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「国王陛下、ご無事ですか?」
全ての兵を縛って廊下に転がすと、フィルとクリスティーナはダイニングルームに駆け込んだ。
「おお、これは王太子殿。ご無事でしたか」
「はい。私も妃も無事です」
「良かった…。あなた方の身を案じていました。この度は、我がスナイデルのクーデターに巻き込んでしまい、本当に申し訳ない」
「お話は後ほど。今はとにかく、皆様を安全な場所までお連れします。行きましょう」
フィルとクリスティーナは、国王と王妃、そして二人の王子を外へと促した。
その時…
「おやおや、皆様お揃いでしたか。探し回る手間が省けて何より」
不気味な低い声と共に、グラハム2世がゆらりと扉から姿を現した。
フィルは左手を横に伸ばしてクリスティーナ達をかばい、右手で剣を構える。
クリスティーナは国王達四人を守って、部屋の片隅に誘導した。
「ここに伏せていてください」
そう言い残してフィルのもとに戻り、クリスティーナも隣で剣を構える。
「とっとと逃げればいいものを。愚かな王太子夫妻だ。私に刃向かった事を後悔するが良い」
グラハム2世がニヤリと笑うと、大勢の兵が一気に部屋になだれ込んできた。
これはさすがに多勢に無勢だと、クリスティーナは顔をしかめる。
チラリとフィルを横目で見ると、神経が研ぎ澄まされたように集中しているのが分かった。
(やるしかないのよね)
クリスティーナも覚悟を決めて、両手で剣を握り直した。
「かかれ!」
グラハム2世のかけ声を合図に、兵達が一斉にフィルとクリスティーナに向かって来た。
キン!と振り下ろされる剣を払いのけては、また別の兵と相まみえる。
先が見えないが、今はとにかくやり過ごしてチャンスを待つしかない。
ひたすら剣をさばいていると、やがてクリスティーナの剣が刃こぼれし始めた。
「なんてもろい剣なのよ。どういう工程で作ってるのかしら、この不良品!」
「ちょっ、クリス。国王陛下に聞こえるってば」
「だってこれじゃあ、ろくに戦えないもの。勝手に拝借しておいて文句は言えないけれど」
「充分言ってるよ!」
国王に聞かれないかヒヤヒヤしながら戦っていると、フィルの剣もガツンという衝撃と共に真ん中まで刃が欠けた。
「あー、こりゃダメだ」
「でしょう?」
クリスティーナは、いつも身に着けているコルティアの短剣を使いながらフィルを振り返る。
「フィル、他に武器はあるの?」
「んー、俺の剣は取られちゃってない」
そう言うと、フィルは素早く部屋の中に視線を走らせ、壁に掛けられていた何やら豪華な鞘の剣を見つけた。
「国王陛下。この剣をお借りしても?」
フィルがスナイデル国王に声をかけると、戸惑うような声が返ってきた。
「あ、ああ。使えるなら構わないんだが…」
フィルは剣を交えながら後ずさると、思い切り敵の剣を振り払ってから、壁の剣を手に取る。
アンティークのように古い剣だが、グリップも握りやすく、鞘から引き抜いてみると、ブレードはカッティングやエッジも見事なまでに美しい。
一瞬見とれてから、間髪をいれずに襲ってくる敵の剣を受け止めた。
「おっ、何だこれ?」
フィルは思わずまじまじと剣を眺める。
敵の剣を受け止めた時の衝撃が、驚くほど手に伝わりにくく、かつ安定している。
それに重さはしっかりあるのに、とても扱いやすい。
まるでずっと探していた相棒に巡り会えたような感覚になるほど、その剣はフィルの手に馴染んだ。
これならいけると、フィルは確証に似た感覚を覚え、兵を軽々とかわしながら一気にグラハム2世に詰め寄った。
「全員動くな」
グラハム2世の背後から首筋に刃を当てて、フィルが鋭い声を上げる。
「動くとボスの命はないぞ」
ピタリと兵達が動きを止めた。
「武器を捨てて手を上げろ」
一人、また一人と、兵は剣を床にポトリと落としてゆっくりと手を上げる。
全員が降参したのを確認した時、すぐ目の前で不気味な声がした。
「クッ、私を見くびるなよ」
そう呟いたグラハム2世がスッと振り返り、マントの下からキラリと光る剣を抜いた。
だが、構え方からして剣の腕前はさほどではないと分かる。
フィルが軽く剣を振り払おうとした時だった。
グラハム2世は、剣を持っていない方の手でマントの中から何かを取り出すと、フィルに向かって投げた。
ピシャッと音がして、フィルの腕に液体がかかる。
なんだ?と思った次の瞬間、焼け付くような痛みが走った。
(化学薬品?!)
熱傷の痛みに顔を歪めると、クリスティーナが、フィル!と叫ぶ。
「来るな!クリス」
クリスティーナにまで薬品をかけられてはいけない。
フィルは痛みに耐えながら、グラハム2世のマントを剣で切り裂き、みぞおちを剣の柄で打った。
膝から崩れ落ちたグラハム2世を床に組み敷くと、クリスティーナが手早くロープで縛る。
それを見届けたフィルは、ウッとうめいて両膝を床についた。
「フィル!」
クリスティーナは悲痛な叫び声を上げて、フィルを抱き留める。
「早く手当を!」
誰にともなく助けを求め、クリスティーナは涙をこらえてフィルを抱きしめていた。