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鷹槻れん

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#契約結婚
鷹槻れん

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「それは、理解しているつもりです」
晴永は頷く。
「だったら……」
「だからこそ、俺は今、ここへいるんです」
「は?」
「立場を理解しているからこそ、逃げずに話をしに来たんです」
盛晴は目を細めた。
「なおさら理解できん」
低い声が応接室へ響く。
「藤井田家との婚約を反故にすれば、うちの信用は大きく傷付くし、藤井田との長年の付き合いにも亀裂が入る」
そこで吐息を落とすと、盛晴は晴永をじっと見つめた。
「下手をすれば取引先も動揺するかもしれん。――世間は当然騒ぐだろうな」
一つ一つ指を折るように並べ立てる。
「その責任を、お前一人で負えると言うのか?」
晴永は静かに息を吸った。
「負います」
迷いなく答える。
「俺に出来ることなら、全部」
「出来ることなら?」
盛晴が鼻で笑う。
「ずいぶん都合のいい言い方だな。責任というものは、覚悟だけで果たせるものではない」
「最悪の場合、俺は角宮とは縁を切っていただいても構わないと思っています」
盛晴の眼光が鋭さを増した。
「お前は……角宮の名がなくても平気だと言うのか?」
晴永は祖父から視線を逸らさなかった。
「……瑠璃香と一緒になれないのなら、それも仕方のないことだと思っている、とずっとお話しているじゃないですか」
晴永はそこで一度だけ息を吐くと、盛晴をじっと見つめた。
「俺は……角実屋フーズを辞める覚悟も持って、今日この場にいます」
盛晴はしばらく晴永を見つめていたが、やがて深い溜め息をひとつ吐く。
「……愚かな」
吐息交じりに落とされたその一言には、明らかな失望が滲んでいた。
「せっかくわしが敷いてやった道を、自ら捨てるというのか」
「敷かれた道だからです」
晴永は静かに答えた。
「俺は、自分で選んだ人生を生きたい」
盛晴は小さく首を振る。
「……だから子どもだと言うんだ」
あからさまな吐息とともに吐き捨てるなり、盛晴は視線を晴永から外した。そうして晴永の隣で聞きに徹している娘――清香へと矛先を向ける。
「清香、お前はどう思う?」
突然話を振られた清香は、黙って父を見返す。
「お前の息子は、お前と同じ過ちを繰り返そうとしているぞ」
応接室の空気が変わった。
晴永が眉をひそめる。
(やはりきたか……)
そんな思いがどうしても拭えない。
清香をこの場に引っ張り出した以上、その話が出ることは想定の範囲内だった。
清香は、それが分かっていて自分のそばへいてくれている。
晴永と盛晴の視線を受けて、清香が小さく溜め息を落とした。
「……お父様、なにがおっしゃりたいのですか?」
「分からんか」
盛晴は冷ややかに言った。
「晴永よりもう少し若いころだったか。お前も恋だの愛だのと騒ぎ、わしの反対を押し切ってくだらん男と結婚した」
そこで一拍置く。
「……その結果、どうなった」
静寂が落ちる。
「あの男は重圧に耐えきれずお前たちを捨て、女を作って逃げたじゃないか」
盛晴の視線が清香を射抜く。
「誰の目にも明らかだ。――清香。お前の結婚は失敗だった」
清香の表情は変わらない。横で聞いている晴永の方が腹立たしさに表情を強張らせてしまう。
(親父を許したわけじゃない。それでも母さんは――)
清香は離婚後も角宮姓へ戻らず、新沼姓のままでいる。
その理由を聞いたことはない。
けれど晴永には、そこに母なりの答えがあるような気がしていた。
コメント
2件
おじいさん、視野狭くない?
祖父の「お前と同じ過ちを繰り返そうとしている」という言葉で、母・清香の過去がぐっと現在に重なってきました。断固として「自分で選んだ人生を生きたい」と言い切る晴永の覚悟が清々しい一方、離婚後も旧姓に戻らなかった母の理由に思いを馳せるラストが切なくて。三代の選択がどう繋がっていくのか、続きが気になります。