テラーノベル
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盛晴はずっと晴永のことを〝角宮の人間〟として話しているけれど、厳密にいえば晴永は、〝新沼〟のままなのだ。
「ほら清香。お前からも言ってやれ」
盛晴は、清香が何も言い返さないことをいいことに、再び晴永へ視線を移した。
「恋だの愛だのに流された結婚が、どれほど愚かなものかを――。それを身をもって証明したのは、お前自身なんだからな」
しばらく、誰も口を開かなかった。
重苦しい沈黙だけが応接室を支配する。
やがて――。
「……お断りします」
静かな声だった。
だが、その一言だけで空気が変わった。
盛晴の眉がぴくりと動く。
「何だと?」
「その役目はお断りします、と申し上げたんです」
清香は父から目を逸らさない。
「私は晴永に、『恋愛結婚は失敗する』なんて教えるつもりはありません」
盛晴の表情が険しくなる。
「まだ分からんのか、お前は」
「分かっています」
即座に返す。
「私の結婚生活が、幸せなものではなかったことくらい」
晴永は隣の母を見た。
その横顔は驚くほど穏やかだった。
「夫は家庭を捨てました。私たち母子は置き去りにされました。あの人がしたことは、決して許されることではありません」
そこまで言って、一度だけ言葉を切る。
「……でも」
静かな声に、少しだけ熱が宿る。
「だからといって、私の結婚そのものが失敗だったとは思っていません」
盛晴が鼻で笑う。
「強がりだ」
「違います」
清香はきっぱりと言い切った。
「最初から結婚生活が不幸だったわけではありませんし、確かにとても幸せな時期もありました。それに……あの人と出会わなければ、私は晴永や晴留を授かることもありませんでした」
母の毅然とした言葉に、晴永は彼女の隣で息を呑んだ。
「晴永や晴留を育ててきた時間を、私は一度だって後悔したことはありません」
鷹槻れん

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#契約結婚
鷹槻れん

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盛晴は黙っている。
「泣いた日もありました。苦しかった日もありました。眠れない夜だって、数え切れないほどありました」
清香は小さく笑う。
「それでも、息子たちが『母さん』って呼んでくれるたびに、全部報われたんです」
晴永は思わず目を伏せた。
胸の奥が熱い。
「だから私は、自分の人生を失敗だったなんて思えません」
応接室に静かな声が響く。
「少なくとも、お父様にそう決めつけられる筋合いはありません」
その瞬間、盛晴の目が大きく見開かれた。
「……お前」
驚いている。
晴永はそう感じた。
無理もない。
清香が父である盛晴へ真っ向から異を唱える姿を晴永は初めて見たし、盛晴としてもそれは予想外のことだったのだろう。
母から聞かされて知ってはいたものの、盛晴の反対を押し切って、彼女が恋愛結婚を選んだという話が信じられなくなるくらい、清香は父へ従順だった。正直、晴永はそんな母を見るのが、もどかしくてたまらなかったのだ。
その母が今、真正面から盛晴の言葉を否定している。
清香は、静かに盛晴を見据えたまま、続けた。
「お父様はずっと、結果だけをご覧になります」
「……」
「夫が逃げた。だから失敗」
首を横へ振る。
「人間関係は、そんなに単純ではありません」
穏やかな口調は変わらない。
それなのに、一言一言がまっすぐ盛晴へ届いていく。
コメント
2件
お母さん♥
いやあ、この回はマジで胸熱だった……! 清香さんがついに父・盛晴に真正面から立ち向かったシーン、震えたわ。 「結婚そのものが失敗だったとは思わない」って母親の言葉、息子の晴永くん以上にこっちもグッときたよ。 穏やかな口調のまま、芯の通った反論をする強さがかっこよすぎる🔥 鷹槻れんさんの家族描写、解像度高いわ〜。次も楽しみにしてる!