く。
「もちろん」
「今回の事件も全部見ていた」
ミナが言う。
「監視?」
男は否定しない。
「仕事だからな」
そして続けた。
「エデンの動きも」
「君の戦闘も」
「黒雷の覚醒も」
レイの目が鋭くなる。
「……どこまで知ってる」
男は少しだけ笑った。
「かなり」
そして言った。
「だから来た」
「君をスカウトするために」
ルナが大声を出す。
「スカウト!?」
ミナも驚く。
「政府が?」
男は頷く。
「そう」
「異能対策局には」
「エデンと戦う部隊がある」
レイは腕を組む。
「俺をそこに入れたいと?」
男は答えた。
「正確には」
「特別部隊」
「エデン専用の部隊だ」
ルナがニヤニヤする。
「レイ、国家公務員じゃん」
レイはため息をついた。
「まだ決めてねえ」
男は言う。
「焦らなくていい」
「ただ」
少し真剣な顔になる。
「エデンはこれから本格的に動く」
ミナが頷く。
「……私もそう思う」
男は続けた。
「そして」
「カイ」
レイの目が動く。
男は言った。
「実験体No.1」
「奴はエデンの最終兵器だ」
ルナが言う。
「レイと互角だったけど」
男は首を振る。
「いや」
「本気じゃない」
三人が驚く。
男は静かに言った。
「カイの能力」
「虚空(ヴォイド)」
「完全に解放されたら」
「街一つ消える」
ルナが青ざめる。
「は?」
ミナも息を飲む。
レイは黙っていた。
男はレイを見る。
「だから必要だ」
「No.0」
レイの拳が少し握られる。
男は言う。
「君は唯一」
「カイに対抗できる存在だ」
屋上に沈黙が落ちる。
遠くでサイレンの音が聞こえていた。
ルナがレイを見る。
「どうする?」
ミナも静かに待っている。
レイは空を見上げた。
朝日が少しずつ昇っていた。
そしてゆっくり言った。
「……一つ聞く」
男が頷く。
「何だ」
レイは言った。
「エデン」
「どこにある」
男は少し笑った。
「いい質問だ」
そして答える。
「わからない」
ルナが叫ぶ。
「ええ!?」
男は肩をすくめる。
「だが」
「手がかりはある」
ポケットから小さな端末を出す。
そこには一枚の写真が映っていた。
巨大な施設。
海の上。
人工島のような場所。
ミナが目を見開く。
「これ……」
男は言った。
「コードネーム」
「楽園」
レイが呟く。
「エデン……」
男は頷く。
「そう」
「奴らの本拠地の可能性が高い」
ルナがワクワクした顔をする。
「なんか映画みたい」
ミナは真剣だ。
「でも危険」
男はレイを見る。
「だから聞く」
「黒崎レイ」
「君は戦うか?」
屋上に風が吹いた。
レイは少しだけ考えた。
そして――
ニヤッと笑った。
「最初から」
「そのつもりだ」
ルナがガッツポーズする。
「よっしゃ!」
ミナも小さく微笑んだ。
男は頷く。
「歓迎する」
「異能対策局へ」
遠くで太陽が完全に昇った。
だがその頃――
海の向こう。
巨大な研究施設。
暗い部屋の中で。
カイが静かに立っていた。
モニターにはレイの戦闘映像が映っている。
ドクター・カインが笑う。
「どうだ」
「兄は」
カイは小さく言った。
「強い」
そして目を閉じる。
「でも」
金色の目が開く。
「次は勝つ」
カインは満足そうに頷いた。
「もちろんだ」
モニターにはこう表示されていた。
『プロジェクト・エデン 最終段階』
戦いは――
まだ始まったばかりだった。
――続く。